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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第0章 幕開けの準備
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第04話  『真相究明』

 皆さんにとって先生とは、どのような存在でしたか。自分にとってただただ鬱陶しい存在?自分を導いてくれた恩師のような存在?それとも自分に知識を与えるだけの存在?人それぞれあるでしょう。

 けれど必ず言えることがひとつ、彼らは絶対に公平に生きなければいけない存在であることです。

 昨日は様々なことがあった。様々なことがあったにも関わらず、渉斗は特にいつもと変わらぬ心境で登校した。

 昨日と同じく少し早めの時間に出て近所の俊也と共に自転車を押しながら歩いてるという、何らいつもと変わらない登校風景だ。強いて言うならば、一緒にいる人間がいつもと違うということだろう。


「何でお前がここに来てるんだ?」


 渉斗が質問すると、


「俊也さん、聞かれてますよ。何かしたんスか?」


「いやお前だよ、お前」


 この反応である。渉斗も堪らず突っ込んでしまった。これだけを見れば、一種の漫才にも見えてしまうようなやり取りだ。


「え、俺だったんスか?な~んだ、そうならそうと言ってくださいよ」


 当の本人はなんの反省もせずに会話を続けてるので、渉斗の気苦労も絶えない。

 渉斗と俊也の目の前に立っているこの大男の名は三雲亮輔(みくもりょうすけ)という。何を隠そう、彼はここら辺一帯を取り仕切っている大規模な不良グループのリーダーだ。


「いやね、何でも俺の後輩がここいらでたむろってる連中にボコされたらしくって、ソイツら締めに来たんスよ」


「おいおい物騒な話じゃねえか。ここいらでお前のとこのに手出す奴等なんているのか?」


 先ほどまでは黙って二人の会話を聞いていた俊也だったが、このタイミングで入ってきた。俊也にとっても聞き捨てならないことだったのだろう。


「確か八高の連中らしいです。新人の」


 八高とは、この近くで不良校として有名な八神高校のことだ。鳴山高校とも近いので渉斗が来るまでは鳴山高校の生徒にも被害が絶えなかった。

 これには渉斗も思うことがあるらしく、顔を悩ませている。


「お前が行くと色々面倒なことになる。取り敢えずこの事は俺が対処するまではなにもするな」


「ですけでどッ!鳴山の連中もやられたって話ですよ」


「なに!?」


 これには俊也も黙っておられず、無意識に声を漏らした。


「・・・・・そうか。そうなりゃ俺も黙ってられないな。てかお前、それがあったから俺んとこ来たんだろ」


「へへ、けど流石渉斗さん、そう言ってくれると思ってましたよ!」


 渉斗は内心調子のイイ奴と思ったが、彼は亮輔のそう言ったところが好きでもあるのだ。

 しかし彼も多忙な身のため、この件について少々頭を悩ませた。鳴山高校の生徒にも危害を与えたと言うのだから彼も見過ごせないが、以前にも似た案件で彼個人が対処したときに学校から決して少なくない始末書を書かされたのは記憶に新しい。


「取り敢えず待て、早ければ今日中にでも何とかするからお前は()()なにもするな」


 渉斗が強調したことを理解したらしく、亮輔は不敵な笑みを浮かべながら返事をした。


「了解です!」


「一応こっちが連絡してから来いよ。勝手に暴れられちゃあ敵わないからな」


 そう言うと亮輔は満足したらしく、その場でお辞儀をして二人の元を去っていった。

 厄介事がまた増えたと、意味のない嘆きを内心で呟いた渉斗であった。


 ―――――――――――――――――


 学校に到着すれば今度こそいつもと変わらぬ生活だ。新しくなったクラスと言っても、渉斗にとっては殆どの人が見知った顔だったせいもあって特に真新しくも感じられなかった。

 授業はあっという間に過ぎていった。殆どが新しく教科担当になった教師のガイダンスだったからだ。授業自体の時間はいつも通りの50分だったが、楽な授業だと体感時間では早く捉えてしまうというのはよくある話だ。


 四時限目の授業の終了のチャイムが校内中に鳴り響いた。そのチャイムを合図に静まっていた教室は一斉に騒ぎ始めた。


「なあ渉斗、昼飯食いに行こうぜ!」


 一輝もその一部となり、なんの遠慮もなく大声でそう話しかけた。


「悪い、今から委員会の仕事だから一緒には食えない。また今度な」


「あれ?今日って仕事あったっけか?」


「俺と俊也だけだ。そんじゃな」


 簡単なやり取りを済ませて、渉斗は急ぎ足で教室から出ていった。


 風紀委員会に割り当てられている委員会室に入ると、中には既に俊也が待っていた。


「よっ。お相手はいつ来るんだろうな」


「さあな。今すぐ来るかもしんないし、昼休みギリギリかもしんないし、来ないかもしんない」


 少々悲観的な考えだが、俊也はこれに反論をしない。正直なところ、俊也もまたこの考えに至っているからだ。

 何分この学校には不良生徒が少なからずいる。彼らが説教やら注意やらが予想される呼び出しに来ることなんて滅多にない。

 そんな生徒たちを相手に一年間過ごしてきた二人がこの考えに至るのは仕方のないことなのだろう。


「にしても、なんでまた呼び出したりしたんだ?俺の耳にはまだ何も届いてないぞ?」


「えっとな・・・・何て説明すりゃぁ――――」


 その時、委員会室の扉がそっと開かれた。

 二人は一斉にその方向に視線を向けた。すると、


「な、なんですか!?二人して睨まないで下さいよ!」


 現れたのは碧眼の美少女なんかではなく、白衣を着た冴えない中年男性だった。


「なんだ横居先生でしたか。どうしたんですか?」


 俊也は拍子抜けしたような声で相手の方を見さえもせずにこう言い放った。渉斗も同じように溜め息混じりに息を吐いた。

 この目の前にいる男性は横居聡助(よこすえそうすけ)と言う、こう見えても風紀委員会の顧問教員だ。


「どうしたもなにも、私はあなた方風紀委員会の顧問なんですよ。昼休みくらい用がなくとも来たりしますよ」


「そうでしたか」


 横居が言っていることは当然のことだが、渉斗たちからの態度は存外なものだった。

 渉斗たち生徒から見て横居聡助という教師は少々、いやかなり頼りなさそうな教師だった。穏やかそうと言えば聞こえは良いが、横居に関してはどちらかと言えば気弱そうという印象が強い。とてもじゃないが風紀委員会の顧問には不釣り合いな態度だ。

