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第4話 こんな出会い、運命だよね?

ブクマ、評価をしていただき、ありがとうございます。





事前に呼んでいたタクシーの運転手が、俺に声をかけてくる。


「お客さん……乗らはる?」


「……あ、はい」



農道をガタガタ揺られながら、おばあちゃんの家に向かう。


着く頃には、いつものようにテンションは上がっていた。


おばあちゃんはいつものように迎えてくれた。


「ひっさしぶりやなあ!」


「久しぶり。おばあちゃん、元気にしてた?」


「ピンピンしてんで。さ、冷房効いてる部屋、はよ入りい」


和室に荷物を置いて、入れてくれた冷えた麦茶を飲む。



「……なんか様子、変やな……?なんかあったんか」


「いや、別に……あれ、俺って少し変かな」


「いつも変やで……ってそんなことあらへんて、落ち込みなや。嘘や」


「もう、おばあちゃんは冗談ばっかりだから」


おばあちゃんはいつもどおり通常運転。


「堪忍な……ほんで東京ではどうや?」


「まあ、ひとりで頑張ってるよ」


「学校はどうなん?」


「まあ、楽しいよ」


昔みたいに外を走り回ることはしないで、家の中でゆっくりくつろぐ。


夕食は、魚好きの俺のために、刺身の盛り合わせ。


その後、縁側に座って、読書に没頭する。


蚊取り線香が、匂う。


そして、俺は、あの子の姿が忘れられなかった。


とてつもなく、儚い、儚い恋だろう。


あの祭りから、もう何年経っているんだろう。


だいぶ前の話なんか、やっぱり忘れてるよな……。またいつか、あの子に会いたいな……。






瞬く間に楽しい時は過ぎ去ってーー


もう、3日目の夜。あの、お祭りがやってくる。


おばあちゃんは、張り切っている。


「なんや……あんた、どないしたん。いっつも喜んで縁日行くのに」


「あ、いや……」


「はよ行くで!」


あの日と変わらず、元気なおばあちゃんはすごいと思う。


「よっしゃ、おばあちゃんも勝手に動くから、祭りの後、勝手に家帰りや!」


はは、おばちゃん連中で楽しんでください……って巻き込まないで!


「あら〜、かずくんやないの!ええ男になって」


「あ、はは……ありがとうございます」


「あんた、背ぇ高なったなあ!」


「あ、はい、どうも」


「ええ男やないの……顔もええし、大人っぽいしな」


「はは」


「照れてやんと、男らしい、胸張り!」


「は、はい」


どっかさっさと行けーー!




10発、叩かれて、やっと絡みから脱出することに成功した俺は、毎年のように出店を回っていく。


馴染みのオッチャン。


「お、久しぶりやな〜!弾数、オマケしたるで」


「ありがとうございますー!よし」


構えて、15連発。


「おっしゃ!」


「ようやった、ボクすごいなあ!」


オッチャンから、景品を受け取って、射的の店を後にした。


その時、後ろから声をかけられた。



「ちょっといいですか……?」



俺が振り返るとーー


そこには、駅で会った、あの時のあの子に似た、女の子がいた。










「あのう……これ落とされていましたが……?」


「あ、ありがとう」


射的で盛り上がりすぎたからだろうか、どうやら俺はハンカチを落としていたらしい。






ゆ、夢にまで出てきた子が、ここにいる。


やっぱり、あの時の女の子にすごく似ている。


俺はここであのことを伝えるべきなんだろうか……言うべきではないんだろうか?


もしこの女性があの時の女の子ならば、こんな奇跡は滅多にないことだろう。




あの時のようにピンク色の、艶やかな浴衣。


裾から先のすらりとした、右手には金魚すくいの袋。


あの時を彷彿とさせるような、デジャブ感。



それにしてもーー


東京でも、これほどまでの、美少女は見たことない。


輪郭のくっきりとした、その顔立ちに俺はとても惹きつけられた。


たしかおさげだった髪型は、ショートカットに……。


彼女は小さい頃の面影を少しだけ目元、口元に残している。




俺は、もう戻れない……どうしようもない恋心を抱いてしまった……。



この感情は、外に表れてやしないだろうか。


彼女に悟られてはいやしないか。



そして、彼女からとんでもない提案が飛び出した。




「一緒にお祭り、まわらない?」




俺は、こういうものは、男から誘うものと思っていた。


ましてや、これほどまでに美しい女の子は、易々と男を誘わないだろう。


ちょっと、望みを抱いてもいいのかな……?



