第43話 ギリギリまで余裕ですけどいいんですか!?
俺は、恭子ちゃんにフラれた翌日、おばあちゃんの家に行って、俺の父親と母親にも会いに行った。
おばあちゃんは相変わらず元気な姿を見せてくれた。
入院した後、全然声聞けていなかったからちょっと不安だったけど、すっかり良くなっていた。
もしかしたら、入院する前よりも元気になっているかもしれないーー
というのも……
「え、ええええええ!おばあちゃん、東京に来るの!?」
「ええ、そうや」
「家は……どこに?」
「あ、一緒に住むとかそんなんちゃうから。そんなんな、おばあちゃんが勘弁してほしいわ」
「あは、そ、そうだよね」
どうやら、今回の入院を機に、父親が、おばあちゃんに東京に来るように行ったらしい。
俺の家の近くの施設に入るらしいけど、高いって。値段。
それでも、俺の両親は仕事で海外にいるんだって。
なぜか、いつもだったらスルーしそうなことをお母さんは聞いてきた。
「一樹は家事とかきちんとできてる?」
「ま、まあ」
「一樹のことだから心配になって、急に。だって、そんな家事とかしていたら冬場は手が荒れるわよ?」
「そんな荒れる?」
「なにゆうてんの。あんたの手ほんまキレイやなー!おばあちゃんの手見てみ!」
おばあちゃんの手はたしかに、少し赤くなっていた。
俺は……沙彩の手が頭に浮かんだ。
みんなで少し早めの夕食を取った。
その時にいきなり俺は父親に告げられた。
「お前、生活費減らすけど……いいな?」
「ちょっと待ってくれよ、俺は今でもギリギリの生活だからな!?」
「仕方ないだろ、一樹。ちょっとくらいおばあちゃんのために我慢しろ」
「おばあちゃんのためなら……仕方ない……か」
俺はおばあちゃんを盾に、生活費を減らされた。
でも、俺のおばあちゃんは本気で優しいのだ。
帰り際に、俺にこっそり耳打ちしてきた。
「おばあちゃん、おじいちゃんの遺族年金こっそり隠してんねん。あんたに小遣いまたそこからやるからな。安心しいや」
おばあちゃん、ありがとう。
♢
ちょっとだけ、梅田の阪急百貨店に立ち寄り、少しだけ買い物を済ませた。
そこまではみんなと一緒だったが、ここでお別れ。
俺は新大阪駅に帰ってきた。
中央口で待ち合わせをしていると、小走りであきさんが駆け寄ってきた。
「新幹線間に合う!?」
「大丈夫ですよ、あ、あきさんお酒飲んだでしょ?」
「ば、バレた……?」
「まーた変な男に捕まってませんよね、バーで」
「つ、捕まってなんか……す、すいません……つい年下の男に連絡先を……」
「あきさん。俺にも迷惑かかるんですからね?」
「……へ?」
「藤宮家に迷惑かかっちゃうと、俺にも迷惑かかるんですよ!」
「あ、ああ……………………そう……………………かな」
「ん?どうしました?行きましょう」
♢
新幹線の中でも、かずくんは前にも増してテンションが高い。
「でね、俺、フってあげるって言われたんすよ」
「フってあげるって高飛車だねー!」
「それだけ聞いちゃうとそう感じてしまうんですけど、違うんです」
「うんうん」
「あれは高木さんなりのエールだったのかなって」
「エール……?」
「はい。俺とあきさんに」
「あ、私なんかあれだから、もうサイテーの男に捕まってしまうバカ女だから……もう三十路だよ?どうすんのよって感じ」
「まだ若い……若い?……んだから……大丈夫ですよ」
「いっそ、かずくん食べちゃおうかな」
「や、やめてくださいよ、俺まだ人生長いんですから」
「そ、そうだったね」
あああああ。どうしよどうしよ…………このままじゃ、かずくん、沙彩ちゃんにフラれる……!