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東方運命録  作者: 甘味処アリス
プロローグ
2/8

第1話『決意』

 俺がこの世界に紛れ込んでから、三ヶ月が経過した。

 この三ヶ月は霊斗や霊夢、時々藍さんに幻想郷での戦闘について様々なことを教えてもらっていた。


 弾幕やスペルカード、飛行に加えて肉弾戦闘……主に、博麗一族に代々伝わる博麗闘術というものだ。さらに、結界や霊術、呪術術式等々……様々な戦闘技術を三ヶ月で身につけさせられた。


 霊夢も霊斗も、藍さんも豊富な知識と技術を持つ、優れた戦士だった。

 そんな彼らとの修行も今日で最後だ。


◇◆◇◆◇


「君の能力……それを、今から教える」


 藍さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。


「君の能力は『運命に弄ばれる程度の能力』だ。運命にのみ付き従う能力。その能力ならば、死ぬとき以外に決して死ぬこともあるまい。そして、君は運命を確かめる必要がある」


 運命に、弄ばれる……。

 なんだか、とても窮屈な印象を受ける能力だ。

 そこに俺の一切の意思や自由は介入せず、ただただ決められたその場所に行くことが決められているだけの能力。


 だが。

 俺はこの能力に従わねばならない。

 そして、運命を突破しなければならない。

 そのための力をつける必要がある。

 藍さんに以前、俺はそう言われた。


 それはつまり、決められたその場所でこの能力の力を使わず、困難を超えなければならないということだ。

 そのために運命を見るという吸血鬼に会うためこれから紅魔館というところに行くのはもとより、各地を旅したり、異変と呼ばれる事件を解決することで力をつけるのだとか。


 正直、俺にはあまりにも荷が重いように感じる。

 だが、そんなことを言っている場合ではないのは時折見せる藍さんの焦燥を見れば陽の目を見るより明らかだ。


 藍さんにも、霊夢や霊斗にも、俺は大恩がある。その恩を返すために、俺は強くなろう。


「……ありがとうございます。それでは、俺はそろそろ行きます」

「疲れた時には、帰ってきなさいよ。霊斗と一緒に待ってるから」

「ああ、お前はもう家族だ。時々顔を見せに来るといい」

「途中までは、私が送ろう」


 霊夢と霊斗に送り出され、藍さんと共に神社の階段を降りる。……それにしても、家族か。

 あの人たちには、この恩はもう返しても返しきれないな。


 本当に、家族の代わりをしてくれたと思う。

 俺に家族なんてものは未だ思い出せないが。しかし、あの2人の温もりは、きっと、忘れないだろう──。


「それでは、ここでお別れだ」


 しばらくして、分かれ道にたどり着いてから彼女は俺にそう告げた。


「それでは、またどこかで」

「ああ。強くなったお前を、期待しているぞ」


 そう言って、藍さんは不敵に微笑んだ。見慣れたそれに俺は口角を吊り上げ、手を差し出した。


「くくっ……ははっ! 九尾の狐に握手を求めるか! 本当にお前は面白いやつだ!」


 藍さんはそういうと、差し出した僕の手をパチンと払いのけた。


「その手は、次会ったその時にとっておくといい」

「そう……ですね。そうします」


 俺はそう言って、差し出した手を引っ込める。

 俺は紅魔館に繋がる右の道へ。

 藍さんは冥界とやらに繋がる左の道へ。


「それでは、また会いましょう」

「ああ。またな」


 藍さんに別れを告げて、俺は一歩を踏み出した。

 ここからは、俺1人の戦いだ──。


◇◆◇◆◇


「ここを通るなら、私を倒してからにしなさーい!」

「お前さんは……?」

「あたいはチルノよ! あんたにけっとーを申し込むわ!」


 巨大な湖に着いた頃。

 霧に見舞われるその地で、氷のような妖精がそう言いながら飛翔してきた。


「うけなさい! 氷符『アイシクルフォール』!」

「甘い!」


 俺はチルノの方から降ってくる氷柱を足場に、チルノの高さまで高く跳び上がる。


「うぴゃっ!?」

「ほいっと!」


 チルノの真正面から弾幕を飛ばし、ゼロ距離からの被弾によってチルノは地面へと落ちていった。


「チルノちゃん!」

「あ、あたいはさいきょーなんだから……!」


 そう言いながらも地面に倒れ、緑の妖精に看病されるチルノを無視して、俺は遠目に見える紅い館へと向かった。


◇◆◇◆◇


「いらっしゃい、よく来たわね。霊夢たちから話は聞いているわ」

「紅魔館の主人、レミリア・スカーレットだな?」

「ええ。レミリアでいいわ。それにしても……あなた、どうにも敵を倒すことに執着してないわね。なんというか……良くも悪くも、感情があんまり感じられないわ」


 あぁ。たしかに、レミリアの言う通り俺には感情の一部が欠落しているかもしれない。特に、情とかそういうのはないだろう。

 別段それで困ったことはこの3ヶ月間あまり無かったが、それは霊夢や霊斗の温情あってのことかもしれない。


 霊夢を見てたせいでこんな風になったのかもしれないが、アフターケアとかそういうのは霊斗がやってくれていたしな。


「まあ、いいわ。あなたの運命は既に視ているわ。それにしても……ええ、すごく面白いわね。あなたの運命は確定している」

「確定……?」

「ええ。運命というのは、本来いくつかの選択肢があるもの。それがパラレルワールドを作るきっかけになるのだけれど……あなたには、それがない。あなたがどんな場面に遭遇して、どんな風に戦って、どんな結果を遺すのか。それが、最初から決まってるわ」


 これも、俺の能力の影響かもしれない。

 運命に弄ばれる。つまり、一つ決まっている運命以外の行動をとれないということだ。


「まあ、ここまで来させておいてなんだけど……私からあなたに言えることは少ないわね。というか、ないわ。だってあなたの人生は『なるようになる』だけだもの」


 恐ろしい能力もあったもんだ……。なるようになる、世界が確定している。一つの選択以外の未来がない。


 俺の人生、それは楽しいんだろうか……?

 思わず俺は死にたくなってくる。

 とはいえ、ここで死ぬこともまた『運命』とやらの思惑通りということなのかもしれない。

 あぁ、むしゃくしゃする。運命に抗うことも許されないのか……。


 こうして考えることもまた運命なのか? それとも、運命というのは行動や結果だけを指すのか?

 考えることはまだまだ多い。だが……なるようになるというのなら、その結果をなるべく楽に出すために。


 そして何より、藍さんや霊夢、霊斗に言われたから。


 俺は、強くなろう。

 そうして、運命すらも捻じ曲げてやる。

 運命や能力がなくても、来るときに敵に勝てるようにと言われた。そのための力を、何者にも負けない力を、手に入れてやる。

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