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19.独立後の未来

楽しんでいただければと思います。

 それから三年が経った。

 俺は十三歳――年長者組として独立後の進路を決める時期に差し掛かってきた。


「レーヴィ、ちょっと来い」


 独立後の話で呼ばれた俺は、院長室で親父を向かい合って座った。


「それで、どうするかは決めたのか」


「ああ」


 一ヶ月前、俺は親父から成人後の計画を考えるように言われていた。よく考えて道を決めろ、と。

 俺は前から剣術を習っていたし、これまでこの孤児院を出た兄たちの多くが警備や護衛といった職についていた。だから俺も自然とその方向を見ているわけだが、その中でも目指したいものがあった。


「騎士になる」


 俺はまっすぐに親父を見据えて言った。


「そりゃあまた、大きく出たな」


 家族のつながりを何よりも大事にするこの国では、その家族のつながりから外れた孤児の俺達を疎んじる人が多かった。

 俺達はなりたくて孤児になったわけでもないのに、どこか欠陥品のような言い方をされたり、いい目で見られる事はなかった。

 だがそんな中で騎士だけは俺達を見る目が違っていた。

 何度か訪れたことのある騎士はいずれも笑いかけ、時には一緒に遊んでくれることすらあった。

 両親を失った時、初めてあった騎士は俺をここまで送り届けてくれる道中、最後まで優しかった。

 その姿に憧れを抱かないわけはなかった。


「騎士になるまでの道は知ってるか?」


 言われて頷く。


「試験に合格して、王都の本部で見習いとして教育を受ける。そのあと準騎士になって仕事を教えてもらって、認められれば騎士になれる」


 以前訪ねてきた騎士に聞いた事があった。

 見習い入団をしてからおおよそ四、五年で騎士になれると。

 だがまず試験に合格すること自体が難しく、見習いとして入団しても厳しい教育に半数はついていけずに脱退するという。


「きついぞ」


 確認するように問われるが、俺の意思は揺るがない。


「騎士になれるように、指導を頼む」


「了解。お前さんには一層厳しい稽古をつける。学術に関しちゃ悪いがオレは何ともしてやれねえ。通いの爺さん先生には伝えとくから、今度話し合ってみてくれ」


「わかった」


 そうして話が落ち着いたかと思ったが、親父はふと窓の外に視線を向けた。


「アヤメはどうするんだ?」


 問われている内容はすぐに理解できた。

 はっきりと言葉にしたことはないが互いに想いあっているのはわかっていた。

 俺の心はすでにアヤメにしかなかった。可愛いと思うのも守りたいと思うのも、一緒にいて心地よく思うのも。傍にいるのが当たり前の今の状況を手放すことは考えられなかった。


