12.騎士は未来を願い前へと進む
楽しんでいただけると嬉しいです。
無事に三人の騎士長との話がまとまると、思わぬ方向に進んだ話に僕はふわふわとした心意気だった。
「んじゃ、トゥーレ。帰って今後の話詰めようぜ」
「そうですね。クラウス副団長にも報告しないといけませんし」
二人の騎士長は立ちあがると、それぞれにレーヴィに励ましの言葉を送って出ていった。
「打ち合わせが途中になっていたようだな。この場でするぞ」
オスク騎士長は気持ちを切り替え、懐から一枚の紙を取り出しテーブルに広げた。
「おーい、ライノー?お前さんも行くぞ」
背後から声がかかり振り向くと、ドアから顔を出した状態のルーカス騎士長がいた。
「はい。オスク騎士長、失礼します。レーヴィ、また顔を出すよ」
僕は口早に言うと後を追った。そのまま屋敷を出て二人の騎士長に続く。
「青春だな」
「これで更にレーヴィ君は騎士団で話題の人物になりますね」
のんびりとした様子の二人につい声をかける。
「どうしてそんなに騎士長達は落ち着いているんですか?」
「んあ?」
「捜索の話はともかくとして、その見つかったアヤメちゃんがどんな状態なのか、心配しているようには見えなかったので」
まさかそれを考えていなかったわけではないだろう。
疑問を口にすると、トゥーレ騎士長が瞬きした。
「ひょっとしてレーヴィ君の孤児院のことを知らないのですか?」
「院長が、昔有名な傭兵だったというのは聞いていますが」
「それだけ?」
「ええ、気になってはいましたがそれ以上は知りません」
するとルーカス騎士長が深いため息をついた。
「なんだ調べてねえのか。てっきり調べ済みかと思ったが……何でも気になったことは調べるのがウチの鉄則だぞ」
「私的な事なのであえて調べるというよりも、そのうちレーヴィに聞こうかなと思っていました」
「なるほどな」
そうして改めて教えてもらう。
「『西の大虎ミカ』って聞いたことあるか?」
その名前に記憶を探るけれども、いまいち引っかからない。
素直に首を振るとルーカス騎士長が説明を始めてくれた。
「もう三、四十年くらい前か?そこらへんの小国がやたらと小競り合いしてたんだけどよ、その戦に出まくっては国から褒賞もらってた凄腕の傭兵だ。奴が出る戦は必ず勝つって話だったんだ」
一つの国に定まらずに渡り歩いていたものだから、国々は彼を手に入れようと躍起になっていたらしい。
けれども彼はお金を稼ぐことだけを優先させていたから、ひと所に落ち着くことはなく、その結果一つの国が勝ち続けるようなこともなく今の状態に落ち着いたらしい。
まさか、そんな大物がレーヴィの孤児院の院長だったと?
「この国は小競り合いもないし、全く関係がなかったからほとんど名前は知られてませんがね、彼はこの国の人間だったんですよ」
全く予想だにしない展開に、ただ騎士長達の言葉が耳に流れる。
「ある時急に姿を消してな、暗殺されたとか、病気で死んだとか、いろいろ言われてたんだがよ。まさか母国に戻って褒賞金元手に孤児院経営なんてしてたとはな」
「レーヴィ君の調査票をみて上層部では結構騒いだんですよ」
「つまり、だ。そんな人物が育ての親ってことは最悪のことを想定して嬢ちゃんにもいろんなことを教え込んでるはずだろってこった」
「確かに、レーヴィもアヤメちゃんは剣術も体術も馬術も教わっていたと言っていましたが」
「そういうこった。最悪のケースはもちろん予想はしとくが、それでも安易に重く考える必要もないってわけだ」
ルーカス騎士長の取りまとめの言葉に、僕は少しだけ気持ちが軽くなるのだった。
もちろんだからと言って心配しなくていいというわけではないのだけど、それでも心の持ちようは違う。
「あとは捜索して見つけるだけですね」
そうだ。捜索についてもお礼を言わなくては。
「ありがとうございます。騎士長達がいなければここまで話は進まなかったと思います」
現状で言うなら、この結果は最良のものだったと思う。それはすべて騎士長たちのおかげだ。
「なに、気にすることはないですよ。あのレーヴィ君が取り乱したと聞いて興味本位でついていっただけですから」
「そうそう。あの鉄仮面が?ってな。それに最終的に処分を下したのはオスクだしよ」
「彼は堅物ですけど、騎士の真骨頂ですからね。前置きの説教は長いんですけど」
くすりと笑うトゥーレ騎士長。
確かにそうかもしれない。オスク騎士長は厳格だけれどもただ人に厳しくするだけではない。人情深い人物でもあった。
「面白えよな。騎士ってみんな恋愛好きだよな。自分がするのも、誰かを協力するのも」
「それが騎士というものなのでしょう」
そんな会話が続いて、眉をひそめる。
助け合いとか思いやりではなく恋愛?
