第20話 割り切って
母は私と一緒に夕食を食べていると、急に仕事、忘れてた!と叫んで突然家を出て行ってしまった。
せっかくの日曜日は、台無しになってしまった。
散らかったテーブルの上を片付けながら、私はいろんなことを考えている。
遊園地でのことーー
私がついうっかり、その名前を出してしまったくらい最近、高木恭子とかいう女のことを考えている。
そうよ、自分の中で、一樹との心の距離が離れていることなんて、百も承知。
きっと、私にはない、あの子の魅力に惹かれてしまった、一樹は。
一樹の前では決して失敗とか、かっこ悪い姿を見せまい、と思ってこれまで頑張ってきた。
でも、私は自分のために振舞って、全く一樹のことを考えていないのではないかーー
「あんな一樹と私は…………そうよ、私は一樹の足引っ張ってばかり」
一樹にかまってもらおうとして、空振りして、その傷心を治すことだけを考えても、きっと人の心なんて動かせない。
数日前、私は古い衣装ケースに入れてあった、幼稚園の卒業アルバムに掲載されてあった高木恭子の家の電話番号を見つけた。
数日前から、いつこの番号に電話をかけてやろうかということばかり考えていた。
一樹を、一樹の気持ちをあの女から取り戻す。そのためにだったらどんなことをしてもいい……そこまで覚悟してたのにーー
いつもそのことを意識するたびに、段々心はギュッと痛むようになった。
これって、失恋…………?
そこまで気づいてしまえば楽チンだった。
もう気持ちの整理整頓はついた。
一樹にフラれて、後腐れのない高校生活を過ごして、大学行って、新しい出会いを探す。
リビングから見える新田家の電気はまだ点いていない。
「まだ遊園地から帰ってないんだ…………」
すっかりさっぱり縁切って仕舞えばいいと思った自分は、ため息をついてしまう。
次の瞬間、電気が点いた…………あ、帰ってきたんだ。
私は、溜まったお皿を洗うためにキッチンに立った。
でも、ろくにごはんなんか作れない一樹のことが気になって仕方がなかった。
気がついたら、冷蔵庫にストックしてあるラップにくるんだお惣菜を持って、家を出ていた。
「やっべ…………家に帰ってもごはんなかったな…………」
一応、閉園まで遊園地を楽しもうということで、片手落ちの俺は3人で遊んだ。
それから、別れて家まで帰ってきたんだがーー
「冷蔵庫もなんもない…………ごはんくらい炊くか。よし」
その時、チャイムが鳴った。ピンポン、というワンフレーズだけ耳に入る。
少し声を張って、「はいはーい!」と来客に告げる。
ドアを開けると、そこには…………
「お前…………」
「はい、これ。今から夜ご飯かなー?って思って勝手に持ってきたけど、よかったら食べて」
「…………あ、ありがと。せっかくだから家、上がれよ」
「じゃ、じゃあ失礼するね」
俺は、軽くリビングを片付け、お茶を入れている。
あいつは、食卓にちょこんと座っている。今日はやけに静かだな…………
「お前はごはん済んだのか?」
「うん」
「そうか…………」
「ね、ねえ!」
「…………お?」
「ごはん前に悪いんだけど…………少し話があるの」
俺は、コップをふたつ持って、食卓の席に着いた。