「騎士になって迎えに行く」


 このままこの街で働いて、アヤメの独立後に結婚することも選択としてはあった。

 だがお互いほぼ無一文の状態で孤児院から独立するわけだから、一緒に暮らすことができるようになるにはかなりの時間が必要だった。

 それなら出来る限り騎士になるまでの年数を詰めて迎えに行ったほうが、その先は裕福な生活でアヤメを養い生活していける。


「アヤメにこのことは?」


「まだ伝えてない。試験に合格することが先だ」


 でなければ待っててくれなど言えるはずもない。

 首を振る俺に親父はもうひとつ尋ねてきた。


「入団できなかった時はどうする?」


「警備隊に入る」


 最悪の場合ももちろん考えた。入団試験に落ちれば騎士にはなれない。

 その場合は剣術を学び続けているなら護衛職や警備職を目指すしかない。


「そこまで決めてるんなら文句はねぇよ。なに、学術はともかく剣術についちゃあ申し分ねぇ。このまま学術を補えるぐらいの力をつけさせてやるさ」


「助かる」


 そして親父との話はすぐに終わった。


「よし、これで今年の打ち合わせは全員終わりだな。遊んできていいぞ」


「わかった」


 手をひらひら振る親父に頷き、俺は孤児院を出た。

 今日は天気も良くほとんどは川遊びに出ていた。純粋に泳いで遊んだり、上流で魚を釣ったり、何人かの組に分かれて行動しているはずだ。

 しばらく歩くと涼しげな水音と楽しそうな声が聞こえた。


「にーちゃ」


 真っ先に俺に気づいたのはリクだった。まだここに来て半年、三歳という年齢で親を亡くしたリクは俺を見ると満面の笑みで走り寄ってきた。

 最初は目が合うだけで泣いていたリクだったが、最近では気がつけば俺の足元にべったりと張り付くようになった。どうやら気に入られたらしい。


「あそぼ!」


 走ってきた勢いのままに抱きつかれる。

 全身ずぶ濡れのリクの頭を撫でてやると嬉しそうに顔を擦り付けてきた。


「もう終わったの?」


 リクにやや遅れてやってきたアヤメに俺は絶句した。


「レーヴィも一緒に遊ぶ?それとも上で魚でも捕まえる?」


 にこにこと笑うアヤメはリク同様にずぶ濡れだった。

 足首まであるはずのスカートは膝上で縛り上げられて腿まで露わになり、水分を含んだ服はぴったりと張り付き体の線を余すことなく晒していた。

 周りに視線を送ると年長者達が落ち着かない様子でアヤメに視線をやっていた。

 何でこんなことになってるんだ。


「風邪ひくぞ」


 俺は内心ため息をつきながらシャツを脱いだ。正直、そんなアヤメの姿がさらされていることが不愉快だった。

 そのままシャツをアヤメに押しつける。


「そう、かな?」


 俺の真意を計りかねたアヤメはやや首を傾げた。

 アヤメはたまにものすごく無防備になる。気にしていない様子のアヤメにたまりかねて言葉を足す。


「服、張り付いてるぞ」


 するとアヤメは瞬きをして自分の姿を確認し、再び俺を目があった。


「――っ」


 途端に顔を真っ赤にさせて自分を掻き抱くようにして胸を覆った。


「っ服、借りるね」


 か細い悲鳴のような声でアヤメは近くの茂みに駆け入った。

 リクを連れて川へと近づいていくと、年長者が騒然とした様子で会話していた。


「おい、アヤメっていつからあんななんだ?」


 二年前アヤメは特別に一人部屋を与えられた。唯一の異性として親父が取り計らったからだ。

 部屋は俺達の出入りが禁止され、夕食の片づけ後は会ってはいけないことになっていた。それまでは年少者と一緒に風呂にも入っていたが、それも禁じられた。

 つまりまわりは服を着ている姿しか見てない為に体格差に気付いてなかったのだが、さすがに今回ので気付いたようだった。


「レーヴィ知ってたか?」


 一人が声をかけてきて返答に悩む。

 ふとした拍子にぶつかった時、転びそうになるのを支えた時、触れる部分が柔らかいことには気づいていた。肩や腰、そして胸。はっきりと目の当たりにしたことはなかったが、そこは確実に柔らかかった。

 あまり周りには知られたくなかった事実でもある。


「ねーちゃ、おっぱいふわふわ」


 と、俺の代わりにくっついていたリクが満面の笑みで答えた。手がどことなくもんでいる動きだ。


「ってめ、触ってんのかよ」


 年長者達が食いつく。リクは変わらず笑顔で年長者達の意図は理解していなかった。


「ぎゅーって抱っこの時ね、やわかいの。ママといっしょ」


「まじでか」


「年少が羨ましい」


 ある年長者は頭を抱え、ある年長者は呻いた。

 そうこうしているうちにアヤメが赤い顔のまま戻ってきた。張り付いていたスカートは水気を絞られてかろうじて裾が広がり、上は俺のシャツを着ている。手に持っているのは着ていたブラウスだろう。


「服、ありがと」


 恥ずかしさのあまり、アヤメはこっちをちらちらと見るだけでぼそぼそと礼を言った。

 この様子なら今後は気をつけるだろう。


「あとは俺が見る」


 アヤメの様子にやや安堵をして俺はリクと川へと入っていった。

 このあたりはわりと浅くなっているため、ズボンのすそを折り曲げただけで問題がない。


「あ、ズボンも脱いだ方がいいかもよ」


 そんな俺に思い出したかのようにアヤメが声をかけてきた。

 怪訝に思って振り返った直後、


「打倒レーヴィ!」


 既に川で遊んでいた年少者が水をかけ、年中者は俺を転ばせようと体当たりをしてきた。慌てて足を踏ん張り耐えるものの、今度は三人がかりで引き倒される。

 あっという間に全身が濡れていた。


「やっつけたー!」


 尻もちをついている俺のまわりで歓声があがる。


「今日はそういう遊びが楽しいみたい」


 未だ顔の赤いアヤメだったが、どことなく苦笑しているのがわかった。よくみればほかの年長者も下着一枚で入っていた。

 なるほど。だからアヤメもあんな恰好だったのか。

 合点がいくと同時、俺はアヤメにあんな姿を晒させた年少者と年中者に逆襲するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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