第31話 内情
「そうだったんですか……出会いは完璧ですね」
「うん、私もね、好きになっちゃって……その人のこと」
「止まらないですもんね」
「どうしていいか分かんなくて」
「ボトルは空になったんですか?」
「うん、それから私が電話して、あの人も電話してくれて。1週間ごとに会ったりして……どんどん好きになって、もう後には引けないの」
「ところで、相手は奥さん持ちってどうやって分かったんですか?」
「家に『不倫してるでしょ』という怪文書が送り付けられて」
「…………どうして相手からバレたんですか?」
「分かんない……それから、家に電話かかってきたの。『はい、もしもし』と言っても向こうは何にも言わないの。無言なの。こっちがいくらどなた様でしょうかって聞いても何も聞こえないまま電話が切れたの。それで、怖くなって」
「もしかして、それで不倫だって勘付いたんですか?」
「うん。私気付いたの。それで、彼に聞いたら、奥さんも子どももいるって」
「でも、それって…………実らない恋じゃないですか。どうするんですか?」
「そんなストレートに言わないでよ。だからもう東京で生きていくためには…………」
そう言って先生は、服を握りしめる。どう考えても目線は胸元に向けられている。
「かずくん家って、お金あった……よね、じゃあ私でよければ」
ダメだな…………これは先生終わっちゃう。
ていうか、不倫相手誰だよ。先生を弄びやがって!
「俺、高校生ですけど先生にはさすがに」
「ちょっとショックかな……」
「あっ、先生は可愛いすぎるんですけど流石に俺が」
「いや、本気にしないでよ」
「そ、そうですよね」
あき先生を家に住ませるとか意味が分かんなかったけど、自分でもこれはあんまりだと思う。
いいのかな、他人と一緒に住んでも。
ま、なんとかなるか。
だからーー
「…………いいですよ」
「ホント!?」
「何にも俺、先生にしてあげられないですけど、まあ、住むところはあるんで。親とか、まあ、適当に報告しとくんで。ま、俺を放ったらかしにしてるんで何にも文句もないと思います、大丈夫ですよ、安心してください」
「あ、ありがとう」
「先生、そんな俺に抱きつかないで……!」
俺は、あああ、釈迦の世界に行かなければならないのか。
先生はそれだから……ロクでもない恋に捕まるんですよ!
「私これからどうなるんだろうと思って大阪に行ったけど、彼、何にも言ってくれなくってもう捨てられちゃったのかもしれない……でもかずくんと出会えたから良かったのかな、大阪に来て」
「あ、でも俺の横の家にとんでもない幼馴染いるんで気をつけてくださいよ」
「何言ってるの。幼稚園の頃一緒に仲良くしてたから沙彩ちゃんとは。あー今どんな感じに大きくなってるんだろ」
「元気すぎて困ります」
「きっとやまとなでしこって言葉の似合う別嬪さんになってるんだろな」
「性格そんなよくないですよ」
「すっごい素直な女の子なんだろうな」
「実際会ってみるとそんな……」
「かずくんはきっとあの子の良さに気がついていないのよ。私は、12年前からわかってたのよ?」
俺は、足を伸ばし、座席に座りなおす。
「そんなもんですかね」
俺は、妙に引っかかる。
なーんで、大人と一緒に住むことになったんだろ。
まあ、流石に俺もあき先生とは何もない…………はず。
あき先生は一点を見つめてじっと到着を待っている。
あき先生は大きなあくびをした。
そして、東京駅へと新幹線は滑り込んだ。