学校生活と第2ボタン
「『第2ボタン』ってどうやったらもらえるのかな」
きっかけは単純な好奇心だった。
なんでも、卒業する男子学生の第2ボタンをもらう、という風習があると聞いて、
ふとお昼ご飯を食べながら友達のあや子とメグミに聞いてみたのである。
「どうしたのみーちゃん。頭ぶつけた?」
開口一番、この言われようである。
みーちゃんというのは私のあだ名で、ほんとの名前はみお。
「氵」に「零」で「澪」。
そしてこの暴言吐いてるほわほわした女はあや子。
綺麗な黒髪で、「ザ・清楚!」って感じだけど、腹は真っ黒。
のほほんとした表情でわりかし棘のある言葉をはきやがる。
「あんたからそんな言葉が出るとはね・・・」
明日は槍でも降るかな、と言いながら弁当をつつき、
どう見ても私をバカにしてきてるヤンキーっぽい金髪女はメグミ。
化粧もちょっとしてる、スタイルもいい。彼氏募集中。
「・・・もうちょいさぁ、勉強熱心な友人に対する優しさっての、無いの?」
「「ない(ね)(かなぁ)」」
ひっでぇ。シンクロすんな。
「えーと、そろそろ卒業シーズンじゃん?
朝お母さんがね、『澪は誰かの第2ボタンもらうの〜?』って言うワケ。
よくわかんないから、適当に『まぁね〜』って言って出てきたんだけど、
アレってどゆこと?」
とりあえずさっきのこいつらの反応を見る限り何か知ってそうなので、
事の顛末だけは説明しておく。
すると、あや子が答えてくれた。
「ん〜とね〜、気になる男子生徒の制服の上から2つ目をもらうんだけど、
その人の大切な人になりたぁい、とか。そんな意味があるんだよ?」
「ほー・・・なるほど」
なんとなくわかった。ちくしょう。道理でお母さんがニヤニヤしてたわけだ。
「で、あんたは誰かボタン欲しい人でもいんの?」
「いや、いないけど」
聞いてきたメグミに即答する。
家に帰ったらお母さんに同じ質問されそうだなコレ。
「はぁ?じゃあ何、ただ知らんかっただけなの?」
「うん、そう。というか、そんな意味知ったらその・・・
そもそもそんなんないじゃん?ウチら。」
少し考えて、あーうんと納得するメグミ。
うちの学校は共学で男子女子の比率も普通だし、クラスの半分は男だけど、
誰も彼もそんなにパっとしない。
そりゃイケメンはいるけど、そんなの高嶺の花である。
ましてや帰宅部の私は憧れの上級生なんていない。
「私はもらうけど〜?」
おいちょっと待てそこのエセ清楚。
スッと横を見ると一番驚いてるのはメグミだった。
金髪に染めててヤンキーっぽい見た目なのだが、
スタイルもいいし、普通に美人だから結構モテる。
彼氏は欲しいらしいのだが、いざとなるとドギマギして拒否してしまうのだとか。
男性恐怖症、というわけではないらしいので、
ちゃんとしてれば彼氏のひとりやふたりいそうなのに。
そんなわけで、彼氏いない歴=年齢を私と一緒に謳歌している。
そして、そのメグミが、弁当の箸を止めて完全にフリーズしている。
今のうちにメグミのハンバーグ食ってやろ。
「・・・・・おま・・・・おまえ・・・お前ええええ〜〜!
い、いつの間にぃいいいい!」
涙を流しながらあや子の肩を掴み、ぶるんぶるんと振るう。そこまでか。
私たち3人は中学からの付き合いで、今やピチピチの女子高生、いわゆるJK。
高校1年の夏を何もなく過ごし、彼氏いない同盟をなんとなしに結成していた。
そして高校1年の冬、新たな学年を前にして、裏切りが発生したのである。
「あや子お前なあ、お前なぁ・・・いつの間にそんなんになっちまったんだよぅ」
泣き崩れんな。いきなりキャラ崩壊とかやめてくれませんかねメグミさん。
そんでうふふふと笑ってるこの野郎はまったくブレてないから怖い。
「あのね、女テニ(女子テニス部)の3年の先輩にね、
すっごくカッコいい人がいてぇ。
その先輩のブレザーの第2ボタンをもらうことにしたの。」
「「は?」」
時が止まる。
スタンド攻撃でも受けてんじゃないかってくらいに、世界が止まって見えた。
「あのー、あや?それって女の人からもらうってこと?」
「そだよー、みーちゃん。」
思考停止したメグミの代わりに私が聞くと、あや子はあっけらかんとそう答えた。
「ごめんね?」
それはもう天使が舞い降りたかのような笑顔で、私たちに懺悔した。
そして、「ふふっ」と悪魔のように笑った。