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第35話 おやつ②






一樹は、私のお誘いにひょいひょいとついてきた。


私がリビングのドアを開けると、エプロンは外して、キッチンからあきさんが出てきた。


「かずくん、ご無沙汰です」


「こんにちは、あき先生……あっ、あきさんって呼ぶんでしたっけ」


「うん、先生って呼ばれたら恥ずかしいじゃん」


……ばか。


どうしてニヤけてんのよ。


「そ、そうですか?先生って言ったって先生は先生ですし。それに……」


「それに?」


一樹はまた至らぬことを言いそうな予感…………


「可愛いですし」


…………は当たった。


どうして私には可愛いって…………言わなくなったのよ。


それにしても…………年上が好きなの、一樹は!?


「か、可愛いってね、あきさんに言うのは失礼よ、一樹。大人の女性には美人ですって言わないとね、あきさんに怒られるよ!」


私は、一樹の顔を両手で掴み抑えながら訴える。


「お前、可愛いって言葉のどこがおかしいんだよ!あきさんはお前と違って可愛いんだよ!」


「な、なんて言った今…………!」


私が一樹のほっぺたをパシッと引っ叩こうと思った瞬間、あきさんは助け舟を出してくれる。


「かずくん。私、沙彩ちゃんは可愛いと思うな、私よりも。男の子だったら沙彩ちゃんのような女の子にはちゃんと気遣わないと。ねー、沙彩ちゃん?」


「あ、いや、あきさん、俺そんなこと思って言ったわけじゃなくて……」


「聞いた?一樹、その詰まった耳かっぽじっておくのよ」


「さ、沙彩が傷ついたんだったらごめん。いや、十分すぎるくらい綺麗だし可愛いってことは分かってるんだけど……」



さ、さや…………?



な、名前呼んでくれた?



綺麗って……言ったよね、今。



可愛いって……言ったよね、今。



私は、すべてのこと忘れて、顔を真っ赤にしていると自分でも思う。



一樹の顔なんかまったく見れないけど、少しだけ彼をちらっと見ると、彼も頭の後ろに手を当てている。


「若いっていいなって思う瞬間をまざまざと見せつけられちゃった、はい、じゃあデザートタイム!」


一樹は、テーブルの椅子をさっと引いてくれて、私に座るように促してくれた。


私はありがとうって言うけど、声にならない。


私の左横に座った一樹がこんなにカッコいいって思えるなんて…………


目の前に運ばれてきたデザートを食べ終わる頃には私はいたたまれなくなった。


「あ、あれだね、ちょっと私急な用事思い出したから出かけてくるね!」


リビングから出る間際で、あきさんを振り返って小さく手を振る。


でも、あきさんは一樹の正面に座っていたので、私から見えたのは一樹だけ。


なんでだろう、ドキッとしたような一樹は私に手を振り返してくれた。





一樹と亜希子は、沙彩のいなくなったリビングでデザートを食べている。


「あ、あのう……あきさんって今どうしてるんですか」


「今?そうね……職探しと気持ちの整理中……かな」


亜希子は付き合っている男との気持ちに終止符を打ちたいと思っているが、一度関係を持ってしまったからにはどうにかして会ってフってやりたいと思っている。


「仕事は……もう一度幼稚園の先生になったらいいじゃないですか」


「そんなの…………私にはもう資格ない」


「どうして?…………あっ、ご、ごめんなさい」


亜希子はフリンしている自分にどうしても後ろめたさを感じている。


ーーこのままじゃあ小さい子供ときれいな気持ちで向き合えないから


実は仕事などたくさんあるし、元いた幼稚園からも再雇用のお誘いはある。


複雑な亜希子の気持ちを機敏に汲み取った一樹は誤魔化すようにスプーンを口に入れる。


「かずくん、沙彩ちゃんのことどう思っているの?」


「ど、どう見えます?」


「うーん、どうかな?……分かんない、ふふふ」


「俺、これでも今絶賛トラウマを抱えてるんですよ」


「トラウマ?」


「ええ。実は大阪で知り合って付き合っている子がいて。この間も大阪で会ったんですよ」


「へー、かずくんプレイボーイだね」


「ち、違いますから。とにかく、それで、いつも会えないのに久し振りに会ってそれで別れたんですけど、別れた後に、彼女が俺とは違う男と歩いていて……」


「えええ!うわきされちゃったの?かずくんが!」


「そうと決まったわけじゃないんですけど。俺、だったら嫌だなってその時は思いましたよ」


「歩いていた……ね、どんな感じだった、その二人は親しそうだったの?」


「それはもう。で、俺、あれから彼女に電話しにくくて」


「ちゃんとふたりで話した?」


「あっ、それは話しましたよ。誰だったの?って聞いたら、そんな彼氏とかそんなんじゃないよって言ってました。口ぶりからもウソではなさそうでしたし。俺も信じてますんで、彼女のこと」


「すごい絆だね。どうしてそんな彼女のこと想っているの?」


「実は、小さい頃、大阪でお祭りに行ってて。それで彼女が迷子になっているところで俺と一緒に少しだけいて、花火を見たんですよね、その時の横顔が忘れなれなくて。ずっとずっと心のどこかで探していた人にめぐり合えたような気がしたんですよ、それがさっき話した彼女なのかなーって」


「迷子ね……ドジだったりするのかな、その子」


「そうですね……まあ、地元の小さな祭りなんだったんで。あんまり迷子にならないですよね、よくよく考えてみたら。花火見たときもなんかこう……」


一樹は自分の中にある違和感を感じている。


「変なこと聞いちゃったかな?」


「いえ、そんなことないですよ。ところで、俺、来週大阪に帰省するんですけど、あきさんどうします?」


「大阪ね……ちょうど私もそろそろあの人とも区切りつけないといけないって思ってるから。行く。私も」


「お別れ……するんですか?」


「そう。じゃあ、かずくんと一緒に大阪に行く」






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