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東方運命録  作者: 甘味処アリス
プロローグ
6/8

第5話『出会いと変化』

頑張ったぞ私!偉いぞ私!

「ふぅ……ここら辺でいいか」


 俺はどっかりと木の根元に腰を下ろし、背負っていたリュックを近くに置く。

 咲夜のくれた弁当を食べながらしばらく待っていると、大量のおぞましい姿をした妖怪たちが少しずつ寄ってきた。

 俺はそれにたいして立ち上がり、霊力で剣を紡いで構える。


 無謀で愚かな妖怪が一匹。俺に向かって襲いかかってくる。俺はそれを一刀のもと容易く迎撃して、次の攻撃に備えた。夜はまだ長い──。


◇◆◇◆◇


「……起きてください」

「ん……」


 寝転がる少年に向かって、声をかける。

 周りを見れば、あまりにも無惨な姿になった妖怪の死骸がこれでもかと転がっている。人里に素材として売れば一大財産を築けるだろう量の妖怪の死骸。状況を察するに、寝転がっている少年がやったんだろう。まだ若いだろうに、恐るべし少年だ。もっとも、自分に敵うことはおそらくないだろうが。


 そんなことを考えていると、少年はバッと起き上がって周りを見渡す。そして、私を見てキョトンとし、目をゴシゴシと擦ってこちらを再度確認すると「うわぁっ!」と妖怪でも見たかのように驚いた。


「失礼な人ですね」

「ご、ごめん……」


 冗談で少し拗ねた様子を見せると、すぐに少年は私に謝った。思いのほか素直な人らしい。


「うふふ、冗談です。あなたはこんなところで何をなさっているんです?」

「俺か? 俺は修行だ」

「修行?」

「おう! 妖怪相手に、能力に頼らずに根性で戦い続ける修行だ」


 そう言って少年はニカッと笑ってみせる。馬鹿なのだろうか。


「だが……ちょっとばかし、飽きたな」

「あら。じゃあ、私の手伝いでもします?」

「手伝い?」

「ええ。私が今日ここに来たのは、ヤマブドウの採集をするためなんです。それを手伝っていただければと」

「お、もちろんやるよ。……だが、こんな危ない森でヤマブドウを採りにここまで?」

「ええ。おかしいでしょうか?」

「おかしいというか……」


 少年はそう言って口ごもる。まあ、普通に考えれば変だと思うのは当然ですね。

 ですが、それ以上の理由はないのでどうしようもありません。精々、他の人が採集しないのでたくさん収穫できるくらいでしょうか。


「……まあいいや。どうせこれもまた運命だし」


 少年はそう言うと、歩き出した私についてくる。

 ……どうせこれもまた運命、ですか。


「……ふざけないでください!」


 私は思わず、言葉を荒げてしまった。それにハッとなって、けれど、やはり直情と激情のままに言葉を続けることにする。


「……あなたがどんな思いで、どんな気持ちでその言葉を言ったかは分かりません。けれど、けれど──運命は変えられるんです! 自分の手で!」

「……ああ、そうだな。自分の選択で、いくつかある道筋のどれを辿るかを選べる」

「違う、違う違う違う! あなたは根本的に間違ってる! 運命の道に、選択肢などありません! 可能性は無限で、結果も無限で、世界線だって寿命だって未来だって!! 心持ち一つで変化して、行動一つで変化して、全てが折り重なって生まれるんです! それを未来から今まで綴ってきた過去を覗いて、運命という概念を勝手に作っているだけ! 運命の神様だって、人間が勝手に運命の神様を作って、それに祈るから生まれるだけの、実態のないただのハリボテ!」


 そうだ。世界も事象も概念も、未来の形は、どんなものであれ無限大の結末を迎える。それを否定してはいけない。限定してはいけない。諦めてはいけない。


「今すぐ、その考え方を変えてください!」

「……けど、レミリアは、運命を視る者は……」

「惑わされないで。彼女はあなたに何を教えたの? ()()()()()()()()んじゃないの?」


 その言葉に、少年は目を見開く。そして、納得がいったとでもいう風に、コクリ、コクリと頷く。

 そうだ、それでいい。──残念ながら、運命は確かに存在する。けど、それを只人が知るべきではなく、同時に思考と渇望をやめるべきではない。考えるのをやめ渇望を放棄すれば、最悪の道へ足を滑らせて落ちてしまう。全ての闇の王の玩具となり、嘲弄と嘲笑の災厄の道化師の手玉に取られる、そんな道へ。

 闇を振り払い、ただ唯一の救いに至る。そのためには考え考え考え続け、救いを渇望して抗い続けるしか、ないのだから。


「何者なんだ君は……いや、そんなこといい。それより……忘れてた。名前……君の名前を聴いてもいいか?」

「私ですか? 私はキャンディ。あなたは?」

「俺か? 俺は──」


 少年はどうにかして思い出そうとしてウンウンと唸り、直後、驚いたように表情を変える。


「あれ、痛みがない……。それに、名前も鮮明に思い出せる。それだけじゃない。あれも、あのことも! 凄え……!! 思い出すと、世界が不思議に見えてくる……! キャンディ! 君のお陰だ! 本当にありがとう!」


 少年はそういって、私の両手を取ってブンブンと振る。事情は分からないけれど……目の前の少年は嬉しそうだし、喜んでくれるならなによりだ。別に私が何かしたわけじゃないけど。


「そうだ、自己紹介しなくちゃな。俺は日向 大和」

「日向大和……とてもいい名前ですね」

「ありがとう。キャンディって名前もとっても可愛いと思う」

「か、かわ……!?」


 可愛い……!? 私が、ああいや、私の名前が……!?


「キャンディ。俺、やんなきゃいけないことを知った気がするんだ。改めて、手伝わせてくれ……キャンディ?」

「……かわいい……キャンディ……私の名前……ハッ。いや、えと、あの……う、うん! じゃ、じゃじゃじゃあ、あそこにある山葡萄を取ってこのカゴいっぱいに入れてくれる?」

「おう、待ってろ」


 そうしてつつがなく採集は終わり、私たちは私のお菓子屋さんがある人里に行くことになりました。……それにしても、私……かわいい、なんて……は、初めて言われちゃったなぁ……。

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