表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/67

第五章・教官〜戦況悪化と特攻隊の出撃〜(10)裏日本経由

 部隊長が交代し、渥美少佐が着任した。前部隊長高梨中佐は内地の大淀飛行部隊長となり、僕は九九式襲撃機で部隊長を送る事になった。

 そしてもう1人、中島中尉と2人が後部座席に同乗する事になった。中島中尉は僕の彦坂隊付の将校で、内地へ飛行機受領に行ったまま飛行機の故障を理由に帰隊せず居住さえ不明となっていたC軍曹(少年飛行兵)を探し、連れ帰る任務を帯びていた。ところが出発直前、満州より内地へ向かう輸送機が京城に燃料補給のため立ち寄ったのを幸いに、高梨中佐はその輸送機に便乗して出発してしまった。

 表日本のコースは敵機の攻撃があるやも知れず、裏日本経由を取る事になっていた。そして松江飛行場に僕等が着陸して、高梨中佐を拾い飛ぶ事になっていた。しかし僕等の到着が遅れた場合は、【何時何分の松江駅発の汽車に乗って出発する】との伝言が待っていた。僕等は、ただちに京城を出発した。しかしエンジンから油が洩れ風防ガラスが汚れるので、南鮮の尉山飛行場に着陸し整備点検に1時間余り費やし出発した。日本海を横断し松江飛行場に着陸し高梨中佐を探したが、すでに1時間前の汽車で出発した後だった。僕達の到着を気を長くして待っていたとの事だった。山陰線の汽車の旅の苦痛と敵機グラマンの攻撃も心配された事だった。

 僕達は小憩の後、松江飛行場を出発した。この飛行場で滑走路に並んでいる20余りの見なれない機を見た。五式戦闘機との事だった。三式戦の胴体に二式戦のエンジンをつけたものだったと記憶している。黒っぽい緑茶色で擬装された防空戦闘用との事だった。奮戦を祈り、一路海岸線沿いに日本海を北上した。視界が悪くなり高度も1,000m以下を飛行した。後で分かった事だが、2日前に大阪市が爆撃され焼失したその煙が、西に流され日本海まで達していたとの事。視界が悪くなった理由が頷けた。安全飛行を取り、舞鶴港から琵琶湖に向け大きく右旋回し無事着陸した。

 大淀は琵琶湖の東側にあり、滑走路のない広い飛行場だった。飛行場には、部隊長着任を迎えるため、200人余りの隊員が並んでいた。てっきり部隊長と間違ったのだろう、中島中尉を高梨中佐部隊長と勘違いして、丁重なる敬礼の応答が交わされているのを、僕は飛行機の側から笑いを堪えて見ていて痛快だった。「部隊長は今頃どこ付近を走っているのかなー」等と思いながらも、翌日も部隊長は到着しなかった。難儀な汽車の旅だった事だろう。

 中島中尉の自宅が京都市だったので、僕等は飛行機を置いて市電に乗り京都市へ出た。僕は中尉の自宅に二晩泊めて貰い、奥さんのもてなしを受けたが、日中は退屈で時間潰しに中尉からバイオリンの手解きを受け弾いてみた。『君が代』も『曼珠沙華』も譜を覚え、何とか弾けるようになった。


 大淀に二泊して加古川飛行場に飛び、中島中尉はC軍曹の所在を突き止め帰隊を促したが、彼の帰隊意志がない事に諦め、後は隊罰を受けるしかないという事で断念したのだった。それから終戦までが早かったので、どうなったか知る由もなかった。軍法会議に回されたのだろうか不明だった。

 死力を尽くした沖縄戦、陸海軍の特攻機何千機か明らかでないが、米軍に必殺の大打撃を与えるまでに至らなかった。日本軍の飛行機の数にも限度があり、沖縄戦は放棄しても最後に内地決戦があるから、この時こそ最後の特別攻撃である。飛行機の温存もあり、次の作戦のため沖縄への特攻が断念されたように思われる。しかし赤トンボ機に50kg爆弾を積んで、夜間に沖縄へと突入しているのが本当であれば、誠に哀れというも悲愴、無謀としか言えない。上層参謀の血迷った作戦命令としか言いようがない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