表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方運命録  作者: 甘味処アリス
プロローグ
1/8

プロローグ

 真っ黒い空間。

 何もない空間。

 ただ星々が煌めき、瞬きの間に消えてゆく。

 そんな空間にフワフワと漂うように俺はいた。


『君に力を与えよう』


 何者かが、俺にそう告げた。

 その瞬間、周囲の景色は一変した。


『君が真に選ばれし者なら。僕らを──てくれ』


 それだけ残して、声は消えた。

 俺は……日向大和。自分の名前ははっきり覚えてる。だが……俺は、誰だ?


◇◆◇◆◇


「うーん……」


 目が覚めた。

 体を引き伸ばし、木製の天井を見つめる。

 どこにでもあるような、普通の天井だ。

 外の世界では、これが普通ではないらしいけれど。

 僕は外の世界には行ったことがない。だから、これが普通なのだ。


「あら、目が覚めたわね」


 そう言って、赤くて大きなリボンを頭につけた黒髪の美少女が煎餅をバリバリと噛み砕きながらこちらを見つめていた。


「あんた、大丈夫? 頭に異常ない?」

「ん……それは、わからない、けど……」


 問題は、なさそうだ。その趣旨を伝えると、少女は満足そうに頷いた。


「なら、いいわ。あんた、外来人ね?」

「外来人?」

「ええ。ここは幻想郷。人と妖の住まう古き郷。あなたはの世界に妖怪は実在する?」

「……俺の、世界……」


 俺は、どこから来たのだろうか。どんなところから来たのだろうか。思い出せない、何も、何もかも。──俺の名前すらも。名前を思い出そうとすると、途端に激しい頭痛が俺を襲って考えるのをシャットダウンしてしまう。


「記憶喪失なんじゃないか? 外来人が幻想郷に来た時に記憶喪失になるって、結構あることなんだろ?」

「……そうかもしれないわね。はぁ、面倒なことになったわ。藍! いるんでしょう!? 八雲藍!」

「なんだ、紅白巫女。煩いぞ」


 俺が戸惑っていると、男の人が少女に話しかけた。それに対して少女は頷き、誰かを呼んだと思ったら狐のような耳や尻尾、金髪の女性が現れた。


「ごめん、置いてかれてるよな。俺は博麗霊斗。この子……博麗霊夢の夫だ」


 そう言って、男性は少女を指差した。見た目からは15〜6ほどにしか見えないが、その若さで既に既婚者なのか。


「んで、こっちは」

「いい。自分で自己紹介をするさ。私は八雲藍。2代目幻想郷の管理者だ」

「まだ日は浅いけどね」

「黙っていろ。それで、要件は?」

「この外来人、外に帰したいけど記憶喪失なのよ」


 少女……霊夢の説明を受け、八雲藍は俺の方を凝視した。しばらく見つめ、そしてウンウンと頷いた。


「残念ながら、それは出来ないな。いやぁ、本当に残念」

「胡散臭さは継承しなくていいから、ちゃんと説明しなさい」

「む……そうか。なら、止めるとしよう。さて、この少年は能力持ちだ。しかも、その能力からしてこの幻想郷に紛れ込んだのは偶然ではないようだぞ?」


 能力?


「説明しようか。能力ってのは……人や妖なんかに生まれつき備わっている文字通り特殊な能力のことだ」


 特殊能力……!? そんなものがここにはあるのか。というか、妖怪なんているのか?

 確かに、八雲藍と呼ばれた女性は他の2人とは明らかに違うが……。特に、尻から背中にかけて存在感を放つ9つのモフモフ……尻尾が。


 あ、尻尾フリフリしてる。可愛い。


「……なにか、失礼なことを考えてないか?」

「別に、何も」


 あぶねぇぇぇ!

 尻尾可愛いですね、とか言ったらどうなってたんだろうか。

 あの尻尾、良くないな。何が良くないって、人を駄目にする。あぁ、でも、触りたい……!


「オイ」


 俺が思わず尻尾の一本に抱きつきそうになったところで、藍から殺意が放たれた。


「触れるのは構わんが……勝手に触れない方がいいぞ。それは痴漢や強姦魔と同じだ」

「申し訳ございませんでした……っ!」


 痴漢や強姦魔なんて言われたら、離れないわけにはいかない。


「……少年。お前さん、本当に記憶喪失なんだよな? なんというか……悲壮な雰囲気が微塵も感じられないんだが」

「そこは後で私が説明しよう。それよりお前たち、この少年が幻想郷に慣れるまで面倒を見てやれ」

「嫌よ」

「「即答!?」」


 藍さんの言葉に、霊夢が即答で拒否した。

 そこまで嫌われるようなことしたか……?


「そんなことしたら、霊斗と2人っきりの時間が減るじゃない」

「まあまあ霊夢、そう言わずにさ」

「……まあ。霊斗がいいならいいけど」


 そう言って、霊夢はふくれっ面になってそっぽを向いた。


「ご飯の準備してくるわ」


 そう言い残して、霊夢はスタスタと台所へと向かっていった。


「……ごめんな、気を悪くしないでくれ。アレでも悪い子じゃないんだよ」


 ただ、少し自分勝手なだけで。

 そう言って、霊斗と藍さんは笑っていた。


◇◆◇◆◇


「少年は寝たか」

「ええ。もうぐっすりよ」


 藍の問いに、霊夢が答えた。夕方まで寝ていたというのに、晩御飯を食べて風呂に入ったら、再びすぐに寝てしまった。


「じゃあ。話をしようか。あの少年は……外来人などではない」

「は?」「え?」


 外来人でないのなら、あの少年は一体何者なんだ。

 その問いの答えは、すぐに答えが出ることになる。


「彼は虚無の存在。未だ仮初めの肉体で顕現している、器だ。これから幻想郷中を旅させろ。そうすることで、()の器はより洗練され、器には中身が満ちる」

「ちょっと待ちなさい。器って、何のよ?」

「そこまでは言えんな。(きた)るべきその時が来れば、彼自身が『自分は何者なのか』という質問に答えを導き出せる。その為には、彼には試練を乗り越えてもらわねばならんがな」


 そう言って、八雲藍は不敵に笑った。その全てを見透かしたかのような眼は、いなくなった八雲紫を彷彿とさせる胡散臭さがあった。


「……試練」

「具体的には、幻想郷の各地で最近活発になり始めている異変の数々だな。それに、幻想郷中を見て回り、その力を集める必要もある。そのためにも、異変を解決させるんだ。その為の力は、お前たち2人で育てろ。そういうの得意だろう?」


 得意というか、俺は人里で教えたりもしているが……。


「では、頼んだぞ」


 八雲藍はそう言うと、魔術によって空間に穴を創り出し、そこへ自ら入っていった。

オリキャラ解説


博麗霊斗


博麗霊夢の婿であり、家族のいない大和にとっては父親同然の人。性格は非常に温厚で、人里の子供達に妖怪に対する戦闘法を教えるなど、教師としても極めて優秀。人里の人々にも慕われており、とっても良い人。霊夢とは結婚しておよそ20年経つ今もラブラブ。

ちなみに霊夢の現在の年齢は35歳、霊斗は36歳だが、博麗の血筋の影響で2人とも余り老けることはない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