第10話 こんだけ苦労します
「起きろ…………起きろって!」
「…………まだ寝るよ」
「もうお昼だから、俺、これ届けに行くから起きろ!」
「わかったよ……起きるよ」
朝ごはんは食べずに俺は学校へ行く用意をした。
あいつは……ソファーの上でぼーっとしている。
「さて……と、これで書類は終わったか?」
「すごいじゃん……一樹はやっぱ、頼り甲斐のある男だね!サンキュー」
「それでも時間かかっちゃったよ。今からさ、学校に行って会長に渡そっか。お前、今から行けるか?」
「あ……私、用事あるから行けない。ごめん、帰るね!」
「おい、待てよ……この束、1人で運ぶのかよ」
「ほんとごめん!親とさ、約束あるから……じゃあね!」
あいつ……走ってどっか行きやがった。
…………バンっ!
だから、ドアはゆっくり閉めろって……!
学校までは下り坂なので、握力がなくなりそうになりながらも運び切った。
今日は土曜日。部活に勤しむやつらの姿がたくさんみえる。
昇降口に、大きく乾いた音を立てて、荷物を置いた。
「重かった……」
「あら、新田くんじゃない……ひとり?」
土曜日にもかかわらず、学校に来ている、本沢会長。
お疲れ様です……!
「あ、ああ。今日も学校来て生徒会の仕事?」
「私はね。沙彩ったら、約束守らないから困るのよ。朝から集まりあるって言ってたのに……家に電話してもさ、繋がらないから」
家にいないってとこ、突っ込まれたら困るな…………あいつが泊まってたとか言えないしな……。
ま、ほっとくか。
「…………あ、これさ、この間の仕事が終わったから持ってきたんだ」
「うっそー!こんなの一人で持ってくるの、重かったでしょ」
「ま、家からは学校まで下り坂だから……じゃあさ、これどこに運べばいい?」
「最後までさせて悪いけど、生徒会室に入れてくれる?」
生徒会室の机の上にばさっと置いて、仕事、完了!
「正直、疲れたな……」
「新田くん、本当にお疲れさん。10月だし、全然暑くないのにね、汗出ちゃったね。頑張ってくれたから、はい、缶コーヒー」
「あ、ありがとう」
「いいのよ」
普通にブラックを手渡してくる。
「本沢さんって、砂糖なしで飲めるんだ」
「女の子だからって、バカにしてない?苦いのもね、好きな子結構いるのよ。誰もがね、苦ーいので中和させたい時もあるのよ」
「おもしろいね……本沢さんって」
「どういう意味かしら」
「いや、なんでもない」
「ちょっと聞きたいんだけど……新田くんって、好きな子とかいるの?」
「ま、まあ……」
「誰なのよ。ちょっと教えてよ!」
「……え?あ、いや、そういうのはさ……」
「新田くんって、とってもいい男じゃん。だからさ、私とかどう?」
「ど、どうって……?」
「高校生なんだしそんな深く考えないでさ、私たち、付き合っちゃう?ってこと」
「本沢さんのこと、まだ全然知らないしさ、ちょっと無理かな……?」
「私ってさ、沙彩には勝てないかもしれないけど、自分のこと、そこそこ可愛いんだと思っているんだけど……?」
「あ、ははは」
「やっぱ……その反応、私じゃ新田くんには物足りないか!」
「全然、そんなことねーよ……ただ好きでもないのに付き合えないってこと」
「付き合わなくてもいいからさ。一回、やっちゃう?後戻りできなくなっちゃうかも!」
「本沢さん、大胆だね。そんなの、絶対無理だから」
「…………これでも?」
やたらと胸を強調してくる、本沢さん。
「いや……ちょっと」
「真面目だね!……これは沙彩も苦労するって訳よ……そんな怖い顔しないでって。新田くんが、実はすっごいガラスみたいな心の持ち主だってこと、ちょっとだけかもしれないけど、分かった」
「いったい何が言いたいんだよ」
「なんか顔とさ、性格が結びつかないって感じ……誰かさんと一緒……あるところから勇気持って踏み出せないっていうか……こう……自分に素直になれていないの」
「…………」
「だから、新田くんも沙彩なんかに気遣わなくてもいいの。嫌なものは嫌って言わなきゃ」
「そ、そうかな」
「やだ、私ったらおばさんみたいなこと言っちゃって。ごめんね?もう18歳にしてスレてるかもしれない!じゃあね。じゃあ、時間も時間だし帰ろ?」
「お、おう」
「帰り、どっか寄っていかない?」
「あ、ちょっと俺、早めに帰っておきたいから、じゃあ。また」
「あら残念ね。さよなら」
帰り道、自分に向かってまっすぐ伸びる夕焼けが痛い。
自分に素直に…………ってどういうことだろう…………。
ガラスの心の持ち主って…………そんな風に俺、見えんのかな……。
嫌なものは嫌って言わなきゃ…………あいつに対する態度とか、そろそろはっきりさせないといけないのかな……。