第1話 バッドエンドの予感
新しく連載始めさせていただきます。
これからよろしくお願いします。ブクマ、評価、感想など、頂けたら幸いです。
「ご来賓の皆様、ご両家の皆様、ご親族の皆様、お忙しい中、ご出席賜りまして、誠にありがとうございます。間もなくすると、新郎新婦のお二人が、ご入場されますので、今しばらくお待ちください。わたくし、本日、司会進行を務めさせていただきます、山田太郎と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
ご立派な式場。
キラキラ輝いているシャンデリアに、ピカピカとした床。
「それでは、長らくお待たせいたしました。新郎新婦のご準備が整ったようです。では、お二人を盛大な拍手でお迎えください。あちらの、ご入場口にご注目ください。新郎新婦の、ご入場です!」
定番の曲が流れる。クラッシックなんだけど、曲名が思い出せない。
タキシードと純白のウエディングドレスに身を包む2人は、溢れ出る幸せをばら撒きながらヴァージンロードを歩く。
「皆様から暖かいご祝福をいただき、そして、新郎新婦がお揃いになりました」
主役の2人は、礼をした。
「本日は、お忙しい中お越しいただきまして、誠にありがとうございます。これより、XXXX年、X月X日、新田夫妻のウエディングパーティーを始めさせていただきます。えー、皆様のお手元のグラスに乾杯のご用意をさせていただきました。お二人のご結婚を祝して、これより皆様、ご一緒に乾杯していただきます。乾杯のご発声は、ご来賓を代表していただきまして、新田惟孝様にお願いいたします。そして、新田一樹様の、ご親友の「聞きたくない私の名前……」様には乾杯のご発声の前に、ご祝辞を頂戴いたします。では、どうぞ、前へお進みくださいませ」
ああ……遂にこの日を迎えてしまった。
人生で一番、最悪な日。
頼まれたものは仕方がないけど……そもそも、この結婚式自体来たくなかった……。
私は壇上横のマイクの前に立ち、深々と一礼する。
「ご結婚おめでとうございます。一樹くんとは、生まれてきてからずっと、人生のほとんどを一緒に過ごしてきました。先日、小学校の時の卒業アルバムを開くと、その将来の夢を書く欄に、私は、かわいいお嫁さんになりたい、と書いていました。まあ、私がかわいいかどうかは、分かりませんが、まだお嫁さんにはなれていません」
「お前、すっげー可愛いっつーの!」
誰よ……今ちょっかい入れたの。
前、それとも……後ろの方?
「そして、一樹くんの自由欄にはかわいいお嫁さんが欲しいと書いてありました……なにはともあれ、彼の小学校からの夢が叶ったことを、いち友人として、嬉しく思います。お嫁さんには申し訳ないですが……もう一樹くんが、結婚を諦めてくれたらいいのにと思ったことがあります。一樹くんを連れ去ってしまいたいと思ったこともあります。」
「おい!酔っ払いすぎだぞ。」
お酒、飲めないし……。
「20何年間……どんなに楽しい時も、さみしい時も、つらい時もずっと一緒に過ごしてきたを、幸せに出来るのは、幼馴染の私しかいないと思い込んでいました。一樹くんのことを誰よりも知っているのは……強がっても、本当はみみっちくて、男らしく、みんなを思い遣って、私が電話しても、コールが鳴るのを10回待ってくれるくらい優しいって……知ってるのは私でした。でも、口に出せないまま、一樹くんの前では一回も素直になれませんでした。ずっと近くにいて……いつでも言うことのできるはずの言葉が、全く一度も言えませんでした……一度も言えませんでした……でしたけど…………一樹くんのこと……ずっと好きでした」
目の輪郭から、涙が溢れる。
「今でも……一樹くんのことが好きです」
次々と溢れる涙。
「でも一樹くんは、今日、私ではない人と……結婚します。やるせないですが……結婚してしまいます。一樹くんの存在は私にかけがえのないものでしたので……言葉に出すのに、時間がかかりました。新田くん、ご結婚おめでとうございます……どうか幸せになってください……幸せにならなかったら……幸せにならなかったら、許さないから!」
……ご、ごめんね……一樹くん……これ以上、式場には居られないの……おかしくなっちゃいそう。
私を呼び止める声が後ろから聞こえてくる。
全部無視して、式場を飛び出す。
まだ着慣れない、スーツは走りにくい。上手く走れない。
駐車場に停めていた車に乗って、家に帰る。
私も、一樹くんも座った、この運転座席……私も、一樹くんも握った、このハンドル……私も、一樹くんも触った、このミッション……ふたり、同じ空気を吸った、この車内……
思い出すのは、私にとって輝いていた、あの日々。
もし、神様がいるなら……もう一度、人生やり直させてよ……。
ーーーはっ!
「ゆ、夢なの……最近、悪い夢よく見る……もう、まだ午前3時じゃん!」
でも……よかった……夢で。