第一章・入隊 〜軍隊生活と飛行兵志願〜(3)二つの希望
自分の希望を二つ書いても良かったので、僕は第一志望を『無線』、第二志望を『整備』と書いたが、上官の判定で『金属工手』という命が下った。鍛冶屋仕事だった。金属工手には他に気象、武装、縫皮工手等に分かれていたのだが、とにかく僕は鍛冶屋の仕事なんてやった事がない。田舎で鍛冶屋の仕事は見ていたが、できる筈もなかった。飛行機に乗れるものとばかり思って入隊したが、こんな結果になるなんて落胆もいいところだった。
金属工手の仕事について述べてみよう。まずバラック建物の中で、直径3cm、長さ5cmの丸い棒が渡され、それを火炉に入れて赤くなったのをハンマーで叩き縮める。そして4cm角の立方体に仕上げるのだった。ふいごの動作は古参兵がしてくれるので、僕等は重いハンマーで先叩きをする役割。だいたい形ができ上がった物を万力に挟み、3cmの大きな平やすりで面を削り、4cmの正立方体に仕上げねばならない。やすりのかけ方も肘が上下にならないよう、水平にかけるのが最初は難しかった。どの辺も4cmに仕上げるのには苦心した。一方を合わせようとすれば他方の寸法が狂ってくる。面が水平でないといけない。ヘラで削ってモルタルで磨くと、光が反射してとても綺麗だった。
次が鉄板の溶接だった。3cm位の鉄板と鉄板を溶接するのにアセチレン瓦斯で温め、展着棒を溶かして接着する。鉄板と鉄板の温度を同一にして、展着棒を溶かし流し込むのがコツで、僕はだんだん上手になった。しかしジュラルミンの溶接は難しかった。ちょっと加熱が過ぎると、サッと溶けておじゃんになる。飛行機はほとんどジュラルミンだが、この溶接ができるには何年もかかるだろう。ちなみに検閲の時、僕は鉄板の溶接を見て貰ったが好評だった。