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scene1

私が自分の小説の世界に来てから早一ヶ月。

洸と凛香の間に進展という進展はない。

それどころか、連絡先すら交換していない!

二人の関係性と言ったら、顔見知りのクラスメイト程度。

洸にとっては、凛香は幼馴染の親友。

凛香にとっては、洸は親友の幼馴染。

自分で書いたことながら、もう少し早く二人の関係を進めるべきだと思う。

困ったことに、大体の話の内容は覚えているのだが、細かい日付を思い出すことが出来ない!

ということで私は、いつ何をすればいいのかと悶々としていたのだが……。

今はっきりと言えることが一つある。

心が折れそうだ。



遡ること二時間前。

授業が全て終わり荷物を片付けていると、凛香がいつもの如く近づいてくる。

「秋穂ちゃん今日の帰りパンケーキを食べていきません?最近人気なんですって」

「本当に?行きたいな!」

教材でパンパンに膨らんだリュックのチャックを何とか閉めながら、凛香の顔を見る。

きょとんとこちらを見ながら、小首をかしげる凛香が可愛い。自分で言うのもなんだけど、流石私の理想のヒロイン!!!男なら惚れるのは当然でしょう?!

むしろ今まで何も進展がなかったのがビックリなんだけれど!

「……秋穂ちゃん?どうしたの?」

「ううん?何でもないよ」

危ない危ない。一人で盛り上がりすぎてしまった。気遣いもできて可愛い凛香。私本当にいい趣味してる。

なんて彼女の可愛さにやられていた私だったが

「おーーーーい秋穂ー。一緒に帰ろ」

洸の間延びした声に現実に引き戻される。

洸はすたすたと私に近づくと、横にいる凛香を見て少し眉を潜めた。

「秋穂……と先約があったか……」

「あの……秋穂ちゃん」

二人揃って困ったように顔を見合わせているが、この光景見覚えがあります。

上手いこと私がやって二人は今日連絡先を交換するのだ。

やっと来た……。これで物語を進めることが出来る。

「折角ですし、鈴原君もご一緒しませんか?私たちこれからパンケーキを食べに行くんです」

私が口を開くよりも早く、凛香が優しい笑を浮かべていう。人見知りの彼女が珍しい。

それなのに「でも」と即答しないお馬鹿な洸。

バカ野郎こんな天使に誘われてるのに何を悩んでるんだ。

内心で暴言を吐きながら、助け舟を出す。

「凛香がこう言ってるし、洸、一緒に行こうよ」

すると洸少しだけ驚いたように目を見開くと、ふっと一つ息を吐き出して

「ん、分かった。宜しくな佐野」

「はい、宜しくお願いします。鈴原君」

とりあえず第一関門はクリア。

さて、この後どうやって二人きりにさせるかが重要だ。自分が書いた文章では、……ものすごいベタな展開だったし、今思えば好きな男と可愛い親友を二人きりにさせていいの?!って感じだけど、今は二人きりにさせることが目的だから……

歩いている途中、あまり会話は無い。あっても必ずと言っていいほど私が仲を取り持っている。

後ろを歩いていて姿の見えない洸が憎らしい。

いつもはうるさいくらい話しかけてくるのに、今日に限って何を物静かなイケメンの皮を被っとんじゃ!

仕方ない。私が考えついた作戦を決行する時が来たようだ。

パンケーキ屋まであと少しという所でうずくまる。

「秋穂ちゃん?!どうしましたか?!」

「秋穂?」

ふたりが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「うっ……お腹…………痛い……」

ごめんなさい。仮病です。でも二人の仲を進展させる為だから。

「ごめん……私一緒に行けない」

にやけそうになる、表情筋を精一杯引き攣らせて苦しさアピールをする。

「うん、分かってる。家まで送るから」

……え?

ここで洸のイケメン紳士が登場。

うん、カッコイイけどそうじゃない。

今はそうじゃないんだ。

「ううん。せっかくだから二人は行ってきて!ここまで来たのに勿体ないよ」

「秋穂ちゃん本当に大丈夫何ですか?パンケーキ屋は、また来れるんですよ」

ごもっともです。凛香さん。

「そうだよ。馬鹿言ってないでさっさと帰るぞ、馬鹿」

何で二回馬鹿言ったかな。

私にイケメンアピール要らないから。

二人共何でこんな時だけ押しが強いの。

では、ここでもう一押し。

「凛香……耳貸して……」

そう呟くと、凛香はふわふわの髪をかきあげる。現れた小さな耳に唇を寄せて囁くように話す。

「……生理痛なんだ。洸に知られると恥ずかしいから……」

「あっ……」

「だから……洸を引き止めて欲しくて」

少し無理があっただろうか。

だが素直で純粋な凛香は、疑うことなく「任せてください」と小さく拳を握り笑った。

そして私から視線を外さない洸に話しかける。

今のうちにお邪魔虫は退散しよう。

まだ心配そうにこちらを見続ける洸と、使命感を持って洸を促す凛香を置いて私は家に向かい始めた。

だからといってこのまま帰るのも何だか癪だ。

私だってなにか甘い物が食べたい。

「そう言えば、駅前に新しいクレープ屋ができたんだっけ。凛香と行く前に調査しておこうかな」

なんて呟く。

幸いなことに駅はパンケーキ屋の反対方向にあり、洸も凛香も電車通学はしていない。

だから二人に会う心配はない。

一人ルンルンと鼻歌を歌って、駅に向かう。

でも思ったより気持ちは上がらない。

さっきまで三人だったからか妙に虚しい。

そう考え出すと足が止まった。

「……これでいいんだよね。こうやって物語を進められれば元の世界に帰れるんだよね」

自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

黒いアスファルトに広がる水たまりに映った私の顔は、何故か寂しそうだった。

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