第37話 変わってくる気持ち
『彼女が幼馴染だと知らない俺は泣きをみる』の誤字報告ありがとうございました。
お礼言うの忘れてましたが、いつも誤字報告して下さり、ありがとうございます。
俺は、今日も夕食を藤宮家でお世話になっている。
「ありがとうございます、あきさ」
「一樹?言ったよね、昨日。今日のご飯は私が作るって」
「あっ、そうだったな。いつもありがとう」
「意外にも素直じゃない」
「そんなんじゃないからな、誤解すんなよ。お世話になってるからありがとうって言ってるだけだからな」
「こちらこそありがとうございますぅ!お礼言われたのはいつぶりなんでしょう!」
「だからごめんって……沙彩がさ、身の回りのことしてくれなきゃ俺どうしようもないってちゃんと分かったから。なあ、ごめんって」
「あきさんは一樹反省してると思いますか?」
「う、うんっ?反省してるんじゃない!?」
♢
昨日、デパートで姿を見かけたから声を掛けて見ようと思ったけど、思いっきり服の裾をあきさんに引っ張られた。
「ちょっとあきさん、あれって一樹ですよ!デパート来るんだったら声かけてくれればよかったのに」
「沙彩ちゃん、食品売り場であと10分でタイムセール始まるから行かなくちゃ!」
「えええ、一樹いるから……」
あきさんは、一直線に走っていくので仕方なく私は後ろ髪を引かれる思いでついていくことにした。
♢
帰宅するも、まだ一樹は家に帰っていないようだった。
「あ、そういえば」
私は、テレビを見ているあきさんに聞いてみる。
「あの」
「ん。今いいところ」
「なんでデパートであんなに急いだんですか?」
「え、タイムセールに間に合わないって思って」
「でも私も引っ張って行くことではなかったじゃないですか。一樹に話かけたかったなあ」
「沙彩ちゃんには悪かったと思ってる。だからかずくんの洗濯物も取り込んで畳んで置いといたから」
「えええええ!あ、まずいですよ……」
「あっ、ダメだったかしら……勝手にしちゃダメだったかしら」
「午後に干したばっかしだからまだ乾いていないですよ……どうしよう……」
♢
えええええ、乾いていなかった!?
タオルとか触ったけど乾いていたような……乾いていないような……。
午後に干しても冬だから乾かないわね……。
デパートで沙彩ちゃんにプレゼント買うって聞いてたし……どうしよ。
紙袋見えたら絶対『これ私に!?」とか言ってかずくんを茶化すに決まってる……
帰ってくるタイミングで沙彩ちゃんと出くわしてしまうとまずいし……
私がうっかりしていたから!!
どうすれば……あっ!
「沙彩ちゃんはかずくんのお世話はちょっとお休みしない?」
「どういうことですか?」
「私がかずくんのことするから沙彩ちゃんは家でゆっくりしてほしいな。あ、なんでかっていうと、住ませてもらっているから」
「いいえ、一樹の面倒は私が見るので。あきさんは手助けしてくれれば」
♢
私が一樹の洗濯物を綺麗に干し直して乾いているものそのままに。
「あきさんってどこかマヌケなんだから」
そうしていると一樹が帰ってきた。
「あっ、おかえり!」
「ちょ、さ、さああや!?お前帰れよ!!」
「か、帰れって!?今洗濯物してたんだから」
「今すぐ帰れって!!あっ、そのまま動くなよ、俺が靴取ってくるから玄関じゃなくてリビングから帰れよ」
「はあ?どういうこと!?」
「いいから黙って待ってろって、な」
「…………わかったよ」
一樹は右手で靴を片手で持ち上げてリビングの窓を開けて私の靴を放り投げた。
「ちょっと、人様の靴をそんなに雑に扱わないでよ」
「お前、勝手に人ん家入んのもうやめろって」
「やめろってどういうことよ!?じゃあ一樹は家事とか全部できるんだね!?」
「ああ、いいさ。やってやるよ」
「ふん!じゃあ、一生やってやんないんだから」
♢
俺は啖呵を切ったものの、すぐに困った。
寝られない、今日。このままじゃあ。
恥を忍んで、藤宮家に電話をかける。
『あっ、ちょっとだけいいか?』
『ただ今留守にしております。ご用の方はピーという発振音が鳴りましたらお名前と御用件をお話し下さいー』
『ちょ、俺だけど』
『もう一度お伝えします、ただ今留守にしております』
『しょうもないことやめろよ……いや、あのさ、タオルとかってどこ?教えてほしいんだけど。あ、ほらさ、あの時はさ、悪かったから、謝るからさ』
『…………悪いって思ってる?』
『ああ、思ってるからさ。ごめん。だからさ、沙彩も機嫌直してくれって』
『わかった。じゃあ、そこで今すぐ逆立ちして』
『こ、ここで……?』
『今すぐしないと一樹と一生喋んないから』
『わ、わかったよ。じゃあ、する』
♢
急いであきさんに受話器を渡し、庭から一樹のリビングを見る。
案の定一樹はリビングのカーテンすら閉めてないし。
丸見えで……あ、やっぱり一樹は逆立ちしてない。
してるフリだけしてる。
やっぱりなー。
私は大きくばつ印を手で作ってあきさんに見せる。
あきさんは大きくうなづいて受話器を置いた。
一樹は大慌て。
ふと視線を外に向けた一樹と目があう。
「頼むって、どうか機嫌直してくれって」
「人ってね、気がついた後じゃ遅いこともあるんだよ」
「……俺分かったからさ」
「何が」
「沙彩がどれだけ俺のこと思ってくれてるとかさ」
「軽っ」
「いや、冗談とかそんなんじゃなくてさ。本気で」
「遅いよ、もう。だって…………だって」
「いや、俺さ、確かにさ、沙彩にいろんなこと言ったりさ、して沙彩のこと傷つけたりさしたじゃんか。でも、好きとか嫌いとかそういう話じゃないって最近分かって」
「…………はっきりしてよ。最後の最後まではっきりしないよ、一樹は。何言い出すのかな、って思ったらこんなこと話されても困るよ。もう」
「だから……」
「今日はもう帰るから、あ、ちゃんと準備だけはやってあげる。騒がれたら困るからだからね、一樹にほだされたからとかじゃないから。勘違いしないように」
「…………」
「本気で悪いって思ってるんだったら、態度で示してよ。私だって、気持ちはっきり示せないもん、これだったら」
「ああ、わかってる」
♢
それから、私がこちょこちょ動き回るのを一樹は黙って後ろから見ていた。
帰り際にはちゃんとーー
「沙彩」
「はーい」
「ありがとう。助かった」
「これで分かった?自分が何も出来ない人間だって」
「はい」
「目の前に置いてあるバスタオルにも気がつかないようではこれは困っちゃうね、未来の奥さん」
「お、奥さんって……意味のわからないこといきなり言うなよ」
「帰るね、おやすみ」
「おやすみ、じゃあな」
「明日、夜ご飯ちゃんと作ってあげるから私の家に来ること」
「はい」
私は一樹の家を後にした。