武士の山。
武士という身である以上、移動は車を使わない。馬だ。乗馬は得意。武芸にも励んでいる天武は昔の武士そのままである。そんな天武の馬の扱いは実に綺麗だった。風になびいた髪がそれをより一層思わせる。彼らが通っている現在の道路が時代と合わず不自然に思わせるがそのときに見た人は皆、天武に釘付けだった。
「「「なんだあのイケメンは!!!」」」
馬に乗る武士。それだけでとてつもない風格が漂う。
ましてや、天武は外に出なかっただけで噂の中ではとてつもない人気だった。自分がずっと一人ぼっちで嫌われていると思っている人が、まさか自分がイケメンで見られているとは思わないだろう。すれ違う人の全員が振り返り、天武が通ったあとには時間が止まったようになっていた。ついには前の人も止まった。
「雷炎様。私たち武士は嫌われるべき存在なのでしょうか。」
「いや、そんなことはない。税金で生きていることをよく思う人はいないだろう。だが、私たちが好んでこうしている訳ではない。頼まれているのだ。私たちは武士であることを忘れずに誇りを持って生きる。それだけだ。」
「…。雷炎様。今からどこに行くのでしょうか。」
「楽しみにしておけ。ほれ、少しペースを上げるぞ」
天武は見る風景全てが新鮮だった。あっという間に目的地に着いてしまった。
「雷炎様。ここはどこですか?」
「天武。見たらわかるだろう。ここは山だ。私はこの山でたくさんの修業をした。天武。よく聞きなさい。ここは武士の山。頂上に登る間にたくさんの試練が待ち受けている。例えば…。来たか。お出ましのようだぞ。準備しろ!」
「狼だ。」
「ウァオーーーン」
間延びした高い声が聞こえたとともに後ろから襲い掛かってきた。
「シュッ…」
天武は危機一髪かわした。
「おらぁぁぁぁ!!!」
「カチッ」
天武は狼に首輪をつけた。
そして雷炎は言った。
「お前は俺と似ている。私が初めて来たときにもそうしたものだ。私は捕まえた狼に名前をつけ、一緒に登ったよ。それからはものすごく仲良くなったな。」
と、調子よく言った。
「雷炎様。私もそのようにしていいですか。」
「構わん。好きにするがいい。ここは武士の山。武士のための山だ。武士のお前は頂上を目指せ。決して諦めるでないぞ。」
「はい!」
こうして、僕とおっちゃんの冒険は始まった。
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〈補足〉
※おっちゃん…天武が狼につけた名前です。