第40話 少しくらいズルくて悪いですか?
俺とあきさんは並んで新幹線の座席に座っている。
すでに品川を過ぎており、線路と車輪がこすりあって高周波を出す。
「それでかずくんは心当たり全くないの?」
俺はあきさんに質問攻めにあっていた。
沙彩と俺のこと、根掘り葉掘り聞いてくる。
こんなの珍しいな……
「小学校1年生のときでしょ?」
「そう。物心ついているんじゃないかな」
「そんなことありました?俺が沙彩を助けた……うーん、思い当たる節はない……」
「そっかー。ヒント」
「ヒント?」
「花火」
「花火……?花火……花火……ん?」
そういえば……小さい頃迷子の女の子を助けた覚えが……
花火を一緒に見て……帰りがけにお母さん見つかった……
お母さん……お母さん……
まてよ。あのお母さん見覚えあるな……
あの顔って沙彩のお母さん……?
「えっと……沙彩……ですか?」
「うん」
えっ……あの時の女の子が沙彩……?
俺が小さい頃からずっと思い浮かべていたあの女の子が……沙彩。
結構あれは自分の中で、思い出す際に許可がいる思い出っていうか……
特別で……
不意に思い出すこと以外には……自分の中で隠していた。
「知らなかった?」
「いや、わかっていなかったっていうか」
「そっかー」
沙彩……
「ま、だからって言ってかずくんにどうこう言うつもりはないからね」
「そうですか……あきさん、やっぱり……俺って沙彩にひどいことばっかしてしまったんだなって思っているんです」
「そうなの?」
「ええ、沙彩が俺をずっと助けてくれていたことも全然知らなくて俺めちゃくちゃ言ってしたり、あ、前に気持ちを言われたときなんか勝手に沙彩がそんなわけないだろとか自己完結して態度を悪くしてしまったり……俺って最低な奴だなって、思うんです。いろんなこと振り返れば振り返るほど、申し訳ないっていうか、自分がみみっちい、嫌なところが全部出てしまって。でも、俺を成長させてくれたりちゃんとひとりで考えて行動できるようになったのは、沙彩のおかげです」
「ふふっ」
「どうかしましたか?」
「それって、沙彩ちゃんのこと好きって言ってるんだよ?」
「あっ……あきさんそんなこと言われると……」
「大阪にいる子と沙彩ちゃん、私は分かんないけどかずくんの中で踏ん切りはつけといた方がいいと思う」
「はい。だから、俺も恭子ちゃんにちゃんと会う約束して」
「そこからは聞かない」
「はい」
「帰りの新幹線、言った通り?」
「はい。最終から1本前の新幹線です」
「クリスマスの?」
「だから東京駅には夜の11時くらいには着くと思います」
「うん、かずくんも考えたんだ、ちゃんと」
「見抜かれちゃいました?」
「うん」
「あきさんはどうするんですか」
「秘密」
「帰りには教えてくださいよ」
「分かった」
新幹線は、それから小一時間走り続け、新大阪駅へと入っていった。