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32.報告

楽しんでいただければと思います。

 夜会襲撃はかなり大きなものだったらしい。

 夜会に侵入した襲撃者の三分の一を無力化したところで外の騎士が駆けつけ鎮静に至ったのだが、どうやら会場外ではオスク騎士長の予想通り警備兵が騎士を襲うといった事態が発生していたらしい。


 数日後、護衛任務で執務をこなす陛下の傍らに控えているとオスク騎士長と情報部の事務室長がやってきた。

 予測されていたにも関わらず襲撃者を会場入りさせてしまったことと会場外からの応援が遅かったことをオスク騎士長が、正確な情報ではなかったことを事務室長が詫びると、陛下はいつもの涼しげな表情で言った。


「むしろ良くやってくれた、というところじゃないかな。特にシモンの働きは大きい。襲撃人数こそ違えど、将軍とその直属の隊がいくつかしか動いていないからね。さすがに師団丸ごとが動いたら内乱となって骨が折れただろうから、軍内部で操作しそれを押し留めたことは賞賛に値する」


 言われてみれば確かにそうだ。一人一人の力量は騎士の方が格段に上なのは比べるべくもない。だが圧倒的な人数の違いがある。軍隊で攻められたら人数で押し負ける可能性も否定できない。


「本来ならいろいろと労いの言葉をかけたいのだけど……私との接触はご法度だからね。どうしたものか」


 と、陛下は手元の書類に目を落とした。

 ちなみにシモンというのが軍に潜入している騎士のようだ。


「シモンはそろそろ引退も囁かれる頃だろうけれども、本人としてはどうなのかな?」


「は、軍を抜けたいと聞いてはおります。ですが何分、軍の上層部に入り込める者がおらず、代替わりも進んでいないのが現状でした」


「なるほどね」


 陛下の手にする書類は先程軍部が持ってきたもので、急に空席になった将軍や隊長の後任などが書かれているものだった。


「軍の狸たちが減って、潜り込んだ騎士が数名取り立てられているようだから、これでシモンも代替わりが果たせるということかな」


「はい。引き継ぎや経過観察にしばらくは時間を要しますが、それでもそう遠くないうちに引退の申し出があるかと」


「では引退の際に私からなんらかの方法でシモンを労おう。それと――」


 と、陛下は俺を振り返った。


「レーヴィ、君もいい動きだったよ。初めての襲撃とは思えないほどだった。よくやったね」


 陛下の碧色の目が優しげに俺を見つめた。


「ここまで対応できるようになるとは、正直思っていませんでした」


 と、陛下の言葉にオスク騎士長がそう口を開けた。


「元々素質はあっただろう?入団当初から群を抜いて優秀だったのだからね」


「あくまで純粋な強さとしては、ですが」


 そう話されて、当人である俺は居心地が悪い。だが口を挟むわけにもいかずに黙るしかない。

 そんな俺の心境を知ってか知らずか陛下は再度俺に声をかけた。


「これからも頑張っておくれ」


「はい」


 そうして陛下が前に向き直ると、オスク騎士長達がいくつかの報告をし、やがて退室していく頃には護衛も交代の時間となっていた。

 オスク騎士長達が下がる際に入れ違いに次の担当護衛がやってきて、陛下は「もうそんな時間か」と呟いた。


「お疲れ様です」


 声をかけると、交代の騎士が告げた。


「お疲れ様。アントンさんからの伝言だ。帰りがけに屋敷に寄るように、と」


「了解です」


 短く返答を返し、陛下に頭を下げる。


「護衛ありがとう。次もよろしく」


 陛下はそう手を振って、俺は執務室を後にした。

 アントンさんからの伝言。職務に関することなら詰所にいる騎士が話してくれるはずだ。一体どんな要件なのかと首をひねりながら詰所に寄ったのちにアントンさんの屋敷へと向かうのだった。