「ほら!」



差し出してきた真っ白な手に俺は引っ張られ、彼女に連れられる。


「わたあめ、食べよ?」


「すいません、2個お……」


「1個で」


「ど、どうして一つなんだ?」


「いいのっ!半分ずつ食べよ」




「金魚すくい、もう一回してもいい?」


「よし。これは俺の得意なことだ。2人分、お願いします」


「あいよ!彼女さん、綺麗だから一本オマケやで!」


「ふふふ、彼女さんだって?」


「な、なんてことサラッと言ってるんだ?」


「いいじゃん」




「ちょっとお腹すいた、よね。お腹鳴ってるもん」


「き、気付いたのか!?」


「分かりやすいよ。そこのたこ焼き!……すっごい美味しいよ」


「おっちゃん、6個入りひとつ」


「違う!おっちゃん、10個入りひとつ」


「……おっしゃ。お嬢ちゃん、ようわかってるからオマケや!6個の値段でええ」


「い、いいんですかあ?」


「男に二言はあらへん!……ほら。あったかいうちに早よ食べや!」


「ありがとうございます……って爪楊枝、一本しかないんですが」


「細かいことはいいの!ここにいたら、迷惑だから、そっちにいって食べよ」





「あーん」


「……ちょ、ちょっとまままま待てってば」


「……おりゃ」


「ふぁふぁ……あふぃあふぃ……あついじゃんか」


「ははははは……!」


「そんな腹抱えて笑うなよ……ほら、仕返しだ」


「……いきなりはダメって!……あっつ!」





「もうすぐ、花火だね……ねえ。誰もいない秘密の場所があるんだけど、そこ、行かない?」


「(ゴクリ)……い、行こうか」


「随分歩くんだな」


「ぱあっと見渡せるの、なかなかないんだよ」


「ま、そうだな」


「……ここ」


「本当、誰もいないな」


「あ!始まったよ」





小さい時と同じく、2人横に並んでいる。


花火に映し出されたスクリーンに広がる、彼女の笑顔ーー


だ、ダメだ……目が焼けてしまいそう……。





花火の打ち上げも終盤に差し掛かったところでーー


「少し、いい……?」


「なんだ?」


「あ、あの……これ、私の、で、電話番号なんだけど……もらってくれる?」




俺は頭が真っ白になった。


で、電話番号をく、くれるのか……!



「い、いいのか?もらっても」


「うん!」


おっしゃあああああああああああああああああ!


お、女の子の電話番号なんて生まれて初めて手渡された。





そして、次の瞬間、俺は、人生初の言葉を告げられた。




「あなたのこと……ちょっと好きになったかもしれない」





ま、待てって……い、いきなり、告白!?


お、俺のこと……す、好きになったかもしれないって……………………!?


お、俺はここでどうするべきなんだ!?ちゃんと好きだって言った方がいいのか!?


し、しっかりと伝えなければ、いつ伝えるんだ。流れで言っちゃえ!




「……お、俺も、す、好きだよ」




「そ、そう……よかった」



最後の一発らしい花火が打ち上げ終わり、お祭りは終わった。



全然息苦しくない、沈黙が俺たちを包む。



「…………楽しかったね……今年の祭りは」


「そ、そうだな」


「ねえ……また、電話してね」


「ああ」


「絶対だからね」


「家、帰ったら電話するから」






その場で、2人は別れた。


俺は人生最高の気分でおばあちゃんの家に帰った。


「ねえ、ばあちゃん、電話していい?」


「どこかけるん?」


「ちょっと……と、友達ん家」


「ほなあっちの部屋行ってき」


「うん」



俺は部屋を移動して、電話機を見ると……


「ば、ばあちゃん、これ、すっげーじゃん。コードレス!?」


「なんや、東京の方がそんなんは早よ取り入れはるんちゃう?」


「まだまだだよ。これ使うの初めてでさ」


俺は新技術に怯えながら、電話番号を押して、電話を掛けた。




どうか、親が出ませんように…………お願いします……!





「……はい、もしもし、高木です」



はあ、良かった……あの子の声じゃんか。



『あ、もしもし。あの、さっきの……俺だけどさ……今、電話いい?』


『電話、してくれたんだね!ありがと』


『ああ……苗字って、高木って言うんだな』


『そうなの。じゃあさ、私の名前、当ててよ』


『そうだな……みさこ……ちゃんか?』


『ハズレ。こ、だけ合ってる。恭子です。君の名前、教えてよ』


『俺の名前、まだ言ってなかったな。俺は、新田一樹にったかずき』


『一樹くんって呼んでいい?』


『あ、ああ。じゃあさ、俺、恭子ちゃんって呼んでいいか?』


『うん。もちろん……あ、ちょっと親、呼んでるから、そろそろ』


『ああ、ま、またな』


『たまには電話、かけてよ?一樹くん、こっちに住んでるんじゃないみたいだから』


『ん?ああ、俺は、東京に住んでいる』


『やっぱり……言葉、全然違うもんね』


『そうだ、俺の電話番号、言っとく』


『あ、ちょっと待って……うん、いいよ』


『ーー番だけど、メモ出来た?』


『うん。それじゃあ、たまに電話でもしようね。じゃあね』


『じゃあな』



ーープープープー。



恭子……ちゃん……か。


言葉違うって言ってたけどさ、恭子ちゃんも関西弁じゃなくて、標準語なんだよね……?


おっかしいな……ま、いっか。


そんなことどうでもいいじゃん。


ちょっと好きになったのかもしれないって……!


むず痒いぜ。あああああ、次、いつ会えんだろ……冬ぐらいに行こっかな……。








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