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2.相棒になった騎士見習い

楽しんでいただけると嬉しいです。


 協力体制をとることになった翌日、剣術稽古の時間がやってきた。

 相手をしてもらいたいという見習いに囲まれるレーヴィは、けれどもそのどれもを断って僕のもとへとやってきた。


「本当にいいのかい?」


 レーヴィに相手をしてもらいたい人はたくさんいる。

 そしてレーヴィはより高みへと向かうことができるはずなのに、僕を相手にしてくれるという。

 そう思うと確認せずにはいられなかった。

 けれどもレーヴィは頷くだけで、すぐに広い場所へと移動して訓練用の剣を構えた。


「打ってきてくれ」


 とだけ言われて、僕も剣を構える。

 そうして踏み出して剣を振りかぶるけれど、当然のようにレーヴィがそれを受け止める。

 続けていくらか打ち込むものの、それらは全て真っ向から受け止め、受け流し、またはかわされていく。

 それはもう気持ちがいいくらいに。


「流石だね」


 つい声をかけてしまうけれど、レーヴィからの返事はない。

 表情はちらりとも変わっていないのだけど、なんだろう。彼は何か考えているように見えた。

 

「ライノ、本気でやってるか?」


 やがて聞かれたのはそんな言葉だった。


「そりゃあ真剣にやっているけれど、ふざけているように見えるかい?」


 思いがけない言葉に肩をすくめる。

 レーヴィからすると僕は弱すぎるから、真面目にやっていないように受けとれた?

 けれどもレーヴィはそういうことは思わない気がする。あくまで気だけど。


「いや、すまない」


 レーヴィも首を振るのだけど、やはりなにか考えているように思える。


「何かあるのだったら遠慮なく言って欲しいかな。昨日言ったように、僕には後がないからね」


 そう声をかけると、やや間があってレーヴィは頷いた。


「俺から打ち込んでもいいか?」


「もちろん」


 そうして彼は一度間合いを取ると剣を構えなおした。

 すっと目が細められ――


「うわっ」


 気が付いた時には目の前で剣を振るわれていた。

 辛うじて受け止めるものの、体勢をひどく崩す。なんとか転ばぬように耐えたところで次の剣が振り下ろされる。


「ちょっ――」


 これもあと僅かというところでなんとか受け流す。


「まっ――」


 待った、と言いたいけれども、次々に迫り来る剣に言葉が紡げない。

 レーヴィの気迫のなんと凄いこと。


 拙い。これはとっても拙いね。


 僕は冷や汗をかいていた。

 全ての攻撃をなんとか紙一重でかわし、受け止めるものの、それだけで手一杯だった。

 他のものに気を取られれば即切られる。もちろん刃の潰してある訓練用のものだけど、あんな鋭い斬撃を受けたらひとたまりもない。


 これは死ぬ気でやらなければ、命がないかもしれない。


 僕はとにかくレーヴィから目を離さず、全身全霊でその動きを追った。


 + + +


「大丈夫か?」


 訓練の終わりを告げる鐘がなったのは、僕が心身ともに疲弊しきった直後だった。

 肩で息をして座り込む。


「こんなに激しいのは入団以来初めてだよ」


 あれから今まで、僕はひたすらにレーヴィの攻撃を受けるだけだった。周りが何をしているかなど全くわからないままに、とにかく文字通り必死に体を動かした。

 対するレーヴィは多少息が乱れているものの、いつも通りの無表情。ここに来るまでにどれほどの鍛錬を行ってきたのか底が知れない。


「立てるか?」


 剣はすでにレーヴィに片付けてもらい、周りは各自訓練場から出て行っていた。


「情けないことに一人では難しいかな。すまないけど、肩を貸してもらえないかい?」


 頼りなく笑ってみせると、レーヴィは片膝をついて僕の腕を肩に回した。


「そこのベンチまででいいから」


 訓練場の隅にあるベンチに運んでもらい、壁に体を預けて深呼吸する。

 その間にレーヴィは席を離れていく。次の授業に向かったのだろう。

 僕は座学の必要がないから、ここでのんびりできる。

 そう思ってゆっくり息を整えているとなぜかレーヴィが戻ってきた。その手に持っていたコップを渡されて、中の水を飲み干す。


「ありがとう」


 冷たい水が体にしみて、少し楽になる。


「次の授業はいいのかい?」


「出なくても問題ない」


 間髪いれずに言うレーヴィ。

 彼はすでに予習の域を出たところを独学でやっている。わからないところは僕が教えてるし、確かに問題はなさそうだった。

 それでも――あとで僕から教官に一言声をかけておこう。そう決めて話を切り替える。


「今日やってみてどうだった?僕は強くなれそうかい?」


 周りのことが全然見えていなかったけれど、おそらくは端から見れば弱いものいじめのようだっただろう。

 僕はとにかく必死だったのだけど、一息ついたいま、レーヴィの行動は何かの思惑があってのことだったと確信していた。


「ああ」


 僕の問いにレーヴィはしっかりと頷いた。

 ひどく厳しい時間だったけど、頑張った甲斐はあったようだ。


「おそらく、無意識に手加減をしているんだろう」


 続く彼の言葉に、僕は一瞬何を言われたのかわからなかった。

 僕が手加減をしている?

 よく聞いてみると、型も正しいし力もそれなりにあるはずなのに、いざ対峙してみると力が出し切っていなく、弱いのだという。

 そこで先の質問になったわけだ。そうして僕が自分自身の気持ちの上で本気とわかったからこそ、次の判断要素として容赦のない打ち込みで試したとのこと。

 その結果、僕が打ち込む時よりも数段に動きが良かったと。

 死ぬかもと思って確かに全力を出していた気がする。


「まいったな。手加減なんてしているつもりは全くないんだけれど。無意識を解除する方法なんてあるのかどうか」


 レーヴィの推測に、僕は天井を仰ぐ。


「確実ではないが……」


 そんな僕を見てレーヴィが一つの可能性を示してくれた。


「このままライノが生きるか死ぬかのギリギリのところで打ち合いを続ければ、それが標準化するのではないか、と」


 ……。

 思わず先ほどの凄まじいレーヴィの打ち込みを思い出して身震いする。

 あれを続けると?

 思わず顔が引きつってしまった。


「どうするかはライノが決めてくれ」


 そう言ったレーヴィの顔は心なしか笑っているようにも見えた。苦笑、あるいは悪戯な笑み?

 なんとなくレーヴィという人物に近づいた気がした。どうやらただの堅物なだけではなさそうだ。

 彼と付き合っていればそのうち親友と呼べる仲になりそうな気がして、僕は笑って答えた。


「あー……騎士にはなりたいからね。よろしく頼むよ」


「ああ」


 そうして僕らは初対面以来の握手を交わしたのだった。

読んでいただきありがとうございます。


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