表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/67

第四章・負傷 〜生死の境と内地送還〜(3)過ぎ去りし思い出

 2週間余り経ったある日、僕の長機だった垂井少尉が見舞いに来られた。僕の傷を心配し労って下さった。「あの日、戦闘が終わり君がいなくなったので心配だった。海上に油がどってり浮いていたので、君が落ちたのなら海面に姿が見えないかと、何度も何度も旋回して探した。しかし発見できずがっかりして飛行場まで帰って来たら、鼻をついた君の飛行機を見つけて急いで降りて来たんだ。君が負傷してすでに入院している事を知って安心したよ。助かって本当に良かったね。仇は1機落としたよ」と慰めていただいた。僕は垂井少尉の優しさ、部下を思う心情にとても心を打たれた。

 海上の油は、僕が追撃した敵機ではないだろうか。通常は上昇して退避する筈なのに、そのまま突っ込んで行ったのだ。パイロットに弾が当たり、海に突入したのではないだろうか。僕は確認の余裕もなく、僕を狙って来た敵機にやられたのだった。飛行機が海に落ちると、海上に油が浮くので確認されるのが通例だった。いずれ不確実のままである。


 野戦病院の横に食料集積所があった。夜間の動哨が遠く離れた時、その隙を狙って兵隊達が缶詰を失敬するらしい。僕の付添いの兵隊がある夜こっそり、「班長殿、パイ缶を食べんですか」と差し出した。何よりのご馳走だ。あの大きなパイ缶を二人で平らげたのだった。それにしても大胆な兵隊達だと呆れてしまった。


 傷の痛みも和らいで来ると退屈となる。いろいろ過ぎ去った事が思い出された。

 ある日の事、空襲警報が出て他の中隊が迎撃に飛び立ったので僕等は防空壕入りとなった。遠くの防空壕に入るのも、暑さのためだるくて走りたくない。たまたま側にいた川本軍曹、六期か七期だったか。彼もそうだったのか意見が一致し、ピスト(訓練中の控え所)の側のタコツボ防空壕に潜り込んだ。やっと二人を収容する位の浅く幅も狭い緊急用の防空壕である。

 最初は首を出して進入するB29を見ていた。だんだん近づいてくる。飛行場の軸線にきっちり乗って入って来た。これが一番怖いのだ。軸線から離れていたら爆弾もそれるが、やっぱり軸線上だ。これは大変だ、遠くの防空壕まで逃げる暇はもうない。一か八か運を天に任せ、顔を引っ込め固唾を呑んだ。爆発の音が遠くで響いた。第一弾だ、一秒間隔位で第二弾、100m位かな。また第三弾、物凄い爆発音、地割れの響き。その時、川本軍曹が「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と言って僕にしがみついた。まさか、まだ若い22歳位の少年飛行兵の彼が、思ってもみなかった。故郷の家が真宗だったのだろうか。後で聞いたら、何も憶えていないという。不思議な念仏で、僕も助かったようなものだった。50m近くに大きな穴が空いていた。僕等は命を救われたのだ。それ以後、二度とタコツボ防空壕のお世話にはならなかった。

 また、ある時は横着に構え、歩いて遠くの防空壕に向かっていた。するともう上空に敵機が現われていた。「しまった」と思ったが、どうしようもない。大きな爆弾のような物が、くるんくるん回っていくつも落ちて来る。思わず椰子の根元に身を縮めたが、“バサッバサッ”の音だけで爆音がない。よく見ると敵機が落とした燃料タンクであった。やれやれと胸を撫で下ろした事もあった。


 飛行場の近く、南側の低い丘に高射砲陣地があった。ある日、部隊長の下山中佐がその陣地を見に行くので「ついて来い」と言われ、僕等5、6名も後に続いた。

 丘に上がると陣地に十五門位高射砲が空を睨んでいた。兵隊が5、6人ずつ待機していた。僕達には物珍しかった。前の空襲の時、低空で攻撃して来た敵機を水平射撃で2機撃墜したと話していた。あっぱれである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