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第27話 どうしようもない






「きょ、恭子ちゃん…………どうしてここに?」




俺は、後ろに並んでいた人に順番を譲り、列を離れる。


「あ、いや、御堂筋からJRに乗り換えるんだけど、一樹くんはどうしてここに?」


「ちょっと用事で。大阪に来てたんだ」


「そ、そうなんだ。だったら私の家の近くとか寄ってくれたらよかったのに」


「ま、まあ、けっこう急な用事だったから」


「そうなんだ……それでも、私、どこでも行ったのに。一樹に会うためだったら」


「…………ごめん、朝に大阪に行くって決めたくらいだから」


「そうなんだ……あれかな、もしかして、私に連絡取りにくかった…………の?」


「いや、そういうことではないんだけど…………」



この時、俺は直感した。


2人の間に、超えられないものがある。


大阪と東京との距離だけでは済ませられない、なんとも言いようのないものがある。


恭子ちゃんの気持ちが俺に向いているのか…………多分向いていない。



「なあ、ちょっとだけカフェでも入らない?」



俺がそういうと、恭子ちゃんは辺りを見回して、時計を探した。


時計の針は、7時を回っている。


「少しだけなら、いいけど」





俺は2人席で恭子ちゃんと向き合って座っている。


「連絡取らなくてごめん」


「一樹くんはそんな謝る必要ないから」


「時間大丈夫?さっき気にしていたけど」


「ううん。親に9時には家に帰りって言われているから」


「そうなんだ。あ、俺、新幹線の時間決まってないから」


「自由席で帰るの?」


「う、うん」


「…………」


「…………」


「ねえ、ひとつ聞きたいんだけど、いい?」


「う、うん」


「なんか最近悩んでいるの」


「どんなことで?」


「恋愛」


「…………びっくりしたじゃん。何を言い出すのかと」


「ねえ、一樹くんが、私だけ見てくれるならいいの」


「ど、どうした…………?」


「私のこと本当に好き?」


「ああ…………」


「本当?」


「本当さ。俺は恭子ちゃん一筋」



でも…………どうしてだろう。


直感的に、あのお母さんとはぐれた女の子は、恭子ちゃんではない気がした。


この夏、一緒に見た花火でも、あの時の花火には敵わない……


そんな気がした。



意識は、目の前にいる恭子ちゃんに向く。


「嘘ついてない?」


恭子ちゃんは、どうしてだろう、俺に念押ししてくる。


「ついてない」


「目泳いでるよ?」


「泳いでない」


「口、乾燥してるよ?」


「してない」


俺は、これは埒があかないと思ったので、伝票を握り、席を立った。


「そろそろ新幹線乗んなきゃ」


「あ、もうそんな時間?」


8時半を過ぎている。


もうすぐ新幹線に乗る時間ーー


「これ、払っとくから」


「いいよ。私も出すから」


俺は、黙ってレジに行って勝手にお金を支払った。




店を出て、改札口まで行く。


「ホームまでは来なくていいよ。あれ、家の門限とかある?」


「ううん。少しくらい遅れたって平気」


「そうか。じゃあ、俺、9時発の東京行きだから」


「次はいつ大阪に来たりする?」


「わからない。けど、冬休みには来ると思う」


「そ、そう。じゃあ、また連絡してね」


「バイバイ、気をつけて家帰れよ」


「うん。今日は一樹くん忙しそうなのに引き止めちゃって」


「気にすんなって。数分くらいじゃ、たいして変わんないんだから」


「じゃあね。また会おうね」



俺は、切符を駅員に渡して、入構する。


後ろを振り返ると、恭子ちゃんが手を振ってくれている。


俺もそれに応えて、手を振り返す。



俺の姿が見えなくなったら、恭子ちゃんも家に帰っていくのだろう。


俺は早足でホームへと向かった。





でも、ホームで待っていると、サラリーマンが弁当を食べている。


「あ、しまった……夜ご飯買うの忘れた」


俺はもう一度エスカレーターを降り、改札口横の売店に行こうとしたのだがーー




「…………うそ」



改札の向こうで、男と抱き合う恭子ちゃん…………






俺は、その場で立ち尽くしてしまう。


そして、彼女と目が合った。



「…………」



声は出なかった。


彼女も俺に気がついたようだ。


彼女は少しだけ、伏し目になったが、とっさに俺から目線を外した。


男はもちろん俺のこと知らないので、俺に気がつくはずもなく、そのまま彼女の手をとって、奥の方に消えていった。



俺は、彼女の姿が見えなくなるまで動けずにいた。


でも、新幹線に乗らなければならないことを思い出し、ホームへと向かった。











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