第29話 偶然は突如として
俺がポツリと呟くと、横に座った女性から話しかけられた。
「新田一樹くん?」
……ん?
誰か俺の名前、言った?
「えっと、お、俺のことですか?」
「うん。私、覚えてない?幼稚園でかずくんが年長の時、先生だったんだけど」
「あ、あああああ!えっと……あき先生!」
「かずくん元気だったー〜!先生、嬉しいよ、覚えてくれてて」
「忘れるわけないじゃないですか」
「ひとり?」
「ええ…………って、もしかして、さっきインタビュー受けてたのって…………あき先生?」
「ううん、違うけど。声はテレビ局の人にかけられたよ」
「でも、そういえば…………さっき、ドアのところでいましたよね、彼氏と」
「は、恥ずかしいじゃない」
「まあ。あ、ところで、あの男の人とはどこで知り合ったんですか」
「えっと、大阪にたまたま遊びに来ていたら、ナンパされて。結構タイプだったからそのままーー」
「そ、そうだったんですか」
「うん。かずくんはどうして大阪に?」
「おばあちゃんが入院していて、それで」
「そうだったんだ……大丈夫なの?」
「ええ」
「ところで、かずくんって、もう高校生?」
「今高校3年生です」
「彼女とかいるの?」
「か、彼女ですか?…………ま、まあ、いな……いですかね」
「いきなりこんなこと聞いちゃってごめん。もしかして、彼女さんいるけど、険悪なムードになってるの?」
「昔っから、するどいですね」
「まあね」
「ええ、それはそうなんですけど。なんか、俺のことを相手が本当に好きなのかどうか分からなくて」
「そうなんだ、かずくんを周りの女の子はほっとかないよね。幼稚園の頃も、友達は男の子じゃなくて、女の子ばっかしでね。でも、本命っぽいのは藤宮沙彩って女の子だったかしら?」
「…………いや、そうでしたっけ?ああ、彼女と実は家が隣同士で、幼馴染なんです」
「へえー!じゃあ、もうラブラブだね?」
「いや、違いますよ。全然そんなんじゃないですから」
「アヤシイなー。この女ったらしが」
「そんなことより、先生はまだあの幼稚園の先生してるんですか?」
「実は、もう幼稚園辞めちゃった」
「そうなんですか!?俺、先生のことすっごい尊敬してたのに。面倒見がよくって、みんなともすっごい仲良くしてたじゃないですか」
「うん…………まあ、ね…………あ、でも今はちゃんと働いているから、別の場所で」
「よかったです。それに、ステキな男性もいますしね」
「う、うん。そのことなんだけど…………」
「どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもない」
「はい。あ、でも、俺、ひとり暮らしなんですよ」
「ええ!?そうなの?あのステキなお父さんとお母さんは?」
「アメリカ行ってるんです」
「あ、そうなんだ。でも、生活とか色々大変でしょ?」
「まあ、一人暮らしなんて慣れですよ」
「先生、かずくんと一緒に住んだら…………ダメ?」
あっ?
先生 と 一緒 に 住 む?
「すいません、先生、恋人と遠距離恋愛しているからって、そういうこと言っちゃうのは相手の方に……」
「かずくん」
「はい」
「私、今32なんだけど」
「はい、あ、そうなんですか。やっぱ若いですね」
「そういうことじゃなくて、かずくんとどうこうはならないかなーって」
「…………はい?」
「だから、一緒に住まない?」
「もう一回いいですか?」
「一緒に住もう」
「本気ですか?」
「本気よ。先生、かずくんのお世話だったらできるよ」
「…………俺、ちょっと疲れたので寝ます」
俺は、もうキャパシティオーバーだ。