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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第0章 幕開けの準備
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第02話  『 出会い、再び』

 皆さんには昔の友人、あるいは久しく会っていなかった知人なんかと思わぬところでばったり、なんて経験はありますか?僕はあまりそういう経験はありませんが、そういう場面なら出来るだけ仲のいい人とがいいですね。

 相手が自分のことを覚えていない、なんてこともありますけどね。

 さて、渉斗は一体どんな人物に再会するのでしょうか。

 

「それで?委員長様は絶世の美少女をナンパしてイチャイチャしていた結果、教室から移動するギリッギリで間に合ったってことですか?」


 教室に全力疾走で何とか間に合った渉斗に放たれた第一声がこれだった。


「おい一輝、これはどいうことだ?」


  目の前にいる渉斗にとって訳の分からないことを ぼやいている飾りっ気のないショートヘアーが特徴的な少女、宮森飛鳥(みやもりあすか)のことは完全に無視し、恐らくこの問題の元凶であろう一輝に問いただす。


「えーと、その、飛鳥がね、渉斗はどうしたって言うからね、そのー・・・・ごめんなさい」


  渉斗のとても高校生とは思えないほどの威圧に耐えかねた一輝は、自らの悪事を認めた。


「まあまあ、それは置いといてさ、あの子はどうなったの?」


  そして何事もなかったかのように話題を変えた。

  一輝のこの態度に若干の苛つきを覚えたものの、渉斗は渋々彼の質問に答えた。


「ちゃんと連れてったさ。学校の場所がわからないなんて言い出すから苦労したぞ」


 やれやれ、と如何にも困った風な手振りでそう言った。

 ここで、散々放置されていた一人の少女が頬を膨らませ堪忍袋の緒が切れた。


「無視するなー!なんなのよ二人して私をいじめたいわけ!?」


「あーあー悪かったな。んで、お前は何がしてもらいたいんだ?時間ないんだからあんまし構ってらんないぞ」


 渉斗の存外な扱いに不服を述べつつ、素直に自分の要件を言った。


「だからさ、渉斗はその美少女ちゃんと何してたってわけ?」


「なんだよ、そんなことか」


 渉斗はそんな大声で騒ぎ立てている飛鳥の態度に疑問を覚えつつ、先程までの出来事をそのまま彼女に話した。

 それを聞いた飛鳥は、先程までの態度とは打って変わって大人しくなった。


「それってつまり・・・・・渉斗が単に迷子だった新入生の子を学校まで送ってあげて遅れたってこと?」


「それ以外に考えようがないな。」


 途端、少女の顔はみるみる赤くなり恥ずかしそうに呟いた。


「えっ、じゃあ、私・・・・とんだ勘違いしてこんなに騒ぎ散らして立っていうの!?やだっ、恥ずかし・・・・・・・っていうか!一輝あんた全然違うこと言っていたじゃない!」


 飛鳥はまるで独り言のようにぶつぶつ呟いていたが、自分の恥ずかしいこの行動の元が一輝であったという事実に気が付き、さっきとは違った意味で顔を赤く膨らませ再び怒鳴り始めた。


「いや~、し、知らないな~。それよりも渉斗、さっさと移動しようぜ!」


 飛鳥から逃げ惑う調子のいい一輝とそれを怒鳴りながら追いかけている飛鳥、そんな騒がしい二人の友人を横目で伺いながら自分も移動の準備を始める。

 その時、移動の準備をしている渉斗に声をかけてきた人物がいた。


「二人とも相変わらず仲がいいね。おはよう渉斗」


「ん?ああ、おはよう光貴。それに伽耶もな」


「うん、おはよう。渉斗君」


 声を掛けてきたのは、如何にも優男といった雰囲気を漂わせながらも、雰囲気には似つかわしくない大柄な少年、八木沢光貴(やぎさわみつき)

 更には、彼の傍に立っていたこれまた雰囲気的にも外見的にも母性溢れる少女、松灯伽耶(まつどもえかや)の二人に挨拶をした。


「うっし、そんじゃ俺らも行くとするか」


 どうやら準備を終えたらしく、渉斗は二人に移動するよう声を掛けた。

 その誘いに断るはずもなく、二人とも頷き移動を開始した。

 

 すでに多くの生徒が移動しており、渉斗たちが移動したことで遂にはその教室の中は無人と化した。そんな閑散とした教室を背に、渉斗たちは式が行われる体育館へと進んでいった。



 体育館には既に多くの生徒たちが各々指定された席に着席し、ざわつきながらも皆待機していた。

 渉斗は風紀委員長ということもあり、他の生徒とは違う、教師陣の座っている座席の傍に着席した。そこで、またしても渉斗に声を掛けてきた人物が現れた。


「よっ。ずいぶんと遅かったな」


「おう。ちょっと迷子の生徒がいてな。そっちは大丈夫だったか?」


 挨拶もそこそこに済ませ、いきなりに会話を始める二人。渉斗の隣、つまり風紀委員の副委員長の座席に座ったこの少年は、渉斗の小学校時代からの親友である前沢俊也(まえざわしゅんや)その人だ。


