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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第0章 幕開けの準備
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第01話  『出会い』

 皆さんの入学式の思い出はどんなものでしたか?僕は浮かれすぎて朝のホームルームになるまでずっと間違えた席に座っていたことが印象に残ってます。

 桜の花が舞い散る校門、これからの高校生活に胸躍る新入生、そして・・・・


「おい新入生、なんだその格好は。入学早々身だしなみも整えられないのか!」


 耳が痛くなるような叱責。


「っんだよっ、説教なら足りてんだよ。セ~ンパイ」


「いい度胸じゃねーか!歯ァ食いしばれよ!」


 服装がだらしなく髪も奇抜ないかにも不良といった新入生の少年と、見た目こそ真面目そうだが雰囲気ならば不良少年よりも殺気立っている風紀委員と記された腕章を携えた在校生の少年。 

 胸ぐらを掴みあい今にも一触即発しかねない場面である。

 一言足すならば在校生の少年は右拳を大きく振りかぶっている。


「やめろよっ、渉斗!なにいきなり殴ろうとしてんだ!」


「止めるな一輝。この舐め腐った一年の根性叩きのめしてやる!」


「いや止めるよ!お前そう言ってこの前受験しに来たやつのことぶっ飛ばしたじゃねえか!」


 仲裁に入ってきた一輝と言われた少年に食って掛かる渉斗と言われた少年。完全に不良少年は蚊帳の外だ。

 そんな中、この喧騒を終わらせたのは意外な人物の発言だった。


「渉斗って、もしや鳴山高の錫巳渉斗(すすみしょうと)さんっすか!?ヤッベ、すんませんした!」


 突如として謝りだした不良少年。

 一輝はポカンとした表情を浮かべる中、渉斗はつまらなそうに一蹴した。


「謝るのなら先に服装を正せ。今後丸々三年間、俺の世話にならないようにしろ。わかったらさっさと行け!」


 言われた通りに反省した不良少年は逃げるかのように走り去った。


「ったく、なーんでお前はいつもそう短気なんだよ。自分のこと名乗っときゃあ大抵のヤンキー共はビビッて逃げてくってのによ」


「ビビらせたんじゃ意味がないだろ。そんなことしたって俺がいないとこでまたしでかすんだよ。こういうのは反省させて何ぼだろ」


「おい、お前さもいいこと言ってる風だけど殴ろうとしてたからね今」


「うるせーうるせー!お前も風紀委員なら仕事しろ!今年の1年は随分舐めた奴多いぞ」


「へいへい、分かりましたよ委員長サマ。ぶっちゃけヤンキー多いのは去年お前が亮輔倒したことが原因だろうけどな」


 一輝の呟きに反論することができずに苦い顔をする渉斗。

彼が去年ここら辺の地域を一年生にして統括していた不良グループの筆頭にたまたま絡まれて成敗したという噂が原因だったりなかったりする。


「もうこんな時間か。もうそろ戻った方が良いんじゃねえの?」


「そうだな、一通り学校周辺見回ったら俺らも行くか」


 腕時計の時間はもう8時20分、式が始まるまでにあと20分弱といったところだ。

 二人は校門を出てHRに間に合うかどうかギリギリの時間に急ぎ足で学校へ向かってる在校生に急ぐよう催促をしながらも学校周辺を巡回し学校へ戻ろうとした時、渉斗が一人の新入生を見つけた。

どうやら女子らしい。

「っ!俺が行ってくる、お前は先に戻っといてくれ」


「おう、んじゃよろしく―」


 一輝と別れ、少女の方に話しかけようと走り出した。


「そこの新入生!こんなところで何・・・・・・」


 少女が渉斗の声に気が付き振り向いた、瞬間



 ありがとう、ごめんね。



 渉斗の脳裏に浮かんだのは、澄みきった声。

初めて聴く懐かしい声。

 突然視界が歪んだ。涙で視界が滲んだのだ。

 何故だろう、こんなにも頬を伝う涙が熱いのは。何故だろう、こんなにも彼女を見て胸が熱くなるのは。

 少女はその無垢な碧眼で渉斗に焦点を合わせながら当惑していた。

 どうして目の前にいるこの少年は自分を見て突然泣いているのだろうか。そう思うのも当然だ。

 恐らく自分の先輩なのだろうが、初対面の人間に泣かれたことなんて一度もない。

 赤ん坊相手ぐらいだ。


「何であなたは、ないてるの?」


 少女はどうしようもなく首を傾けていた。


「・・・・っ!悪い、何でもない」


 少女の声で我に返った渉斗は、流していた涙を急いで拭いやっと本来の仕事をした。


「お前新入生だろ?早く行かないと入学式に間に合わなくなるぞ」


 そう言って俺も急いで戻らなくてはと、彼が踵を返すと何かに引っ張られていた。

 振り向けば、少女が彼の制服の袖を掴んでいた。


「何か用か?」


「学校までの道をしらないの。おしえて?」


 しばし渉斗は思考した。


「・・・・・は?」


 思考した結果、彼はこう返事するしかなかった。



―――――――――――――――



「何とか間に合ったな・・・お前、クラスは?」


「2くみ」


 走って何とか式が始まる前に到着し一安心したのも束の間、彼にはまだ仕事があった。彼女の教室だ。


「2組ならそこの角曲がったとこにすぐある。たぶんまだ移動してないと思うからさっさと行け。俺も自分の教室に戻らなきゃなんだ」


 息こそ乱れてはいないが彼の内心はいつも通りとは言えなかった。

 いくら委員会の仕事とは言っても2年生は1年生よりも移動が早い。このままだと間に合うかどうか危ういのだ。

 少女はそんな彼の内心も知らずにか、一拍間を置いて返した。


「うん」


 彼女の返事を確認してすぐさま自分の教室まで全力で走り出した。

彼はあっという間にその場からいなくなり、彼女の視界からもいなくなった。


「またね、渉斗」


 少女は知るはずもない彼の名を口にしたが、その小さな声は教室から聞こえてくる騒音に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。




 鳴山高の委員会制度はちょっと特殊です。新年度になると三年生は委員会にはいず、二年生だけで行ってます。そこに、一学期終了までに一年生を加えます。

 ちなみに、渉斗は風紀委員長ですが、一輝はただの風紀委員です。

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