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第五章・教官〜戦況悪化と特攻隊の出撃〜(8)泣きっ面に蜂

 翌日は特攻隊員と共にトラックに乗り、北京市内の見学に同行した。中国の歴史に守られた紫禁城や美しい建物を数ヶ所見て回った。特攻隊員への最後の慰めともてなしであろう。これも上官からの配慮だったろう。別れ際、少年飛行兵達の手を握り激励の言葉をかける僕の心境は、深く入り交じったものであった。僕と寺田少尉、他2、3人は迎えの高練の輸送機で、その日の内に京城に帰還した。


 記憶が前後するかも知れないが、昭和19年12月1日付で僕は営外居住の許可を貰った。曹長になって1年が経過すると営外居住が許され、部隊から500m余り離れた所に営外官舎が数棟あった。その中の4、5帖の部屋に入った。隊内居住では皆、ラッパの音により起居同作を余儀なくさせられていたのが、営外になるとそれから解放され営門の出入りには営兵の敬礼を受け、誇りにも似た解放感に気を良くした。さっそく故郷の父宛に布団の注文、至急送付願いを出した。父母の好意でまもなく届けられ、父母の心尽くしに感謝せずにはいられなかった。官舎では見習士官の少尉と食事、入浴等は一緒だったので肩身の狭い思いもちょっぴり感じていた。

 ちなみに寺田准尉は永登保市街の一戸建の官舎だった。ある日、一日だけお世話になった。朝鮮特有のオンドル式の部屋で案外居心地が良かったが、食事は個人で用意しなくてはならず不便そうだった。


 寺田准尉について特筆してみたい。普通は兵隊から下士官候補となり、伍長、軍曹、曹長と進級し曹長3ヶ年で准尉になる。階級はそこで止まって万年准尉となるのが常識となっていたが、部隊によっては教官不足等、人材確保のため特別進級が認められる事になる。(特例として予備大尉まで進級)寺田准尉も特攻隊に出て行った出丸少尉の欠員として任命された。内地の士官学校で6ヶ月間、将校としての教育を受け少尉に任官する事となって派遣された。しかし諸般の事情、戦局の逼迫により3ヶ月切り上げて帰隊されて少尉になられ、にわか作りの新米将校に抜擢されたのだった。運の良い上官だった。以後、寺田少尉と呼ぶ事になった。今も元気な少尉殿である。


 京城金浦飛行場での訓練時にはピスト(訓練中の控所)に火燵が置いてあった。部隊長が暖を取るためである。炭の継ぎ足しに炭俵の底をはたいた時、炭の粉がはじいて僕の目に入った。コロコロしてどうにも我慢できないので、断って医務室に行き洗浄して貰ったが、コロコロは良くならなかった。

 翌日また洗浄して貰ったが良くならないので、訓練を休んで2、3日保養した。部隊長が気にしたのか【治療のため市内の陸軍病院に行け】と伝達があった。

 それから京城陸軍病院通いとなったが、交通の便が悪く朝の買い出しに出る炊事班のトラックに市内まで便乗する事になった。僕は治療が終わると永登浦まで電車で帰り、金浦飛行場に至る道路で帰りのトラックを待ち、また便乗するのである。永登浦から金浦飛行場までトラックで1時間の行程だった。

 ある日、治療が遅れそのトラックに乗り損なってしまった。飛行場行きの車はなく途中10分間余りは民間の車に便乗したが、後は歩くより仕方がなかった。眼帯をしたまま、てくてく歩いた。陽は沈み、薄暗くなった夜道を3時間以上歩いた。足が棒になるとはこの事か。兵舎の灯りが見えてきたが足はこわばるばかり。遅々として進まない。もう二度と病院までは行くまい。必死の思いで帰営して、飛行兵に1時間余り揉んで貰ったので、ようやく足の感覚を取り戻した。

 病名は急性角膜炎になっていた。「悪くすると目が潰れるところだった」と衛兵軍医の言葉だった。以後は衛生兵に病院へ薬を取りに行って貰い、治療の甲斐あって2週間余りで治癒できて安堵した次第だった。

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