第2話『紅霧の異変-1』
「レミリア。俺は強くなる。そのために、協力してほしい」
「……運命が決まっているのに、自分を鍛えるの? 私からしたら、無為な時間、無駄な努力になると思うけど」
「いつか、俺は能力の力に頼らずに試練を突破しなきゃならない。だから──その時のために、力を蓄えておく必要があるんだ」
俺がそういうと、レミリアは何がおかしいのかクツクツと笑う。
「そう。あなた、面白いわね。いいわ……我が紅魔館の精鋭たちの実力を見せてあげる。咲夜、準備しなさい」
「御意」
レミリアの声に反応して急に現れた咲夜と呼ばれたメイドが答えると、次の瞬間目の前は紅魔館の門の前に移り変わっていた。
そして、俺の足元に一枚の紙が落ちている。その内容は『私を探してみろ レミリア』と書かれていた。
さて。門の前に立つのは、紅いチャイナドレスを着た女性。
「いらっしゃいませ! よく来ましたね。私は紅美鈴。お嬢様からお話は伺っております! それでは──いざ、勝負!」
美鈴はそう宣言すると、俺の目の前に高速で移動して来た。そこから繰り出される、強烈な突きの一撃。
「セイッ!」
俺はそれを回避し、弾幕を展開する。
美鈴の攻撃を霊斗から習った縮地で回避しながら、さらに弾幕を展開する。
「霊符『夢想封印』!」
「それは博麗霊夢の……! なるほど、面白い!」
美鈴はそう言いながら、俺が放った夢想封印を難なく避ける。
その避けた先を狙って──!
「霊符『夢想霊砲』!」
「今度は博麗霊斗の!? だが……やられるもんですか!」
美鈴はそう言うと、腕に妖力を纏わせて俺の放った霊力砲を防ぐ。
霊力と妖力の激しい力のぶつかり合いによって、周囲一帯に衝撃波が迸る。
「んぐ……っ!」
「ラアッ!」
美鈴が衝撃に怯んでいる間に、一気に決着をつける。
縮地の移動速度による威力ののったショルダータックルが、美鈴の腹部を撃ち抜いた。
「ガハァッ」
その衝撃のまま美鈴は紅魔館の門へと叩きつけられ、門はひしゃげ、美鈴は地面へと崩れ落ちた。
意識を失った美鈴の体のその傍を俺は無言で通り抜け、次の対戦相手の元へと向かった。
◇◆◇◆◇
巨大な玄関の扉を開け、俺は玄関ホールで階段から降りてくる少女に唐突に話しかけられた。
「美鈴を突破したのね」
「お前は……?」
「私はこの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。お嬢様から仰せつかり、あなたと戦うわ」
十六夜咲夜と名乗った少女はそう言うと、太ももからナイフを取り出してこちらに投げつける。
俺がそれを回避すると、その回避した先めがけて咲夜の膝蹴りがとんできた。
やべえ……これは避けられない!
俺はダメージを覚悟する。が、しかし。咲夜の膝蹴りは俺の顔面に当たった途端、俺にダメージは加わらずに咲夜に跳ね返った。
「痛ッ……」
「うぉぉ! びっくりした!」
なんでだ!? 霊斗の訓練での攻撃は普通にダメージ食らったぞ!?
俺の能力は運命に弄ばれる……これもまた運命ということか!?
俺も正直驚きを隠せない。だが……運命に守られているなら、話は別だ。
ダメージを受けないというのなら、そのまま押し通す!
「うらあっ!」
俺は怯んでいる咲夜に向けて、両手を突き出して身体中から霊力をかき集める。
「霊符『夢想霊砲』!」
「チッ! 幻世『ザ・ワールド』!」
次の瞬間。俺の両手の先に咲夜はなく、俺の周囲には大量の麻紐が出現していた。
それは俺に巻きつき、絡め取る。
「くっ……!」
「まだまだね」
咲夜はそう言うと、どのような方法を使ったのか知らないが俺を巨大な扉の前に弾き飛ばした。
痛みはないが、しかし咲夜にもダメージが加わった様子もない。何が起こってるんだ……!?
俺の困惑をよそに、巨大な扉は大きく開かれた。
「お客様ですね! どうぞどうぞ〜。この先、動かない大図書館の私室になっております〜」
赤紫色の髪の、黒い制服のようなものを纏った少女に引力のようなもので引っ張られるままに俺は図書館へといれられた。
◇◆◇◆◇
図書館の中。そこは、まるで紅魔館の他の場所とは別空間であるかのような、そんな不思議な空気をもっている場所だった。
大量の本で埋め尽くされ、インクと紙の匂いが図書館の中に充満している。
そしてその最奥、白と紫を基調としたパジャマのような服を見に纏う、紫色の髪をした少女が本を読みながら優雅に紅茶のようなものを啜っていた。
「いらっしゃい。よく来たわね」
少女はそう言うと、指をクイと持ち上げた。
それによって俺は縛られたまま宙に浮き、少女の目の前に浮いたまま移動した。
「はぁー……。自己紹介しないといけないわよね……むきゅっ」
何だ今の。
「私はパチュリー・ノーレッジ。よろしく」
「パチェだな、よろしく」
「いきなり失礼なやつね……」
俺が少女のことを略してパチェと呼ぶと、ため息をつかれた。ふむ……これじゃあダメなのか。
「じゃあパチュリーって呼んだ方がいいか?」
「いや、別にいいわよ……むきゅっ」
だからなんだ今の。
「今日は私、喘息の調子が悪いの。だから……あなたには、あの子がお似合いよ」
パチュリーがそう言った途端、パチュリーの背後にあった本棚が動き、隠し階段が現れる。
隠し階段は、図書館の扉以上に大きな鋼鉄の扉に繋がっているようだ。
「それじゃ。楽しんで来なさい。命運を祈るわ」
パチュリーがそう言った瞬間、鋼鉄の扉は開き、俺は扉の奥へと吸い込まれていった。
◇◆◇◆◇
「誰? 新しいお友達?」
その声は、高く幼い声だった。少し響くような声に、何か寒気を覚える。背筋の凍るような声に反応して、身体中から冷や汗は噴き出し、目の前のソレに視線は吸い込まれていく。
宝石のような煌びやかな翼、口元から伸びる八重歯、赤く澄んだ美しい瞳。
「おもちゃ……じゃ、なさそうね。まあ、いいわ。私、フランドール・スカーレットと申します。この館の主人、レミリア・スカーレットの妹ですの。さて……あなたはいつまで耐えられるの?」
狂気を内方した幼さをその身に宿すその少女、フランドール・スカーレットは俺に向かって弾幕を飛ばしてくる。
俺を縛る麻紐はその弾幕によって弾け、俺自身もその弾幕自体の威力によって壁の方へと吹き飛ばされた。
壁に衝突すると同時に、俺は壁をも突き破った。