「こっちは無事終了、って感じだな。ちっとばかし喧嘩腰の奴がいたがどうやら亮輔の後輩らしくてな。俺と目合わせてすぐ挨拶してきたよ」


「はっはっは、あいつの後輩ならしっかりしごかれてるだろうし安心だな。むしろ他の半端モン共の抑えになるだろうさ」


 そう二人で笑い飛ばしていると、すぐ近くにいた教師陣に睨まれてしまった。その視線は、静かにしろ、と言外に訴えている。

 二人は苦い顔をしながら、周りにいる他の委員会の生徒たちにクスクスと笑われ、肩身の狭いまま入学式は開式された。


 入学式は滞りなく進行された。渉斗は内心、何かやらかす奴でもいるんじゃないかと目を光らせていたが、どうやら彼のことが既に新入生の間で広まっているらしく、そんな馬鹿なことをしでかす輩は一人たりとも現れなかった。

 そして渉斗は一人の少女のことをふと、唐突に思い出した。


(そういえばあいつ、ちゃんと式に参加できただろうな?)


 今朝出会った不思議な少女――むしろ彼女や傍から見れば、渉斗の方が不思議な行動をしていたのだが――のことを思い出したのは偶然だった。

 だが偶然だとしても、一度思い出してしまったのなら簡単には無視できなくなる。


 気になった渉斗は何となく一年二組の生徒が座っているはずの座席に目を向けてみたが、彼の座っている位置からは遠くて見えなかった。


(まあ同じ学校にいるんだからその内また会うだろう)


 そう彼が思ったのも、ただの偶然だったのだ。



 ――――――――――



 式は無事終え、今は椅子や机、幔幕(まんまく)を委員会や運動部といった生徒たちで片付けている。

 もちろん渉斗や俊也も例外ではなく、むしろ委員会のトップである彼らは他の生徒より人一倍率先して仕事をこなしていた。


「おい錫巳、この幔幕を旧校舎の倉庫に仕舞って来てくれないか?」


「旧校舎の倉庫ですね。了解です」


 一人の教師が折り畳まれた幔幕を指差し旧校舎の倉庫へと持って行くよう頼んできた。

 旧校舎は学校の敷地から若干離れた所にあるため、あまり気が進まなかったが自分の立場上断ることもできず了承の返事を返した。


「ご苦労なこったな、委員長」


 どうやら今の会話を聞いていたのであろう、椅子の整理をしていた一輝が茶化してきたが、いちいち反応するのも面倒なので渉斗は一輝のことを無視し、そのまま体育館を出ていった。


 体育館、さらには裏門も抜けて彼は旧校舎へと辿り着いた。


「相変わらずボロいな、ここは」


 辺りには誰一人としていないにも関わらず、いやむしろ誰一人としていなかったからこそ渉斗はそんなことを呟いた。


 確かに旧校舎は彼の言う通り随分と古びている。校舎だけを見れば、まだ趣のある古風な校舎と言えなくもないが、なにぶん辺りは春だというのに未だ葉が生い茂っていない木々がたくさん生えているせいで、不気味な雰囲気を醸し出している。

 渉斗が入学してきた時には既にこの状態であり、彼が聞いた話ではもう何十年もの間使われずに放置されているらしい。


 そんな不気味な校舎を眺めていると、ここに来ている理由を思いだした渉斗はさっさと仕事を終わらせるべく、倉庫へと足を走らせた。


「よし、こんなもんでいいかな」


 幔幕を倉庫に仕舞い終えた渉斗は用のなくなった旧校舎から離れようと倉庫の入り口へと向かった。


 入り口には一つの人影が、こちらを向いて立っていた。


「―――!」


 誰もいないと思っていたこともあり、彼は無意識に後退(あとずさ)んだ。

 しかし、日光の差し込まれた結果逆光で見えづらくなっていた人影がだんだんと姿を表し、その正体に渉斗は安堵した。

 そこに立っていたのは、今朝彼が学校まで必死に届けてあげた碧眼の美少女だった。何故か格好は違うが。


「・・・・・なんだ、お前か。脅かすんじゃねえよ。」


 そんな文句を、笑いながら彼は言った。

 そんな文句に、彼女は答えた。


「あなた、だれ?」


 渉斗たちの在籍する鳴山高校には、決して多くの不良生徒がいるというわけではありませんが、少ないかと問われればそうとも言い切れません。それくらいの人数はいる、ということです。

 しかし、鳴山高の不良生徒は学年問わず、恐らく学校内、少なくとも渉斗の目が届いている範囲では、目立った行為はしません。

 それほどまでに、会話によく出てくる"亮輔"という人物の影響力は強く、そんな彼を渉斗が成敗したという"事実"はさらに強いのです。

※亮輔は近いうちに登場する予定です。

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