第3話『紅霧の異変ー2』
「いった……くない」
ああ、またか。つまりこれは、俺の運命では紅魔館の奴らには負けないということなのだろう。勝つかどうかは俺の意地次第ってことか。……どうせなら、もうちょいまともな能力がよかったなぁ。
霊斗の『自分を改造する程度の能力』なんかはカッコいいしな。自分の体を武器に変化させたり、身体能力を上げたり。どうせならそういうのが良かった。
まあ、能力に文句を言っても仕方ないか。
俺はため息をつきながら立ち上がる。さて……フランと咲夜、それにパチュリーとその使い魔にやられた分はしっかりやり返さなきゃな。
俺は霊斗に習ったお陰で、格闘技や弾幕戦はそこそこならできる。とは言っても、精々チルノに勝てる程度だが。美鈴だってさっきは勝ったが、次やったら勝てるか怪しいし。
まあ、勝てないものはしょうがない。パチュリーと咲夜は完全に不利だから後回しにして、まずはフランに仕返しだ。
俺はどうやら、地下室から地面を突き破って外に出てきたらしい。ということは、当然だがその穴をまた潜っていけばフランの所に行けるだろう。そうとなれば、話は早い。
俺は意を決して、再びフランの目の前に飛び込んだ。
「あれ? お兄ちゃん、生きてたの? 頑丈なんだね! なら、これを使っても大丈夫かなぁ!」
フランはそう言うと、スペルカードをどこからか取り出して掲げ、宣言した。
「獄炎『北欧終焉の巨人王』」
言い終わると同時に、フランの身には燃えるような鎧と赤黒い大剣が装備された。明らかに俺1人を相手取るにはオーバーキルな装備だろう。だが……!
俺は縮地を使ってフランの目の前に現れ、顎を蹴り上げる。
フランはそれを背後に仰け反って避けると、炎の大剣を振り回した。
それに当たった俺は簡単に吹っ飛ばされるが、今度は壁には当たらず地面にブレーキをかけた。
「へぇ……。お兄ちゃん、凄い!」
「だろ? もっと褒めてくれてもいいぜ」
俺はフランの純粋な賞賛に対して返しながら、牽制射撃をしつつ再びフランに突撃する。フランが射撃から大剣で身を守ると同時に、俺はスペルを宣言する。
「霊符『夢想霊砲』」
俺は大剣に触れながら、掌から極太ビームを発射する。ビームは大剣を貫通し、防御を打ち破ってフランを倒した。
「うわっ! 凄い、お兄ちゃん! これあげる」
「これ?」
フランはそう言うと、さっきのスペルカードを俺に渡した。
「スペルカード……俺はこれ、使えるのか?」
「お兄ちゃん、しらないの? さっきのは霊衣って言って、私以外でも私のが使えるんだよ!」
「へー。なるほどなぁ」
霊衣か。これなら……!
「フラン、ありがとう! 大切に使うよ」
「うん! 私もお兄ちゃんと遊べて楽しかったよ!」
俺はそう言って俺に感謝を伝えるフランの頭を撫でてやり、フランの元を後にした。次の標的は距離も近いしパチュリーにしよう。
◇◆◇◆◇
「あら、また来たのね」
「おう。俺は力をつけなきゃならない。こんなところでじっとしてる場合じゃねぇんだ」
「そう……むきゅっ。なら、しょうがないわね。私が相手してあげる」
パチュリーはそう言うと立ち上がり、片手に魔導書を出現させる。
「見せてあげる、魔法使いの力」
そう言ったパチュリーは鎖を大地から呼び出し、それを俺に向かわせる。
俺は霊衣を纏いながらその間をかいくぐり、大剣を振りかぶる。
「なっ! それは……!」
パチュリーは驚きながらも、右の掌を俺に向ける。その次の瞬間、ぶあつい大地が俺とパチュリーの間にせり上がってくる。
それは壁となって俺を阻むが、俺は大剣で壁を切り拓いてパチュリーに頭突きをした。
「キュウッ……」
ゴチンという音とともに、パチュリーは脳震盪でその場に倒れる。ちょっとやりすぎたか……?
俺が心配していると、どこからか現れた赤髪の美少女がパチュリーを抱き抱えて図書室の大きな扉から出て行った。
「……よし。次は咲夜だな」
俺はそう宣言して、パチュリーの後を追うように図書館をあとにした。
◇◆◇◆◇
「あら? お早いおかえりね、お客様」
「ええ、まあ、使用人の態度がイケ好かなかったもので」
「それはそれは、とんだご無礼を」
俺と咲夜は言葉を交わしながら、互いにその歩を進める。
投げつけられたナイフを燃える大剣で防ぎ、唐突に出現する煙幕を振り払う。
攻撃が効かないなら効かないなりに、戦い方がある……ということだろうか。
咲夜の戦闘は無駄がなく、いい勉強になる。是非とも参考にしたいところだ。
「うーん……私からは一手足りないわね。有効打がないわ」
「そりゃこっちも同じだ。お前が速すぎて攻撃は当たりゃしねぇ」
「ということは」
「我慢比べといこうじゃないか」
俺と咲夜はそう言葉を交わし、2人でいがみ合うような体制になる。
「──ハッ!」
「ふぅん……全方位攻撃。攻撃が当たらないなんて、嘘もいいところね」
俺の放った弾幕に被弾しながら、咲夜は見事なナイフ捌きで被弾数を最小限に抑え、俺に攻撃を仕掛けて来た。今度はナイフで直接攻撃する気だろうか。
残念ながら、そこにはもう罠が張り巡らされている。
咲夜はやがて、糸にからめとれて自由に動けなくなった。
「なっ……!? これは?」
「俺の持つ、霊術術式──といっても、持ち運びできる魔法陣だが」
俺はそう言って咲夜の前に立つ。
「くっ……ほどきなさい!」
「レミリアの居場所を吐け」
「……はぁ。玉座の前よ」
「そうか」
俺はそう言って、咲夜に掌底を打ち込んで気絶させると、咲夜を搦めとる糸を解いた。
◇◆◇◆◇
玉座の間に入る。ほかの部屋と同じように、机や赤い壁が特徴的だ。ほかの部屋よりも広いこの場所は、その分壁画などの調度品も多くある。
その奥の方では、確かな威圧感を放つ少女──レミリア・スカーレットが玉座に座っていた。
「よくここまで来たわね」
「ああ。お前の部下らしき奴らは全員倒した。これでいいか?」
「ええ。お見事、と言っておくわ」
レミリアはそういうと、ぱちぱちぱちと拍手をする。
「それで、私と戦る? 私に勝てたなら、私の霊衣をあげるわ。その名もオーディン」
「……頼む」
俺はそう言って、レミリアと俺はお互いに向かい合いながら距離をとった。