始まり
「俺はお前が好きだ。アイツのことなんか好きじゃない」
喜びに胸が震える。一体どれだけこの言葉を夢見ていただろう。
思わず涙が零れ落ちた。
「私も……アナタのことが……」
そこまで書いたところでペンを置く。
「んー、なんか違うんだよなあ……」
そう呟き、今まで書いた文章を消しゴムで消していく。
それが私の1日の終わりに繰り返される行動である。
「ハックしょいっ!うー寒……って、もう2時。寝ないと明日起きられない……」
視界の片隅に入った時計に驚いていると、思い出したかのように眠気が襲ってくる。こんな真冬の寒い夜に夜ふかしなんて馬鹿げている。
「……ふぁ……ねむ……」
本当に私独り言多いな、なんて自分に突っ込みながらベッドにもぐりこむ。
「おやすみなさい……」
そう呟くと彼女は、深い闇に落ちていった。
りりりりり……
どこか遠くで携帯のアラーム音がなっている。
「……ば、……な…いって」
うるさいな……あと5分…
「バカ言ってないで早く起きなさい!」
「痛ったい!」
母の怒鳴り声がしたのと同時に、わたしの上にあったふとんが引き剥がされる。
やめてよ!床に落ちると結構痛いんだから!
と文句はあったが、母の顔を見たら吹っ飛んだ。
お母さま、朝くらい爽やかにいきましょう。
完全に冴えた頭でクローゼットを開く。
いつものように制服に着替えて、軽く髪を梳かす。
顔を洗って食卓につくと美味しそうなトーストとサラダが前におかれた。
優雅な朝食を楽しんでから学校へと向かう。
「あ、桜が咲いてる……」
たしか昨日は寒くてたまらなかった気がするのだが、しかも冬真っ只中だったはずだが、気のせいだろうか?それともまだ、寝ぼけているのだろうか。
「あきほー」
まぁ、春は春で暖かくて好きだからいいのだけれど。
「おい、あきほー?」
冬も春も布団が恋しいのには、かわりないし。
「あ.き.ほ!!!!」
誰だようるさいなっ!!!と振り向く
「やっと気づいた。おはよ、秋穂」
いや、誰だよ。
髪がさらさらで、背が高くて、良い声のイケメンなんて私知らないよ。
「だっ、誰……」
「おいっ」
いいツッコミだ!!!!
「お前なー、幼なじみ忘れんなよ」
ん?……幼なじみ?
「秋穂の幼なじみの鈴原洸です。思い出しましたか~」
そういえば、秋穂って誰よ。
頭の片隅に穴が空いたようによくわからない。
秋穂?洸?
どっかで聞いたことはある。
「おーい、秋穂。本当にどうしたんだよ?」
イケメンが顔をのぞき込んでくる。
『お前のことそんな風に思ったことない』
『いい加減、他の奴に目向けろよ。』
あれ?
耳鳴りがする。
ザザザザザ……と目の前が壊れたテレビのようになる。
『私は、……ずっと洸のことが!ただ、ただ洸のことだけがっ!』
……私は、
「早見秋穂……だったね」
そうしぼりだすように呟くと、洸は苦笑いを浮かべながら
「だから、そうだって言ってるだろ。あー朝から疲れた。後で英語の宿題見して」
「ダメー。」
「なんでだよ!」
だって、気づいちゃったもん。
私のことがわからなかった理由も、洸のことわからなかった理由も。
……私は、洸に今までと同じ風に接せれないよ。
「おはようございます。二人とも」
優しく甘い女の子の声。ふんわりした髪に花の香り。まるで桜の妖精のような少女。
「おはよう。凛香ちゃん」
佐野凛香。
私の親友で……
私が作った物語のヒロインだ。