scene5 その後の英悠暉
すごく短いです。
「……矢っ張り、変わったな。早見さん」
帰っていく二人の背中を見つめながら、悠暉が呟く。
自分が恋に落ちた彼女は、あんな性格ではなかった。
一年生の頃の彼女は、あんな少女ではなかった。
いつだって怯えたような表情を浮かべ、人に話しかけられれば困ったように笑う。
心を許すのは幼なじみの鈴原だけ。
誰に対しても敬語は崩さず、女友達にすら一線を引いた態度をとっていた。
そんな、加虐心と庇護欲をそそった彼女は、もうどこにも居ない。
屈託なく笑い、誰にでも物怖じせずに話しかける。
自分から誰にでも話しかけ、人に笑顔を振りまく。
言葉も砕け、仕草だってどこか荒くなった。
こういうと欠点みたいだが、そうではなく……人間味が、今の彼女からは感じられた。
人形のように、綺麗なだけだった彼女が、人になった。
ふっと、悠暉が口角を上げる。
可笑しいな、人形のような、手折られそうな花のような彼女が好きだったはずなのに。
今の彼女も嫌いじゃ無い。
寧ろ、もっと惹かれていく自分がいる。
「…あー、やっぱ欲しいなぁ」
大きく背伸びをしながらそう言う。
狩りをする獣のようにぎらついた目を一瞬見せた悠暉だったが、直ぐに柔和な笑みを取り戻した。
その時、スマートフォンが着信を知らせた。
制服のジャケットからスマートフォンを取り出し、画面に映る名前に目を細める。
「はーい?もしもし」
『ゆうきぃー、彼氏が二股かけてたんだけど!さいっあく。ねぇ、慰めてよ』
きんきんと耳に響く高い声。
女の子はみんな可愛いし、慈しみ愛す存在だと思ってる。
たったひとりに愛を与えなくても、平等に与える愛に、喜びを感じる女の子はそれなりに居る。
俺だって、人に好かれるのは好きだし、求められたい。
だから、来る者拒まず去るもの追わずのスタンスでやってきた。
でも、多分それじゃあもう満たされない。
「ごめん、無理。もうこれから先、そういう相手出来ないから。ごめんね」
『え?マジで言ってんの?ねぇ、ゆうき!!!』
「ごめんね。欲しい子が居るんだ。だから、もう誰の相手もしない。」
『……マジなんだ…。そっか、いいよ。頑張って。じゃあね』
相手だって、俺に本当の愛を求めている訳じゃない。
現に、こうやってあっさり引いてくれる。
通話を終えたスマートフォンに指を這わせ彼女の連絡先を消す。
どうせもう二度と連絡は来ない。
「さーて、どうしようかな。」
悠暉のスマートフォンに、秋穂の連絡先はない。勿論鈴原のものも。
代わりに有るのは女の子達の連絡先。
ひとつひとつタップしてメッセージを送る。
彼女を手に入れる為なら、今までの自分を壊すことも厭わない。他の何を犠牲にしてもいい。そんなことまで思い始めている。
これが恋なのか、それとも別のことから来る感情なのか、悠暉自身にもわかっていない。
いや、悠暉は気付かないふりをしているだけ。
認めてしまえば、もう後戻りは出来ないから。
それだけは、ちゃんと分かっていた。
伊達に、チャラ男だの遊び人だの女好きだの王子だのいわれてない。
たったひとりのお姫様のために。
「……幼なじみが相手とか、燃えるよね」