第17話 思い過ごし
「次はどこ行くんだ?」
「お化け屋敷がいい人!」
「いや、俺は……」
「私もちょっと……姫花には悪いけど」
「太郎くんは?」
「お、俺は…………なあ、俺と姫花そして一樹と藤宮でペア組むっていうなら俺はお化け屋敷行ってもいいぜ、姫花」
本沢は、俺たちに合掌している。
「おい、本沢。お化け屋敷にはそんな頼まれたくらいじゃ…………」
「太郎くん。今回のチケットは誰が出したんだった?」
「はーい!俺でーす!」
「じゃあ、偉いのは?」
「俺、山田太郎です!」
「お化け屋敷には……?」
「行くべきだと思いまーす!」
周りの人たちに、思いっきり見られている。
このままこの寸劇をされたら恥ずかしくてたまんねーよ…………。
「ねえ、一樹。姫花も山田くんも乗り気だし、まあ、行ってもいいんじゃない?」
「ああ、そうだな」
「それでは、どうぞ!いってらっしゃい」
お化け屋敷にいるスタッフの人が俺らを送り出してくれた。
「新田くん、男らしい人ところ見せないとね!」
「本沢……誰に見せんだよ」
「一樹!ほら、行くよ!」
あいつは意気込んでいるけど、俺は人生初のお化け屋敷。
くるくるくる!と思っているところでまったく出てこないで、安心した途端、襲われるというところが苦手。
怖いことが分かっているのに、わざわざ突っ込んでいく意味はあるのか?
あいつは、まったく俺のことを気遣わないで、ずんずん進んでいく。
「ちょ、お前、早く行き過ぎだって……」
「一樹は男なんでしょー!そんな怖がんないで!」
「って言ってる矢先に…………うわああああああああああ!!」
「って、何もないじゃん。びっくりさせないでよ…………」
俺は腰が引け、みっともない姿になっているはず…………あいつの腰くらいの高さに頭がある。
目を瞑って、あいつを先にやらせて、俺は後ろをそろりそろりと付いて行く。
「まだか、出口はどこだ……なあ、さっきからずっと後ろの方でなんか動いているような感じがするんだが…………」
「…………」
「お前、なんか出てきそうだったら言えよ…………言ってくれよ…………ああああ、いつまで続くんだよ…………なあ、お前、もうちょっとゆっくり歩けって」
「…………」
「なんか言ってくれよ…………俺、前見えてないからさ…………なあ、周りってどんな感じになってる?」
「…………」
「全身が寒気を覚えてるよ…………俺もう動けないかも…………」
「まだお化け出てきてないから……」
「……あ、はは。そ、そうか」
俺は目を瞑っているので、周りがどうなっているかは分からない。
そうこうしていると、いきなりあいつは抱きついてきた。
「キャッ…………怖いよ!」
「おおおおおおお!お前びっくりさせんなって!」
「ちょっと痛い!そんな手に力入れないでよ!」
俺は、素の状態で震えながら歩いている。
「なあ、こういうのって途中で帰れたりしないのか?」
「そんなわけないじゃん」
「出たいよう…………出たいよう?ってどうした、なんか前にあんのか?いきなり歩くの止めるなって」
「ねえ、カッコ悪いからね!?」
「ど、どうしたんだよ」
「一樹のそんな姿、私見たくないよ!」
「ちょ、ちょっと待て。お前、いきなりお化け屋敷でキレんなよ…………」
あいつ、また怒ってんのかよ…………
「さっきからね、ずっと我慢してたけど。何なの?え?私、女の子だからね?普通さ、女の子盾にして先に行かせるってどういう神経してんのよ!」
「だから言ったじゃんか。俺、お化け屋敷は苦手だって」
「ぶつぶつ文句を言ってばっかし!」
「俺は本気で怖いんだよ」
「もう知らないから!勝手にしたら」
あいつは、俺を置いてけぼりにして、さっさと先に進んでいってしまった。
私たちより先にスタートしていた、山田くんと姫花のペアが出口にいた。
「あ、沙彩!どうだった?もう、怖くて、怖くて…………ってあれ?新田くんは?」
「…………途中で置いてきた」
「な、なに言ってんのよ?お、置いてけぼりにされたの!?」
「違う。一樹をどっか置いてきた…………だ、だってみっともなかったから」
「何してんのよ〜〜!」
「人生最低のお化け屋敷だったよ…………」
「沙彩、お化け屋敷なんてね、キュンキュンすること間違いなしだからね!?」
「…………ずっと一樹、私の後ろ歩いてたもん」
「たは〜〜これは手に負えないわ…………重症ね…………ねえ、飲み物何か買ってきてよ太郎くん!聞こえてる!?…………もちろん新田くんもみっともないけど、沙彩もね〜そんな態度をいつまでもとってる場合じゃなくなるかもよ?」
そうだよ…………そうだよ。
お化け屋敷に入らされて、お化けが出てきたときに可愛い女の子の反応みたいなことをいっぱいしたかったのに…………。
男って、女の子と、お化け屋敷に入るときなんて、怖さを純粋に楽しもうとは思っていないんじゃないの?
女の子の私が怖がれば、あわよくばボディタッチのチャンスがあるかもしれない!と思っているんじゃないの?
だから、私サイドとしても、ここはその欲望に思い切り乗っかってあげることにして「キャー!」と叫びながら、一樹の腕にしがみついて…………
怖がる私を「かわいいじゃん。守ってあげよう」と思ってくれるはずじゃないの……
ぜーんぶ、できなかった。
「お、藤宮。怖かったな!これ、ジュース」
「あ、ありがとう……」
「ところで、新田どうしたんだ。まだ出てこないのか?」
「私が置いてきちゃった……あんなに怖がっていたのに」
「それにしても、だいぶ時間経っているけど、一樹のやつ、大丈夫か?ここは俺が助けにいってやるか!」
私は、置いてけぼりにするのはやってしまったと少し後悔していた。
ジュースのラベルをじっと見つめている。
今日、ここに何しにきたんだろう…………。
すると、姫花と山田くんが、ひそひそ声で話しているので、少し気になって、2人の方向を見た。
「あーあ、これは新田くんもやってしまったわね…………もしかして隣にいるの…………」
「あいつ、誰と腕組んでいるんだ…………?」
2人が何を話しているかはわからないけど、そんなのどうでもよかった。
2人の向こうに見える、人影。
私は持っていたジュースをぽとりと落とした。
「高木恭子…………」
姫花と山田くんは、びっくりしたように私の方を振り向いた。
「藤宮、それ誰だよ!?」
「沙彩、どういうこと!?」
この瞬間、なにもかも、怖くなった。
運命が嫌になった。
一樹を信じられなくなった。
姫花と山田くんはすぐさま、一樹に駆け寄っていった。
「ちょっと新田くん、その子誰!?」
「お前、ょ、誰だ!?」
「あ、スタッフです…………あのこの方が気を失って倒れていると他のお客様からお知らせいただいたので私が出口までお連れしました」