「まさか恋愛至上主義が騎士の真骨頂、じゃないですよね?」
「何においてもまず恋愛、というわけではないですよ」
「仕事はきちんとやらねえとな」
という二人に安心をする。
「分かりやすく言うなら、健全な恋愛が精鋭騎士を育むということですかね」
思えば男ばかりの騎士団で結婚までの経緯が出回っている騎士はかなり多い。
騎士長達は特異な面もあり有名だからわかるものの、思い起こせば他の騎士の恋愛事情もよくよく耳にするわけで。
「あくまで健全な、ってところがポイントな」
ルーカス騎士長は確かにそうかもしれない。けれどもトゥーレ騎士長はなんとも言い難い。
しばらく言葉を失っていると、二人揃って振りかえった。
「その点、ライノは不健全だよな」
「来るもの拒まず、一夜限りの関係を楽しんでたんでしたっけ」
「二股は無かったっぽいけどなー」
好き勝手に言っているようだけれども、全く否定できない。
商会を背負う予定だった者として、不祥事にはならないように相手は選んでいたけれど。
「入団してからは全く女性の影はありませんよ」
なんとなく後ろめたくてやや唸るようにいうと、二人の騎士長は笑った。
「そのうち運命の女性に会えますよ」
「だな。ライノはオレが鍛えて騎士長にさせる予定だからな。上に行く人間になればなるほど純愛志向だし、期待は十分だ」
僕が純愛をするなんて、あまり想像できない。女の子とはその都度仲良くしたいという気持ちは入団前となんら変わりが無かった。
自分のことをそう言われて複雑な心境で僕は口を閉ざすのだった。
+ + +
幼少の頃から戦闘術を学ぶ為に通っていた孤児院で暮らす女の子に惚れ込んだ貴族の男と両親に捨てられ好色貴族に目をつけられた儚い娘の悲恋として、レーヴィの話は瞬く間に騎士団内に広まった。
もちろんレーヴィの本当の出自は隠さなければならないからと嘘も混じってはいたけれども、それでも概ね真実のままに伝わったそれはまわりの騎士たちの同情を禁じ得なかった。
そして騎士たちは捜索に全力であたってくれた。
一方レーヴィはと言うと、落ち着いた様子で職務を全うしているようだった。
最初は何度もレーヴィの元へ足を運んだのだけど、彼の様子は概ね落ち着いているようでとりあえずは問題がなさそうだった。
旅立ちの前日に会いに行った時は今までとはまるで違った生活に追われて考える暇もないと苦笑していた。
新しい貴族としての生活と、騎士としての職務、さらにはオスク騎士長に「取り乱していたとはいえライノ相手に遅れをとるとは何事だ」とお叱りを受けさらなる扱きにあっているらしく――かつての僕の弟のように、忙しくて考える時間がないようだった。
「今年昇格した騎士様の中に凄い人がいる」
「金髪碧眼の王子様のような騎士がいる」
「とてつもなく強いらしい」
旅の先々で流れる噂の中にはそういったレーヴィの話も含まれていて、彼が頑張っていることがわかった。
僕も負けてはいられない。
ルーカス騎士長直々の教育に頭を総動員させながら実践に移るのだった。
読んでいただきありがとうござます。




