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scene4

「うっ……ぅう…………っひっく……っ」


秋穂は空き教室でひとり泣いていた。

先ほど洸に掴まれた腕にはくっきりと赤い跡がついている。それはまるで洸との関係の終わりをはっきりと示しているようだった。


「……っ…………なんでっ……ひっく……洸……ぅぅぅぅ」


「…………早見さん?どうし……」


声の持ち主は同じ委員会の英悠暉だった。隣のクラスで学校の王子。そんな人に泣き顔なんて見られたくない。その一心で秋穂は叫ぶ。


「……っいやっ!!!みないでっ……!」


「早見さん!」


悠暉の横を通って教室から出ようとした秋穂だったが、悠暉の腕によって阻まれる。


「や……いや……っ離して……」


片手で抱きとめられ、顔を覆っていた手を無理やり退かされる。


「なんで、泣いてるの?ね、どうしたの早見さん……」


秋穂はなんとか泣きやもうとしたが、溢れ続ける涙は止まってくれない。


「早見さん、俺を見て……俺を見て!」


至近距離にいるのに、目を合わせようとしない秋穂に悠暉がハッキリした口調で言う。秋穂は体をビクつかせてから、潤んだ瞳に悠暉を映した。


「……洸…………じゃない…………」


「え?」


「私が泣いた時は何時だって、……傍に洸がいた…………なのに…………」


もう洸が秋穂のことを気にかけることは無い。なぜなら、洸にとって秋穂はどうでもいい存在になったから。凛香という存在が何よりも大事になったから、生まれた時から傍にいた秋穂のことなど気にかけることは無い。

秋穂を何時だって慰めてくれた、温かい腕はもう無い。その温もりに触れることは無い。


「……あっ……あぁ……っっ」


勢いを潜めていた涙が再び溢れ出す。


「…………」


悠暉は秋穂を抱きしめた。そして、耳元に唇を寄せた。


「……ねぇ、鈴原のことなんて忘れなよ。」


「え……?」


秋穂の泣き声に疑問の色が混じる。

体を離そうとする秋穂を、強い力で抱き続けると


「鈴原じゃなくて俺を見てよ。俺にしなよ。俺なら君を傷つけたりしない、君の手を離したりしない、俺が早見さんを…秋穂を愛してあげる、鈴原じゃなくて俺が、秋穂を幸せにしてあげる」


麻薬のような甘い言葉が紡がれる。

悠暉も本気だった。やっと、ずっと欲しかった人が手に入るチャンスなのだ。今までは、秋穂の傍にはずっと洸がいた。委員会が同じとはいえ、ちょっかいを出せるようなチャンスは一瞬たりともなかった。

今しかないのだ。

あの馬鹿が、秋穂の手を離した、この時が。


「俺は秋穂が好きだ。俺の恋人になってよ」


俺が幸せにしてあげる。

今更、幼馴染の彼女を手放し傷つけた馬鹿な鈴原じゃなくて、俺が幸せにする。


ふと思ったけど、鈴原は見る目が無い。

秋穂を手放して佐野凛香とかいう女を選んだ意味がわからない。まあ、俺にとっては得だから構わないが。


つくづく馬鹿な男だ。















秋穂は暫く黙って泣いていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。ぼんやりと虚ろな瞳で悠暉を見つめると

「……英くんは…、私のこと、すき……なの?」

その言葉に悠暉は王子と呼ばれる所以の、甘い甘い笑を浮かべて優しく囁いた。

「そう、好きだよ。」




悠暉は一瞬艶めいた表情を作ると、秋穂の瞳を手で覆った。


「俺と付き合ってくれるよね?」








手のひらに伝わる冷たい感触、悠暉が再び口を開く前に秋穂は小さく首を縦に降った。














________


っていう、英くんだよね……。

私が洸にふられて、その後に恋人になる、あの英くん……。

自分で言うのもなんだけど、なんでこんなグイグイくるタイプにしたのよ……。しかもイケメン。

つくづく自分の好みがわからない。


洸が自分の理想を詰め込んだ男で凜香が理想を詰め込んだ女。その2人が幸せになるのは、まあ、書き始めた頃から考えていた結末。


想定外と言えば、当て馬である秋穂が余りにも可哀想で見ていられなかったこと。


だから、秋穂を幸せにする為に「英悠暉」というキャラを作った。


……けど、無理じゃない?

いやいやいやいや、秋穂のタイプとかけ離れてるし、なんでやねんって突っ込みたいよ!



『なんか………って…………に、似てるよな』



そう、似てるから、不幸せになんてしたくなかった。


……誰に、誰が似てる?



頭がズキリと痛む。

何か大切なことを忘れている気がするのに、思い出せない。




「……早見さん?」



そう声をかけられて我に返る。

ごめんよ、未来の彼氏、存在を一瞬忘れてた。


心配そうに首を傾げる悠暉を見つめ返す。


兎に角、今はこいつをどうにかしないとね!































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