第39話 好きになる気持ちって理由いらないから
短く、申し訳ないです。
あきさんは、興味津々といった表情で私を見てくる。
薄っすらと笑みをたたえている。
「えっと……えっと……」
「ゆっくりでいいよ」
「いっぱいありすぎて……」
「うん」
あきさんは優しい眼差しで私を見つめてくる。
まるで、全部わかっているんだって言いたげに。
「一樹は覚えていないって言ったんですけど、小さい頃一樹にいっぱい助けられたんです」
「幼稚園で?それなら私も知ってることあるよ」
「いいえ、お祭りでなんです」
「お祭り……どこの?」
「大阪の、小さなお祭りで。私が迷子になってしまっていたら一樹がずっと一緒にいてくれて」
「優しいんだね」
「花火、きれいでした」
「忘れられないって感じ?」
「ええ。一緒にいて、それで私……ませてたのかな、あの時からずっと一樹が好きになったんです」
「大阪でってどういうこと?」
「それが!たまたまなんです!本当、ビックリして。一樹、横の家の男の子だったんです!……あっ、私幼稚園で東京に引っ越してきたんです」
「ウッソー!そんなことあるの!?」
「運命、運命も運命だって思って。こんなこと多分私くらいじゃないかな、日本で」
「かずくんはそんなこと、忘れてるんじゃない?」
「でも……忘れていないかなって信じている。心の奥底で憶えていてくれているって思っているんです。あんなに……人……というか、男の人に優しくされたの初めてだったんです……ほら、お父さん単身赴任だから」
「そうだったのね」
「はい……」
「初恋?」
「私にとって……だけですけど。一樹は今大阪にいる女と初恋してるんですよ、あーあ、どっこで間違えちゃったんだろ……恋愛に間違いもなにもないですけど」
♢
「ねえ、もうそろそろ出発?」
「ああ、そう」
「一樹、大阪のお土産待ってるから」
「沙彩の好きなもの買ってきてやるから」
「ちょ、ちょっと素直過ぎない?」
「なにがだよ」
「ほら、『食い物のことばっかり考えてんだな』とか憎まれ口叩いてくれないと調子狂うじゃん」
「俺をそんな底意地の悪い奴だって印象付けないでくれ」
「だって底意地悪いじゃん」
「またそれかよ……お土産減ったからな、今」
「いいですよーだ、あきさんがいるもんね」
「あっそう。じゃあ、俺蓬莱買ってこなくていいんだな?」
「ちょ、ちょっとおお!だ、だめ、それだけは買ってきて!」
「ん?」
「ご、ごめん?あ、あのう、私が悪い?から……」
「じょ、冗談だって。真剣に謝んなよ」
「もう行く時間だから。ほら、さっさと動いて!」
「お前もしかして寂しいのか?」
「寂しくないもん」
「目逸らすなよ」
「逸らしてないもん」
俺は、黙って手を振り、あきさんと一緒に東京駅へ向かった。