瀬戸くんと第2ボタン
翌朝、お母さんがやっぱり「誰のボタンもらうの〜?」とか聞いてくるので、
「秘密!」とだけ言って学校に向かった。
まだ2月だしちょっと気が早い、こともないけど。てかもらう予定なんかない。
てかウチの学校の男子の制服、ブレザーだし。第2ボタンとは言いにくいよね。
まだまだ肌寒い。こういう時は、人肌ってものが恋しくなるものだ。
だからと言って、それが必ずしも異性である、なんてことはないのである。
「おっはよ〜」と呑気に抱きついてきたのはあや子だ。
この悪魔め、今は背中の感触で許してやる。
「おはよー、あや元気だねぇ。メグは?」
「んーとね、今日は朝練って言ってたから会ってないよ?」
「うぇ、こんなクソ寒い日に朝練〜?」
「春の大会目指してるんじゃないかなぁ」
メグミは陸上部の1年の中でもなかなかいい成績を残しているらしく、
次期エースとして期待されているらしい。なんでこう恵まれてるのかね。
ヤンキーっぽい見た目やめたらどうだ。
「ふーん、あやは今日朝練ないの?」
「寒いからね〜」
たぶんテニス部にも朝練があるはずなのだが、どうやらサボったらしい。
まあでも、この寒さなら仕方ないかな。
「とりあえずくっつくのはいいけど、歩きにくいよ、あや。」
「んー、じゃあ手つなごっか。」
スッと背中から離れていくあや子。いやあや子'sおっぱい。さらば。
手を繋ぐのは恥ずかしいけど、まぁいいか。
「あ。」
シャーっと、隣を自転車がすれ違っていった。
あの制服、あの時のあいつと一緒だな。てか寧ろあいつだったんじゃ・・・
「どーしたの〜?今の自転車の男の子が気になっちゃった?」
「い、いや、そんなんじゃないよ!
なんか知り合いに似てるなぁって思っただけ。」
あ、危ない、また表情を読まれるところだった。気をつけないと。
まぁ、もしあいつだったら、今度はちゃんと謝ろう。
◇◇◇◇◇
いつも通りの教室、いつも通りの授業、いつも通りの友達。
そして、いつも通りの帰り道、ではなく、あいつがいた。
「う。」
やばい。昨日の今日でもういるじゃん。
あの様子だと学校終わってからすぐに来てずっと探してるのかな。
あからさまにひきつった顔を無理やり直して、おそるおそる声をかける。
「あ、あのー・・・」
「ん?あ!昨日の!ありがとね!場所教えてくれて!」
「う、ううん、どうってことないよ。」
クッソ、なんだこの聖人君子。超明るい。ひねくれ者の私がめっちゃ浮く。
なんて言おう・・・
「もしかして、一緒に探してくれる?」
ドキッとした。なんちゃってとか言ってるけど、いや普通誘うかそこ!?
ていうか、私から言うべきなんじゃないかそこ・・・!
「う、うん。」
「おお、やった。じゃあそっち側見てもらっていい?
あとでジュース奢るからさ。」
なんだこいつなんだこいつ。
顔はよく見たらまぁイケメンかな?くらいの感じだけど、優しすぎか。
まぁでも私もこれで大義名分を果たして探せるというもの。
さて、どの辺に投げたっけな・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「そ、その探してるボタンってそんなに大事なものなの?」
何いきなり聞いてるんだ私。そりゃ気になるけど、今聞くか。
話題がないからっていきなりこれはないだろ。
「いやまぁ、ははは。なんだろね。
ボタンなんて予備をつけたらいいだけなんだけど、あれはちょっと違くて。」
え、そんなボタンあるのか。形見とか?
だとしたらやなこと聞いちゃったかな、悪いことした。
「俺の制服の第2ボタンなんだよね。」
ブフーーーーッ!
「大丈夫!?」
「な、なんでもない、むせただけ・・・!」
まじか。
いやまぁ確かに他のと違うっちゃ違うけどまじか。
そういうのにこだわるのって女子だけじゃないの!?ちっさ!
あんな体育会系さわやかボーイなのに第2ボタンこだわるの!?まじか!!
誰かにあげるため?あ、たぶんそうだよな、きっとそうだ。
世界で一つの第2ボタンだもんな!