 + + +


「やぁお疲れ様」


 非番だったアントンさんはゆったりと家で寛いでいたようだった。

 通されたサロンで待っていると私服を身につけたアントンさんが数枚の紙を手にやってきた。


「ここに来てもらったのは他でもない、アヤメさんから孤児院に手紙が届いたそうでね」


 アヤメから――静かに息を飲む。


「それをレーヴィにということのようでね、院長が巡回騎士に託したようだ」


 そう言って差し出された手紙の封を開けると、紛れもないアヤメの筆跡がそこには刻まれていた。

 何の連絡もなく突然いなくなったことを詫びることから始まった手紙は孤児院を巻き込みたくなかったこと、偶然居合わせた傭兵に助けてもらったこと、万が一の時のためにまだ居場所は明かせないが元気でやっていることなどが書かれていた。

 どこにいるかはわからないが、それでも手紙が出せるということは少なくとも安定した収入があり多少の余裕があるということだろう。

 俺は知らずに入っていた肩の力を抜いて深く息をつくと、更に手紙を読み進めた。


『レーヴィが騎士になるまであと二、三年だと思うけど、それまでにお金を貯めて王都に会いにいくって伝えてください』


 アヤメの手紙の最後はそう締めくくられていて、思わず熱いものがこみあげてくる。

 二、三年なんて待ってられるか。絶対に探してみせる。


「赤い野薔薇とは連絡がついたでしょうか」


 居場所を明かさないようにと指示をしたのは赤い野薔薇だと書いていた。なら、アヤメの隠れ場を指定したり、そうでなくとも行き先を聞いているかもしれない。


「君はまだ処分を受けている身だろう?この手紙については君宛のものだから手渡すことはできても、君が動くことはオスク騎士長は許さないだろうね」


 その言葉に俺は視線を落とした。

 もどかしい。ただそれだけの感情が渦巻く。処分さえなければ見つかるかもしれないのに。

 俺は静かに手を握り締めた。


「処分を撤回するには、君が行動で示さなければいけない」


 俺の気持ちを悟ってか、アントンさんは静かに告げた。

 ふと顔を上げると穏やかな、だがただ大人しいだけではないアントンさんの目とあった。


「日々の勤務態度は極めて良好。それに加えて先の襲撃事件での君の活躍は目を瞠るものだったよ。だけど、直談判にもっていくにはやや弱い。もっと決定的なものを見せなければならない」


 アントンさんの口調には既に回答が用意してるようだった。

 まっすぐにアントンさんを見据え、次の言葉を待つ。


「オスク騎士長と一騎打ちで勝つ。それが一番だろうね」


 以前アントンさんが言っていた。三ヶ月みっちりやればいいところまでいけると。

 そろそろ三ヶ月になる。護衛部の中でも上位にいることは自覚している。


「いけるでしょうか」


「あと少しだね。すでに私だけでは稽古にならなし、あとはクラウス副団長に相手をしてもらうといい」


「副団長ですか」


「そう。オスク騎士長の次に強いのはクラウス副団長だからね。稽古してもらうにはこれ以上の人はいないさ」


 副団長に稽古をつけてもらい半月から一ヶ月あればいけるだろう、とのことだった。

 だがそこで二つの疑問が湧く。


「副団長はこのことを知って稽古をつけてくれるでしょうか」


 俺はいま処分を受けている身だ。副団長からそれについて直接話があったわけではないが、騎士団を取りまとめるはずの副団長が協力するだろうか。


「クラウス副団長は面白いことが好きだから大丈夫だよ」


 なんなら私も頼むし、というアントンさんの口調は軽いものだった。全く問題がなさそうな回答に更にもう一つの疑問を口にする。


「オスク騎士長に勝てたとして、処分は覆るでしょうか」


 するとアントンさんはにやりと笑った。


「絶対に覆るよ。結局のところ護衛部はオスク騎士長も含めて――脳筋だからね」

読んでいただきありがとうございます。

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