第42話 さらりと別れを切り出されてもいいのか!?
「恭子ちゃん……ごめん」
俺は、ここがデートの最後だって思うから、なんとなく謝っておいた。
「どうして一樹くんが謝るのよ?」
「あ、いや、どうしてって……」
会話が続かない。
当たり前だ。
正直なところ、俺は今でも恭子ちゃんのこと好きだし、恭子ちゃんも俺のことを多分好きだと思う。
だからせっかくこんな冬のイブの最高のシチュエーションなんだからもっといっぱい話してみたいと思ったし、そうしようと頑張った。
デートスポットってところは一応押さえたし。
恭子ちゃんも楽しそうだった。
でも、それだけ。
朝からずっと恭子ちゃんとの間に見えない壁があった。
笑っても、笑ってない。
「一樹くん」
「はい」
「フってあげる」
フって……あげる?
ど、どういうことだ……俺は今、恭子ちゃんにフラれた……?
「フってあげる……ってどういうこと?」
「そういうこと……あ、そんな暗い気持ちで考えるんじゃなくってさ、ほら、最初っから多分一樹くんのことちゃんと好きだったのは好きだったんだけどさ」
「う、うん」
「好きだから……こそ、一樹くんのこと思うとさ、私今日1日でもう冷めちゃって」
「冷めちゃった……俺に?」
「ううん。あのバカ親父。あいつさえあんなことしなかったら。私、嫌なんだ、キレイな恋がしたいなって思って。たとえ、こんなスッキリしない気持ちのまま付き合うことになっても、絶対良くないよ。一樹くんも浮かばれないし、私も」
「俺たちのこととさ、恭子ちゃんのお父さんのことは関係な……」
「あるよ!……あるよ、大アリだよ……一樹くんがあの亜希子さんって人のことを大切に思っているってことはあの朝の数十分でよくわかった。伝わってきたよ、はっきりと。それから……2人でいる時に微妙な空気になって一樹くんがすっごい私に気を遣っているのもよく……伝わってきた」
「そ……う、か」
「だから……優しい一樹くんのままで私はいいの。これで……いいの」
「なんか……ごめん」
「謝ってる?一樹くんすぐ謝るけどそんなんじゃダメだよ?」
「……えっ?」
「また悪い女に捕まっちゃうから。今日ランチの時にさ、話してくれたじゃん。小さい頃の祭りの話、迷子になったっていう」
「した。あ、でも俺の思い違いでさ、あれは恭子ちゃんだったって」
「ウソついた!……大体そんなの私じゃないことくらい分かるでしょ……分かってたんじゃない?本当は。悪いやつだね、私って。騙し切ろうとしてしまったんだし。私にだってね、その女の子、心当たりあるよ。だから……少しだけずるいことしたよ、私にだってプライドあるから。負けたくないもん、その女の子に」
「こ、心当たりあるって」
「えーっと、藤宮……沙彩ちゃんだっけ?」
「う、うん。知ってた……の?」
「ちょっとね、知ってた。その話も彼女のことも」
「なんだよ、それだったら言ってくれれば良かったのに。はっきりそうだって。だからって俺どうこうしないし」
「……ふふっ、優しいんだね、一樹くんは」
恭子ちゃんも俺も笑っしまう。
恭子ちゃんはなんでも地元が沙彩と一緒だったらしい。
少しだけ親同士知り合いだそうだ。
俺は、沙彩のことを聞くうちに、これまで聞いてきたことと違うことも耳にする。
でもーー
フラれたとはいえ、デート中に他の女の子の話をしてしまう俺は最低なやつだとは自分でも思ったけど、俺の中では沙彩のことをもっと知りたいという気持ちの方が大きかった。
あらかた聞き終わったところで、恭子ちゃんが時計をちらっとみる。
俺はここらが潮時かなっと思う。
俺は、コップ一杯の水を飲んでから言う。
「俺……フラれたかな、完全に」
「そうだよ。だから……綺麗サッパリ別れよ?」
「……うん、恭子ちゃん。今までありがとう」
「ありがとう、じゃあね」
「じゃあな」
恭子ちゃんは、綺麗サッパリ別れよ?、と言った時に後ろを振り返ってから、俺の方を見ることはない。
♢
俺は、寝る前にあきさんのホテルに電話をかけ、お別れしたこと、でもそれはあきさんのせいなんかじゃないということを伝えた。
あきさんは俺のことを励ましてくれる。
でも、言葉の節々に切なさがあきさんから伝わってくる。
今からあきさんのところに行って話を聞こうと思ったけど、1人にしてと言われる。
その気持ちは僕にも分かる。
俺は、フラれた。
このことだけがずっしりと意識の中に入り込んできたけど、なぜか、沙彩のことが思い浮かぶ。
不思議と。
布団の中でも、沙彩のことを眠りにつくまで考えていた。
俺は、ずっと前からずっと沙彩のことが好きなんだって。
俺は少しだけ自分のことが嫌になってしまうけど、寄り道をしてしまっただけだと思うしかなかった。
沙彩からしたら信じられないけど、こうでも思わなきゃ、やってられなかった。
沙彩に俺は気持ちを伝えたいと思った。
俺は、都合のいい男だと自分のことを思ってしまうけど、それでも……
それでもやっぱ、沙彩が……好きなんだ。
俺のそばにはいつも沙彩が……いた。