第4話『紅霧の異変ー3』
お ひ さ し ぶ り で す
ご め ん な さ い
俺とレミリアは同時に距離を取る。レミリアの見た目はフランに似ている。……姉妹なのだろうか。ならば、系統も似ているかもしれない。
身体能力に任せたあの単純な戦い方であれば、こちらからもいくらでもやりようはあるってものだ。
俺はスルトを宣言して身に纏うと、レミリアに一気に距離を詰める。
レミリアはそれに対して大量の弾幕を展開して俺に放ってきた。俺はそれを大剣で切り払ってレミリアへの距離を詰める。
レミリアとの距離が残り二メートルくらいになったところで、レミリアの手の動きに従って大量のコウモリ達が俺に迫る。
炎の鎧によってコウモリ達は焼け死んでいくが如何せん数が多い。俺がさっきの弾幕同様にコウモリ達を切り払った途端、がら空きの俺の顎を狙ってレミリアの拳が炸裂する。
「ぐっ……!」
「セイッ!」
俺が反撃する暇もなく、レミリアによって無数の攻撃が俺に叩き込まれていく。レミリアの拳も鎧の熱で焼けていくが、それでもレミリアは攻撃する手を緩めない。むしろ、その攻撃速度は止まらないどころか増していく。
「ハアッ!」
最後の一撃とばかりに、レミリアの掌底打ちによって俺は大きく吹き飛ばされる。地面に着地した次の瞬間、紅い槍がレミリアの投擲によって俺に迫った。その槍は俺の能力を無視して俺の脇腹を容赦なく抉る。
「ぐあっ……!」
俺が痛みに怯んで霊衣が解けてしまった瞬間、レミリアによって大量の紅の槍がとどめを刺そうと俺に迫る。
俺はそれに対して懐から霊術のスクロールを発動する。次の瞬間、俺の手には霊力でできたハルバードが握られた。
どうにも、俺が痛みを受ける基準が分からない。痛いときと痛くない時の境目はなんだ?
俺は困惑しつつもハルバードで迫ってくる槍の最初の一本を切り払い、同時に俺自身が横に回転することで迫る槍の追撃を回避する。
今は考えてる場合じゃない。俺はハルバードを構えたままレミリアに向かい、八重歯を見せて笑っているレミリアに対して槍部分で思いっきり突く。レミリアはその攻撃を両手で滑るように上に逸らすと、俺の顎を蹴り上げる。
「くっ……!」
「セイッ!」
レミリアはがら空きの俺の胴に対して、再び掌底を叩き込む。
俺はその攻撃でまたもやレミリアから引きはがされた。
自信の現れなのだろうか、レミリアは悠々と俺が立ち上がるのを待っている。悔しいが……その自信は正しい。今の俺じゃあ、コイツには勝てない。
「そろそろ諦めたらどうかしら? アナタは私には勝てない」
「っ……! 誰が諦めるか!」
俺はレミリアに反発して、再びフランの霊衣を身に纏う。
レミリアは呆れたように、スペルカードを取り出した。
「戦士に対する礼儀として、真っ向から何の小細工もなしに全力で戦ったけど……もう、いいわ」
そう言って、レミリアはスペルカードを宣言した。──それは黄金に輝く勝利の槍。因果を入れ換え運命を書き換える、神秘の秘奥を以て作られた、栄光の槍。
「勝利『栄光の主神』」
レミリアはそう宣言すると、黄金に輝くその槍を俺に投擲する。それは容易く俺の胸を貫き、そんな俺を巨大な光の砲撃が包み込む。視界は光に包まれ──俺は、気を失った。
◇◆◇◆◇
「……」
ここは……?
「あら、起きたわね」
起き上がった俺の視線の先にあるカップに、銀色の髪の少女によって水が注がれる。少女──十六夜咲夜は、俺の眠るベッドの隣にある椅子に座る。
「ここは……?」
「紅魔館の一室よ。怪我はどう?」
「ああ……なんともねぇ」
なんとも不思議なことだが、貫かれたはずの俺の胸には一切の違和感がない。相当長い時間眠っていたか、もしくは……俺の能力が肉体を再生させたか。多分、後者だろう。体を久しぶりに動かす時のあのなんとも言えないような気だるさがないし。
「そう。よかったわ。さて……お客様、お時間のほうは大丈夫かしら?」
「ああ……」
俺はそう言われて少し考える。特に俺に何か用事があった記憶はない。もはや俺は流浪の身であるし。だが……紅魔館に定住するかとなったら、それもまた少し違う気がする。
「時間はあるが、力はねぇ。どこか、俺が力をつけるのにいい場所はどこかあるか?」
「……夜の山にでも行けば、自然と妖怪が襲ってくるわよ」
「なるほど、道理だ」
俺は咲夜の言葉を受けて次にとる行動をして決める。幸い霊力はもう回復しているし、俺の肉体は死ぬことはない。俺はベッドの上で上体を起こし、ぐっと伸びをした。
「……これ、あげるわ。あなた、着替え持ってないでしょう?」
おお! これは有難い! 咲夜に渡されたのは、上下の運動服だった。考えてみれば、咲夜に言われたとおりに着替えなんて持ってない。それどころか食べ物すらもない。俺はどうやって生きていくつもりだったんだ。とはいえ、死なないしなぁ。死なないけど、それでも腹は減るし着替えや体を洗うことをしなければ気持ち悪いとも思う。いやあ……こんなところで服を貰えるなんて、思ってもいなかったけど。
「あとは……これね。お嬢様から、色々とあなたを支援しろと言われているのよ」
咲夜はそう言ってリュックサックを差し出した。そこにさっきのジャージをしまうと、今度は咲夜はお弁当のようなものを作って持っていた。俺はそれも受け取り、リュックサックの中にしまう。
「……こんなところかしら」
「恩にきるよ。この借りはいつか……何倍にもデカくして返すからさ」
「あら、それは楽しみね」
咲夜は俺の言葉にクスリともせずスッと立ち上がる。それに合わせて俺もベッドから降りて立ち上がり、ベッドの上に置いていたリュックサックを背負う。
「……よし」
近くの湖の影響なのか深い霧が包む紅魔館で、俺は咲夜の案内によって正門に辿りついた。
相変わらず寝ている門番に苦笑いしながら、俺は腰に霊力で召喚した剣と鞘を装備して準備を完了させた。
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
門番の額にナイフを刺した咲夜はそう言って、俺を山の方へと送り出した。
新たな門出に俺は微かな楽しみを覚えながら振り返ることもせずに紅魔館を後にした。
──紅魔館がどうなっているかにも気付かずに。もし俺がこの時振り返っていたなら。もしかしたら、運命は変わっていたのかもしれない。
つ ぎ は が ん ば り ま す




