第21話 離れるふたり
「ごはん前に悪いんだけど……少し話があるの」
俺は、コップをふたつ持って、食卓の席に着いた。
「で、話ってなんだよ」
「そ、その…………えっと…………わ、私は応援してるから!」
「…………へ?」
「あ、だから一樹の恋、応援してるから!」
「…………こ、恋ってどういうことだ」
「いいの!私…………私は一樹のこと好き。ううん、好きだった。その……それもね幼馴染としてとかじゃ、無くて…………か、一樹を本気で好きだった!あ……だ、だからもうこれ以上苦しくなりたくないの」
「す、好き…………って?」
「これから私は隣にいる、ただの同級生って事で。だから、一樹はどこでどうしようが、私、何も言わない。でも、言う資格も元からなかった……とにかく、これからはさ、一樹は自分の恋に集中してほしいなあって」
「…………言ってる意味がイマイチわかんない」
「た、高木……恭子って子のことが好き……なんでしょ?」
「…………やっぱり、お、お前か…………そ、それをどこで」
あいつは、リビングをウロウロしながら話している。
「電話、聞いちゃった。あ、へへ、ごめんね?隠れて聞いちゃって。ずっとずっとずっと前から好きだったのに、いとも簡単に私は一樹の中から薄れていってしまったのに、遠く離れていても存在が濃くなっていっちゃう意中の女の子もいる」
「…………何が言いたいんだ」
「高木恭子ちゃん、私、知り合いなの。大阪で出会ったんだ、小さい頃。彼女、とっても素直で、明るくて元気で、愛想良くて、いっつも他人に気配りができる……私とは、正反対だった。なんかさ、一樹が惚れちゃうのも仕方ないかな?って。彼女だったら、きっと一樹も楽しいだろうしね」
「…………」
「あ、ご、ごめん…………長く話しちゃって。こんな私の話なんか聞きたくないはずだよね…………さ、最後にひとつだけ、いい?」
「…………な、なんだよ」
「私をフッて。お願い、気持ちに区切り、つけたいの。ほんと意味わかんないんだけど、自分でもどうしてか説明できないけど、お願い。一生のお願い、私をフッて!」
「…………はあ?」
「だって…………だって一樹は最初っから私のこと好きじゃなかったんだもん!こんなことおかしいかもしれないけど…………自分のしていること途中からお先真っ暗になったの。だから、何もしたくない…………ねえ、言ってよ、私のこと嫌いだって!」
簡単だ…………いや、簡単じゃない、そんなの言えるわけない。
「…………」
「一樹は最後の最後まで本当のこと私に言ってくれなかった。そんなのズルイよ!」
「い、いや、ちが…………」
「ごめん!」
「沙彩も俺の話聞けよ!」
「…………わ、分かった」
「俺は……元から、さ、沙…………お前の気持ちっていうか、そんなこと微塵も気がついていなかった」
「だからどうしたのよ」
「まあ……た、たぶんだけど、俺のこと、まだ、好き……だろ?」
「まだ一樹のこと、す、好きって、誰が決めたのよ」
「この期に及んでツンケンすんな…………で、俺は確かにお前のことちゃんと向き合ってもいなかったし、まあ、俺もいろいろお前に悪いなって思うこともある」
「…………そ、そう」
「俺は、沙彩を恋愛どうのこうの言う対象として見れないんだ」
「…………うん…………分かった、分かったから」
「ご、ごめん。なんかさ、でも、まあ、隣に住んでるんだし、これまで通りにしてくれたらって思うんだけど……?」
「そ、そんなの当然じゃん!だって、そんな一樹と私の仲はこんくらいじゃ全然かすり傷もつかないって!」
「そ、そうか?」
「最後までいろんなこと、ぐちゃぐちゃにしてごめん。一樹もごはん食べて、早くほら、明日も学校あるし、早く寝て!じゃあ、さようなら!」
俺が黙っていると、あいつは家を飛び出していった。
俺はひとり食卓に取り残される。
あいつがくれたほうれん草のおひたしは、ちょうどいい具合に味がしみていた。




