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第六章・終戦 〜興安丸と復員〜(4)内地帰還

 夕方、港に横づけになっていた興安丸に乗船し、甲板下の大広間に詰め込まれた。薄暮に船は港を離れたので、黒暗みの中にどこへ向かっているのか僕等には分からない。大海原は静かだった。船酔いは感じない。船内は蒸し暑くとても眠れないので、甲板に出てみた。すでに多くの兵員が甲板で涼を取っている。いや、船の行き先を確かめているのかも。寝込んでいる者もいた。寒くなったので毛布を取りに船内に下り、毛布をリュックサックから外し甲板に戻り、そこで眠ってしまった。

 翌朝、夜明けに右前方辺りに島が見え始めた。誰かが「対馬だ!」と叫んだ。「対馬だ。対馬だ。対馬が見えるぞ」と叫び声がした。船は確かに内地に向かって進んでいる。やはり内地帰還しているのだ。復員している事は確実だ。変な場所へ向かって僕等を運んでいない事は確かだ。安心感が湧いてきた。毛布は湿気でぐっしょり濡れてしまったので、持ち帰るのは断念して残した。しかし、帰郷後の衣料不足に惜しまれてならなかった。

 戦い破れて祖国に帰る。勇士の面影は今はなく、誰もがむくろのようで無言だったが、命永らえ無事故郷の土を再び踏む事のできる喜びは計り知れない。歓喜の声に送られ故郷を後にした昭和14年1月、下関の岸壁を離れ興安丸で荒れ狂う玄界灘を釜山港に向かった当時が思い出される。七年九ヶ月の軍隊生活が走馬灯のように流れる。朝鮮、満州、内地、ラバウル、ニューギニア、フィリピン、内地、朝鮮と転戦した思い出は脳裏から離れない。陽は高く昇った。内地が見える見える。甲板の皆もやはり内地に帰って来た事に安堵感を抱いている事だろう。

 やがて船は博多港の岸壁に碇を降ろし、下船も慌ただしく整然と広場に集合した。【ただ今より復員式を行う】との事。【九州と山口県の者はここで解散するから、おのおの故郷に帰るよう、汽車の運賃は無料で乗車していい。その他、中国関西方面の者は部隊と行動を共にする】という指示があって復員式は終了。規律の厳しい軍隊生活を送ってきた僕にとって、なんとも呆気ない解散だった。

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