 こんなことも相まってか、基本的に目上の人に対しては礼儀を尽くす渉斗でもこの態度だ。


「そんなことより、二人の方こそどうしたんですか?そんなに気を張って」


 そう言う横居の表情はどこか怯えても見えた。彼の性格ならば仕方のないことかもしれないが。なんせ渉斗も俊也も総じて目付きが悪い。気を張っていたせいもあってか、ただならぬ雰囲気を醸し出している。


「ちょっと一人の女子生徒を呼び出してましてね。一年生なんですけど」


「ほう、ちなみにどこのクラスの?」


「一年二組の静森っていう生徒です」


 それを聞いた横居はふと顔をしかめた。


「二組の静森さんですか?彼女なら今日早退しましたよ」


「本当ですか!?」


それを聞いた瞬間、渉斗は思わず机から身を乗り上げてしまった。それに若干怯えた反応をした横居だが、そのまま会話を続けた。


「ええ。私の授業中でしたので確かですよ。えっと吐き気がするとかで・・・・あっ!もしかして彼女が言っていたのって、このことだったんですか!?」


 何かを思い出し気づいたらしく、大声を上げた。彼の言ったことが気になった渉斗はどうしたのか質問をした。


「多分なのですけど彼女、教室出ていくときにこう言っていたんですよ。明日には行く、って!多分この事だと思いますよ。そうですよね?」


 渉斗は横居が確認するまでもなくこの事だと理解した。早退が故意かどうかまでは分からないが、どちらにしろ彼女が今日ではなく明日来ると言ったことは間違いないだろう。


「まあ取り敢えず、本人が明日来ると言ってるなら明日また待つしかないんじゃねえの?そもそも今日は本人も居ないことだし」


 俊也の言っていることに賛同した渉斗が頷いたことでこの件については保留となった。

 その様子を見た横居が今更ながら部屋に置いてある給水ポットから水を一杯汲んで椅子に座ると、紙コップに入れてある水をすすりながら読書をし始めた。どうやら本当に暇潰しで来たようだ。

 そんな彼を呆れ顔で伺っていた渉斗が、とあることを思いだし会話を切り出した。


「そういえば先生!ちょっと相談事があるんですけど」


「お、何ですか何ですか。私もやっと先生らしい所を見せられるときが来ましたか!」


「ああいえ、別に先生が期待してるようなものじゃありませんけど」


 教師としての見せ場が来たかと胸踊らせていた横居に対して放った渉斗の何気ないその一言が彼の肩を大いに落とさせた。


「うちの生徒が八神高校の一部生徒から被害を受けたらしく、それについて対処したいと思ってるんですが」


「対処ですか、具体的にはどのような?」


「本校生徒への迷惑行為をしないよう注意喚起します」


 それを聞いた横居は困ったような顔をした。


「八神高校には暴力行為が多い不良生徒も多いと聞きます。今回の件についてもその生徒達の仕業でしょう。君達が肉体的にも強いという話は前任の先生から伺ってます。ですが私は一教師として生徒を危険な場所へ行かせるわけにはいけません」


 彼の顔はいつものようなおぼつかない顔ではなく、一人の教育者としての顔をしていた。

 しかしこのように言われるのは渉斗も最初から予想していた。


「ですけど、それじゃあ生徒への被害はまた出てしまいます。先生がそうおっしゃるなら俺個人として――――」


「―――ですが!」


 そこで渉斗の声は横居の大きな声で遮られた。


「この事は職員会議でも話題になっていましたが、他の先生方はどうやらこの事を放っとくおつもりのようだ。そんなこと、教師以前に一人の大人として見過ごせるはずがない。ですので二人とも、非力な私から頼みます。どうかお願いします」


 横居は椅子から立ち上がると深々とお辞儀をした。された相手である二人は最初戸惑っていたが、横居の上げた顔を見て安心した。彼の顔はいつも通りの頼りない先生の顔だった。


「なあに、これでも私は元大学教授ですよ。もしもの時のコネくらいはあります」


 悪戯を企んでいる少年のような口調でこう言った横居に、俊也は胸を張ってこう言った。


「任せてください!自衛の術くらいは持ってますよ」


 渉斗も自信ありげに笑って見せた。


 横居の思わぬ助力、もとい許可を得たことで渉斗と俊也は堂々と委員会室を後にすることができた。

 俊也と肩を並べ歩いていた渉斗の足が急に止まり、何事かと半歩先を歩いていた俊也が振り向くと渉斗が携帯電話を取りだし何かを打ち込んでいた。

 気になった俊也は彼の横に並び携帯電話の画面を除き見る。


     『準備完了。放課後こっちに来い。』


 本文にあったように、渉斗と俊也は二人して自転車で学校まで通ってます。と言うのも、彼らは他の中学校組よりも少々離れた所に住んでいるからです。時間で表せば、中学校組なら徒歩15分程度の距離ですが渉斗達は徒歩30分といったところでしょう。

 余談ですが、亮輔は鳴山高校からすぐそばの駅から二人と合流しました。

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