第一章・入隊 〜軍隊生活と飛行兵志願〜(11)無許可搭乗
いよいよそれぞれの原隊に帰る事になった前日、内務班で一部の兵隊が興奮した口調で話をしているのを、何事ならんと耳を欹てたところ、飛行機に便乗して空中散歩したとか。事情を聞くと爆撃機の部隊が明日帰隊するので、調子を見るため試験飛行で離着陸しているとの事。「しめた。僕も乗りたい」詳しく聞いたところ、その飛行機の機長に懇願したら乗せてくれたと言う。実際はそんな事はできない。事故でもあれば大変な事になる。しかし、この機会を逃したらまたと好機がある筈がない。
一人では気が引けるので戦友の柴伍長に耳打ちしたら、「よかろう」の返事。「善は急げ!」と二人で爆撃機の発着地に行き、どの飛行機に便乗しようかと迷っている内に、機は次々と飛び立って行く。意を決して下士官らしい整備員に便乗を頼んだが、「俺は知らんぞ」とそっけない返事。「だめかな」と思ったが、前例を聞いているので何とか粘り再度頼み込んだところ、「操縦士に聞いてみろ」との返事だった。試運転でプロペラが回っている機に近づいて行く。操縦士の側に駆け寄り便乗を頼んだが、「俺は知らん。事故でもあったらどうするか。俺は許可せんからなー」と言いながらも、それでも良いならと言わんばかりの寛容な応えが返って来た。「よし、死んでも構わん」と急いで後方の搭乗口から二人で乗り込んで後部に縮こまった。
飛行機は滑走を始めた。まだ顔を上げる訳にはいかん。機はふんわり地上から離れた。少し顔を上げ外を見た。4、50mに上がっている。すると一人の操縦士が前部からやって来た。てっきりお目玉かと観念したがその操縦士はニヤッとして、「どうりで、後ろに二人もいたのか。離陸時に尾部がどうも重くて上がらなかったのは、貴様達二人も乗っていたからだったのか。離陸する時は前の方に来て、尾部を軽くするんだ。前の方に来い」と言うので、中部の機上射手の席へ座わった。
機はぐんぐん上昇して行く。編隊長機の横に二番機として、ぴったり寄り沿っているが気象の変化かぐっと下降したり、また上昇したりして水平線が上下しながら編隊を組んでいる。やがて大きく旋回して、飛行場に帰り無事着陸してほっと一息。感謝の敬礼も大きく弾んだ。初めての大きな経験を得た事が今でも忘れられない。