第三章・出陣 〜ニューギニア戦線と戦闘の日々〜(14)四発被弾
こんな経験もあった。空襲警報がかかり、これを迎え撃つため離陸し左旋回しながら射撃用のスイッチを入れ、海上に向け試射をして弾が出るか出ないかを確かめながら上昇する。長機は後続機が追いついて来るよう、旋回しながら編隊を組む。進攻作戦の場合は機数が多いため、【空中集合何時何分、飛行場上空高度3,000】等と指示され、戦爆連合の隊形が整った後、敵地へ向かうのであるが緊急の迎撃作戦はそんな時間はない。地上にまごまごしていたら、すぐにやられる。我先にと離陸し空中にて編隊を組み、敵機に向かって行くのである。
僕も離陸し上昇しながら友軍機を捜したが、どうしても視界に見えない。しかし1,500m位で、上空5,000mに敵機の進入を見た。B24が6機、その上に戦闘機が点々と編隊を組んでいる。30数機はいるだろう。とても僕一機で迎え撃つ状態でない。上昇を断念し山手の方へ退避して、敵機の攻撃を警戒しながら飛行場を見ると、爆撃により黒白の煙がむくむくと上がっている。飛行場がやられている。「着陸できないならどうしよう」ふとそんな不安が脳裏に浮かんだ。とても淋しい気持ちであった。なぜなら着陸する所を失った機には不時着しかない。命の保証はない。
しかし、ウエワクの西飛行場、またはハンサーその他の飛行場もあるんだと気を取り直し、上空からの攻撃を警戒したが、あまり高度差があるため敵機も攻撃を断念したのだろう。爆撃機を援護し帰路に着いている。やっと重苦しい空気から解放され、着陸するため降下し飛行場上空で、滑走路の状態を確認したが爆撃され穴が空いた痕跡はない。それにしても僕の前に離陸した友軍機は、一体どこを飛んでいたのだろうか。不安を抱きながらも無事、無傷の飛行場に着陸した。しばらくして他の機も無事帰還した。後で聞いてみると、皆、退避して無理な迎撃戦を避けたのだった。
迎撃戦ではいち早く上昇して、上空を制覇して高位から敵機を迎え撃つのが原則である。下方から敵機に挑む事は自滅の他なく、損害を蒙るのは必定であり、退避は当然であったと思う。いかに早く敵の襲撃の情報を得る事が作戦の要だが、こちらへの情報は前線の対空監視哨から送られて来るが形勢不利の場合が多かった。後手、後手では、実際応戦するのは戦闘隊だから堪ったものではない。「戦闘操縦士は消耗品ではない。心してくれよ」と叫びたい。
【飛行機送れ】の矢のような催促により、やっと僕の戦隊も20数機の出撃体勢となった。相変わらず最前線から戦爆の大編隊が東進中の情報が届いた。「いざ出撃」第一中隊が10機、僕の第二中隊からも10機、次々と離陸し編隊を組み上昇した。僕は最後尾を警戒した。久し振りに集団で戦闘できると勇み切って上昇した。
高度3,500mで敵機発見、爆撃機は別な航路を取ったのか見えないが、高度5,000m位の敵戦闘機の大編隊に上から被られた。高度差1,500m、絶対的に僕等が不利の形勢である。「ああ、もう5分早かったら高度差がなくて同等に戦えるのに、好機を失ったな」今日こそは快心の余裕あるものと、上昇していたのになんと不運な事だ。仕方がない。速度をつけるため水平飛行に移り、隊長の【敵機発見、戦闘隊形を取れ】の合図で隊形を取ったと同時に、敵の第一撃の攻撃が始まり、編隊で急降下攻撃をして来た。もちろん急旋回でかわす。だが次から次へと攻撃を緩めない。僕等はこれに反撃する余裕はない。僚機も同様に急旋回するが、それを狙って次の敵機が500m位の距離から撃って来る。弾道がはっきり見え、首を引っ込めて旋回に旋回を。敵は200m位まで近づいては、また急上昇したかと思うと、次の敵機が狙って攻撃して来る。必死で右、左へと旋回していたら、僕は左翼に大きな衝撃を受けた。操縦桿を操作しても思うように反応しない。「しまった!」と思い反転して高度を下げ、敵機の追撃を警戒したが敵機は他の友軍機への攻撃中で、僕を追ってくる様子もない。速度を落とし水平飛行に移ったところ、操縦桿も操作できるので飛行場へと降下して行った。左翼に大きな穴ができている。弾倉に弾が当たり破裂したのだった。着陸には細心の注意をして降りた。
点検したところ左翼に4発被弾していて、その一発が機銃の弾倉に当り爆発したのだった。運良く命は繋がり死なずに済んだ。確か僕の中隊にも2、3機未帰還機があったようだったが、今は記憶に留めない。
●2009年10月22日よりSF映画シナリオ「クリムゾンX」を連載。
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