第32話 軽い嫉妬
東京駅に着いた俺とあき先生は、俺が前に迎えに来てもらった場所に試しに向かってみた。
「かずくん、待ち合わせの場所決めとけばよかったね」
「そうですね、あき先生を歩き回せてしまって。迂闊でしたよ俺」
「ううん。かずくんは悪くないよ」
それでも見つからないので一旦駅構内まで戻ることにした。
すると、俺とあき先生に背を向けて帰ろうとしていたあいつがいた。
俺が声をかけようとすると、あき先生が俺よりも先に駆け寄った。
「沙彩ちゃん!覚えてる!?」
あいつがビクッとして後ろを振り返ると、あき先生に抱きとめられていた。
「あき先生だよ!」
「え、あ、あき先生!?」
俺がようやく二人に追いつき、事情を話すことにした。
「お前も覚えてるかもしんないけど、あき先生。幼稚園の時世話になったじゃん」
「……どうして一樹と一緒に?」
「沙彩ちゃんね、かずくんの家であき先生お世話になることになったの」
「ど、どういうことなの!?一樹!」
「お前、大きい声出すなって、ちゃんと説明するからとりあえず車乗っけてくれって。頼む」
「わ……わかったよ」
近くに路駐していた藤宮のお母さんの車に乗り込む。
助手席にあいつが乗り込み、俺とあき先生は後部座席へ。
「あらっ!一樹くん女の人連れてる……あら、見間違いかしら……あき先生ですか?」
「ご無沙汰してます!幼稚園でお世話になった後藤亜希子です」
「あき先生〜!どうして一緒なんですか?」
「それは俺が説明しますね。えっと、大阪でばったり出くわして。それで新幹線の席も横で、それでちょっとまあ、ワケありなんですけど、色々あって先生も俺の家で住むって」
「かずくん、誤解されちゃうといけないから全部話すよ。あの……藤宮さんが新田くんのおうちの横にお住まいということは知っていたんですけど、あの……仕事とかで困ってしまい、どうしようもない状態で。それで住ませてもらうってことに」
「一樹ってなんでこんなことするのかな?」
あいつは全くこの状況に納得していない様子。
あからさまに悪態をついている。
「おいっ、世話になったあき先生を助けるためなんだから別に問題も何もないだろ」
「あき先生、私の家でよかったら、ねえ、お母さん。一樹も別に家に女の人連れ込むことないじゃん」
「あき先生もそうしますか?」
「かずくん、藤宮さんの家でお世話になった方がいいよね?」
「あき先生もその方がいいですよ。俺、男ですし」
「そうよ、一樹もこれまで一人暮らしだったんだから。決定!あき先生、私の部屋の横空いてるから」
「あら。沙彩ったら、必死ね。あき先生に嫉妬してるのかしら」
「お、お母さん!なんてこと言うのよっ、あ、あき先生、すいませんね、ちょっと母がいたずら好きで困ったな」
あき先生も藤宮のお母さんも大声で笑っている。
「お前、あき先生に嫉妬してんのか?」
俺も面白がって聞いてみた。
「べ、別に嫉妬なんかしてないし。ただね、一樹がすきあらば女の人連れ込もうとするような、どすけべでど変態だってことはよーく分かったから」
「嘘ばっかし言うなよ。それに勝ち誇ったような顔すんのやめろ」
「図星だったんだ。一樹、あき先生にやらしいことしようとしてたんだ」
「なんだよ……」
「まあまあ、落ち着いて?かずくんも沙彩ちゃんも」
「若いっていいですね、あき先生」
「本当にそうですね」
俺の家と藤宮家の間に車は止まる。
「すいません、本当に。今日は助かりました」
「いいのよ。一樹くんも大変だったんだし」
あいつは俺の荷物を出さずに、トランクを開けたまま、立っている。
「夜中まで付き合わせてしまって悪かったな」
「いいよ。ほら、荷物とってよ」
「お、おう」
「納得いかない顔しないで、荷物は自分で取ってね。一樹は男なんだから。私、か弱い女の子よ?ほら、腕もこんなに細い」
「のくせして、バカみていな力で俺殴ってくるだろ、いっつも」
「誰がバカよ!」
「お前にバカっていってないだろ、お前のそのクソ力をバカだって言ったんだよ」
「二人ともご近所迷惑でしょ?明日も学校なんだし、一樹くん疲れてるんだから沙彩もくだらないことしないの」
運転席から怒られる。
「じゃ、じゃあね、一樹」
「ああ、今日はどうもありがとう。あき先生のこと頼む」
「うん。一樹も残念だったね。あき先生と同居、できなくて」
「嬉しそうな顔すんなよ」
「もう、早く家入ってよ。ほら」
俺を玄関まで背中を押して追いやってきた。
「じゃあ、また明日な。おやすみ」
あいつは口パクでおやすみと言って、帰っていった。
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