第18話 物分かりの悪い俺
「あ、スタッフです…………あのこの方が気を失って倒れていると他のお客様からお知らせいただいたので私が出口までお連れしました」
…………あ、やってしまった。勘違いだった。
高木恭子ってつい言っちゃった…………。
どれだけ私は、高木恭子のことが嫌いなんだろう、最近、あの電話からずっと高木恭子のことで怯えている。
いちばん、一樹の近くにいるのは、この私なのにーー
私は一樹の方を振り返る。
「お前、とんでもなく酷い奴だな。こんな俺をお化け屋敷のど真ん中で放ったらかしにするとか」
「そ、そんな倒れるだなんて思いもしなかったもん!気を失ってたなんてカッコ悪すぎない!?男としてどうなのよ!本当に、あそこあるの!?」
「ふ、藤宮のイメージが俺の中で崩れるよ…………なあ、一樹も無事だったようだし、どこかで一服しないか?なあ、姫花」
「そ、そうよ。沙彩も新田くんも落ち着いて、ね?」
私は少し言いすぎたと思って反省していた。
俺とあいつは4人の中で端と端。
4人並んで歩いている。
俺の横には山田。
折角遊びに来たのに、こんな雰囲気なっちまって…………
「ごめんな。本沢に山田。俺のせいでこんなことなって」
「俺も俺で悪い。お化け屋敷に誘ったのはこの山田太郎だ。すまん」
「まあ、新田くん1人そんな背負わなくてもいいじゃない。沙彩も、置いてけぼりになんかするからよ?ちょっとは大人に……」
「そんなの出来ないよ!だって…………だって…………もうわかんない!」
あいつはいきなり走り出してしまった。
……………………。
「ちょ、お前待てって!」
「藤宮!」
「沙彩!?どうしたの!」
多分、家に帰ってしまったな…………最悪の結末、か…………。
「2人には悪いけど、遊園地、ここら辺で切り上げないか?」
「…………新田くんは沙彩を追いかけないの?」
「そんなこと、俺にはできない。今走っていっても、さらに怒ってしまうだけだろ」
「そ、そうよね、たしかに」
「なあ、一樹の家の横に藤宮は住んでるんだろ?せめて、家帰ってからピンポンでもしてやってさ、謝って仲直りしとけよ」
山田みたいに誤魔化せたら、楽なんだろうな、きっと。
「俺が何をあいつに謝るって言うんだよ」
「いや、だから、お前が…………まあ、確かにお前は藤宮に何にも言ってない……か」
「そうだろ?じゃあ、俺が謝ることないじゃんか」
「絶対違う!今回は新田くんが絶対に悪いから!」
「も、本沢…………」
「じゃあ、聞くけど、さっき沙彩が呟いてた、高木恭子って誰?」
ど、どうしてあいつがその名前を…………知ってるんだ?
…………あの電話の時にあいつ、会話を聞いていたのか?
ここでこの名前が出てくるのか?
「…………た、高木恭子って言われてもな。うちの高校にはいないだろ?そんな奴。中学校にも小学校にもいなかったな……」
「とぼけないで!新田くん。その子のこと好きなんでしょ?」
「あいつが言ってたのか?」
「そう!『私じゃなくて、その高木恭子って子のことが好きなんだ』って言ってたから。沙彩、泣いてたよ!」
ここまで言われたら、逃げられない。
「…………そうだよ。俺が好きなのはその子。だからなんだって言うんだよ」
バレてしまったものは仕方ない。
あいつもどこで聞きつけたんだか。別にあいつに関係ないだろ…………。
「に、新田くんは何にも分かっていないのよ!」
「もういいだろ、な、姫花。落ち着けって、な!おい、姫花!」
数歩進んで、本沢は振り返った。
「もういい加減、新田くんも気がつくと思ったんだけど、全然ダメだね!」
「…………」
「あんな無茶な頼み方した生徒会の仕事をすぐ仕上げてくれたりさ、そんなことは出来るのに、まったくひとの気持ち考えないじゃん!」
「…………」
「大事なもの、見失ってるよ。新田くん、もったいない。そこだけ方向間違えなかったら、すっごく魅力的な男なんだよ!」
「なあ、俺はどうなるんだ?姫花」
「太郎は黙っといて!」
「は、はい……」
「そんな新田くんのいいところに気がついているのは、沙彩だけだからね?」
「そ、そう……か」
「あーあ、スッキリした!言いたいこと言ったもん。新田くんもこんなことで凹まないでね?」
「ああ。なんか俺もここまで言われたら、さっぱりした。なんか俺、救われてばっかしだな…………まあ、俺なりに頑張ってみる」
「じゃあ、気分上げていきましょう!!まだまだ遊ぶからね!」
「なあ、一樹。俺っていい男?」
「ああ、もちろん……?」
「姫花に俺、どんな感じに思われてんだろう……?」
「太郎は大丈夫だと思うよ?ま、俺の言うこと参考にならないけど」
「俺、男を磨く!」