「だ、第2ボタン探してるんだ、誰かにあげるの?」
「んー、そういうわけじゃないけど、
ついてないとなんかカッコ悪くない?」
それはまぁ・・・だらしないってことかな。
「そうだね、確かにボタンはちゃんと揃ってる方がカッコいいかも」
「だろ?まぁ今はちゃんと別のをつけてんだけどさ。
あれだけは見つけておきたくて。」
はーーー?ますます意味わからん。
ちゃんとつけてんじゃん、それでいいじゃん!
なんで?なんでこだわるのナンデ?
ま、まぁそれぞれ事情があるんだろうけど、
とにかくさっさと探してバイバイしよう・・・あ。
「あ、あったかも。これかな?」
多分これだ、見たことのある校章と色。
ちょっと泥にまみれてるけど、私が投げたあたりにあったから、
多分そうだ。自分で見つけられてよかった。
ちょっとわざとらしく「これかな?」とか言っちゃったけど。
「あ〜〜〜!それ!まじか!やるじゃん!ありがとう!」
ボタンを持つ私の手を両手でぎゅっと握りしめてブンブン振るう。
メグミより力が強いし、あやより包容感がある。
そしてやっぱり男の子だからか、ちょっとゴツってしてる。
てかなんだこれ、クッソ恥ずい!!!!!
「っわ、わわわ・・・み、見つかってよかったね。」
「うん!ありがとう!一緒に探してくれたおかげだよ!」
とにかく手を離してくんねぇかな。今度は私が自分を見失いそうだよ。
「よかったぁ。これでなんとかなったよ」
やっとこさ手を離してくれた。やべー、私めっちゃ手汗かいてる。
「・・・こほん、どういたしまして。じゃあもう帰れるね。」
「そだね、じゃあお詫びに家まで送ってあげるよ。」
「は?」
おい待て。なんだこの少女漫画的なイベント。聞いてないぞ。
何言い出すんだこいつ。私はごめんだぞ。
「い、いやいやいやいや!いいよ、いいよ!1人で帰れるし!」
「ううん、昨日も結構暗い時間まで付き合わせちゃったし、
女の子だもんね。送ったげるよ。道案内よろしく。」
と言うと、自転車にまたがって後ろに乗るように指を指す。
ほう、なるほど2人乗りですか、たいしたものですね。
ってオイオイオイ、死ぬわ私。恥ずかしさで。
でも、これ、拒否権ないですよね。
そこからはもう私が私でないような時間だった。
とりあえず言われるがまま背中にしがみつき、
初めての2人乗りは怖さとなんやらでもう心臓ばくばくだった。
家の前に到着すると、自転車から私を降ろしてくれた。
「ふう、お疲れさま。ずっとわめいてたけど大丈夫?」
「ダ、ダイジョブデス。」
死ぬかと思った。体育会系の体力なめてた。
「じゃあ、今日はほんとにありがとね。おかげで助かったよ。」
「んーん、どういたしまして、えーと、名前なんだっけ。」
そういえば、私も名乗ってないし、こいつの名前も知らない。
どこのどいつなんだこの体育会系。
「あれ、言ってなかったけ、瀬戸だよ。瀬戸大我。君の名前は?」
「よ、横山澪です。」
改めて自己紹介するとちょっとこそばゆいな。
なんか話題を変えよう・・・。あ。
「・・・そういえばまださっきのボタン渡してなかったね。はい。」
と言って、スカートのポケットに入れていたボタンを差し出した。
さぁさっさと受け取って帰ってくれたまえ、瀬戸くんよ。
私はもうヘトヘトなんだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
受け取らない。というか何か考えてる?
なにをしてるんだ、さっさと受け取れ。探してたんだろ。
もう私の腕は君にしがみついたので精一杯で、
腕を突き出してるのもキツイくらいにプルプルなんだよ。
しばらくすると、彼が意を決したように口を開いた。
「あのさ」
「?」
「そのボタン、持っててよ。」
「・・・・・・は?」
は?何を言っているんだこいつ。
「その第2ボタン、横山さんが持ってて。」
え、ちょっと待って。どゆこと?
理解が追いつかないんですけど。なんで?
「な、なんで?探してたんじゃなかったの?」
「んー、そうなんだけど。」
「君を好きになってしまった。」
え。
「一目惚れなんだ。俺のボタン、横山さんにあげる。」
えええええええええええええええええ!!!!!????
私は目一杯、心の中で叫んだ。