ひとりの夕陽と第2ボタン
いつも通りの教室、いつも通りの授業、いつも通りの友達。
いつも通りの通学路をふらふらと歩いて帰宅する。
あや子は女子テニス部、メグミは女子陸上部。私は帰宅部。
もちろん部活が終わって一緒に帰ってもいいのだが、終わる時間はバラバラだし、
2月の冷たい風が吹きすさぶ中待ってやるほど、私もそんな殊勝なやつじゃない。
幼稚園、小学生と明るい子供として過ごし、公立で入った中学で2人と出会った。
そっからはずっと一緒。でも運動オンチな私は部活には入らなかった。
なので、もう4年、1人で帰宅している。もう慣れたものである。
「第2ボタンかぁ」
ふと、昼休みのことを思い返す。
あの後放心&混乱状態のメグミをなんとか席に戻し、
あや子がちゃんと謝ってくれたおかげでなんとか放課後までには復活させた。
第2ボタン。
気になる男子生徒の制服の上から2つ目をもらう。
改めて考えてみてみると、なかなかすごいことじゃないか?
好きな人のボタンを奪い取るだなんて、なんだかストーカーっぽい。
まぁ欲しい人なんていないし、
ましてや私に欲しい!って言われて喜ぶ先輩もいないだろう。
これでもちょっとは女の子っぽく気をつかってるんだけど、
どれも他の子がやってるからって感じでしかない。
髪はセミロングくらいで整えてるし、化粧もたまにちょっとやってみたり。
おっぱいは・・・まあ普通だと思う。太ってないし。
クラスの中なら、中の下に入ったらいいかなあくらいだと思ってる。
「考えてもしゃーないよね。」
色々考えたところで、何か変わるわけでもないし、
私が何か変えようと頑張るわけでもない。
正直、彼氏は欲しいとは思っても、
いざ恋愛となると何をしていいのかわからない。
クラスの子は男子も女子もやいのやいのしてるけど、
何が楽しいのかわかんないのが現実だ。
それくらい、私はひねくれてるし、それでいいのだと思っている。
「ん」
家も近くなって、河原沿いの道を歩いている時、コツンと、何かを蹴飛ばした。
石かなって思ったけど、軽い。目をやると、夕日にあたってどこか煌めいている。
とことこと歩いて拾い上げると、それはボタンだった。
「・・・うちの学校のじゃないなあ」
ボタンに掘られた校章はウチの学校のものではないし、
中学時代に通ったとこでもない。
でも近くにウチ以外に学校ってあったっけ・・・。
近年、少子化により学校が合併したり廃校したりしているため、
近場に学校がいくつもある、なんてのはちょっと昔のことである。
「まぁ、汚いし捨てとこ」
誰のかわかんないものだし、持ってても仕方ない。
ちょうどいい大きさだったので、えいっとあたりの草むらに投げ入れる。
冬だからか、太陽も沈むのがちょっと早い。
まだ少し明るいけど、あと10分もしないうちに真っ暗になってしまう。
何より寒いし、さっさと帰ろうとしたその時。
「あのーすみません!」
ふと声をかけられた。
人通りは少ないものの、いろんな人とすれ違う。
でも、声をかけられたのは初めてだ。
振り返ると、自転車に乗った男の子がいた。
学生服っぽいけど、うちの制服じゃないな。どこだろう。
「いきなりごめん!この辺で、金色のボタン見なかったかな?
学校の制服についてそうなやつ。」
あ。
「え!?見た!?ねぇ!どこにあったかわかる!?」
やばい、思いっきり顔に出た。
路肩に自転車を止め、嬉々として近づいてくる。
自転車に乗ってた時から思ったけど、私より20cmくらい身長が高い。
とりあえず私は、さっき道路で蹴飛ばした方を指差して、
「えぇと・・・あの辺で見た気が・・・します。
す、すみません、私もチラッとしか見てなくて・・・」
嘘をついた。こんな必死に探している人の前で、
「拾ったけど汚そうなので捨てました!えへ!」なんて言えるわけがない。
かと言って、「一緒に探しましょうか?」なんてのも言えない。
チキンハートだ。
「ありがとう!探してみる!」
彼は、そう明るく言って私が指差したところに向かっていった。
私はぼそぼそと言ってただけなのに。目も合わさなかったのに。
嘘もついたのに。
でもそんなのお構いなしと、彼は嬉しそうに、「ありがとう」と言ったのだ。
罪悪感でいっぱいになった。
「あの、わた・・・えと・・・」
「なに〜?」
しゃがんで雑草をかき分けて探しながら、何か言いかけた私に彼が聞き返す。
クソか私は。嘘をついたことを謝れ、早く。
そんで一緒に探せ、早く。早く、早く、早く、早
「あはは、大丈夫、心配してくれてありがとう。」
彼の言葉で、私の心が塗りつぶされた。
「でも確かに、もう真っ暗になっちゃうね、また今度探してみるよ。
だいたいの場所の目星ついたしね。」
すっと立ちあがり、沈んでいく太陽を見つめて、彼はそう言った。
ダークブルーに染まっていく空と、彼の表情を、
私は見上げることができなかった。
太陽はあっという間に沈んだのに、
私の顔は情けなさと悔しさで真っ赤だったからだ。
「ありがとうね、君も早く帰りなよ」
そう言って、彼は自転車を転がして帰っていった。
私はまた1人、帰路についた。