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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
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第18話  『覚めぬ宴』

※未成年の飲酒、飲酒の強要は犯罪です。彼らはフィクションの人物なので出来ているだけですので、ね?


「いや〜、渉斗さんすごかったっすよ!」


「俺、マジで惚れました!!弟子にしてください!!」


「い、いや、そこまで言うほどじゃあ……」


 ごつい大人達に取り囲まれ、果てには告白までされる少年の図。


「そんなことないっすよ!山崎さん倒すどころか、まさかあの班長すら倒しちまうなんてっ!」


「しかも、こんなシュッって!シュッって!」


「そ、そんなに凄いことでも……」


 彼らには、どんなに渉斗が引きつり笑いをしながら逃げようとしても、謙遜した渉斗が爽やかに微笑しているようにしか見えない。

 勝負に勝ちながらも、決して驕ることのない圧倒的強者。好感度は上がる一方である。


 そしてなにより面倒臭いのが……


「おうおうお前ら!渉斗大先生に気安く話しかけんじゃねぇやい!あ、渉斗さんお代わりお持ちしました〜」


「あっ!ずるいっすよ山崎隊長!負けた張本人のクセして!」


 そう。渉斗にボコボコにされた張本人が誰よりも、渉斗に心酔してしまっていることである。

 潔いと言えばとても潔いのだが、渉斗としてはむしろ突っかかってくれる方が、まだこの状況から脱出しやすかったのだが。


(いやこういうのは大抵、負けたからといって認めた訳じゃねぇよ、的なこと言ってくるだろ!どんだけ潔いいんだよこの人!)


 渉斗も内心、この有様だ。


 そして渉斗を苦しめている要因が、他にもう一つあった。


「ささ!渉斗さんグッといっちゃってください!グッと!」


「渉斗さんの飲みっぷり見たいっす!」


「いやぁ・・・・・・・」


 目の前にあるのは、並並に入れられたビール。

 悪い大人たちに飲酒を要求される高校生。


 どうしてこうなったかと言うと・・・・・



 ――――――――――



「勝った!!マジで勝ちやがったぞ!?」


「うぉぉぉ!!すげぇ!!あの班長と一対一(サシ)で勝っちまった!」


 一瞬の静寂の後、その場にいた全員が等しく雄叫びを上げた。

 ある者は二人の戦士の戦いに感動し、ある者は二人の戦士の戦いに驚愕し、ある者は二人の戦士の戦いに安堵する。


「ったく・・・・俺だって10年も鍛えてきたんだぞ?」


「はは、悪いがお前が俺に勝てたことがあったのかよ」


「へっ。ホントに無礼なヤロゥだな」


 そう悪態を吐きながらも、顔は存外に不愉快そうではない。先に起き上った渉斗は未だ床に尻をつかせている伸介に手を差し伸べる。

 一瞬捻くれた笑みを見せられ、若干警戒してしまった渉斗だったが、その後は素直に渉斗の手を取った。


 二人がきちんと立ち上がると、周りで見ていた兵士達が途端に彼らの元へ走り寄ってきた。


「なんすか今のっ!?むちゃくちゃやばかったですよ!!」


「俺達、あんな戦い見たの初めてです!」


 皆が賞賛の嵐を止めない。屈強な男達が今は無邪気な子供に見える。

 そんな中、とある男が足音を響かせ兵士達の海を割って入る。


「や、山崎さん・・・・」


「まじかよ・・・・」


 誰も止めようとはしないが、雰囲気は一転した。

 険悪、ともでは言わないがあまり良いものでもない。皆何も言えないが、良しとはしない雰囲気。


 そして頬を赤く腫らせた山崎が、渉斗と伸介の前に立つ。


「班長・・・・・・・・・舐めたマネしてスンマせんでしたっ!!」


 豪快に頭を下げた。空気が音を立てるほど豪快に。


 渉斗や周りの兵士達は唖然とする。まさかこの男がここまで潔く自分の非を認めるだなんて、と。

 しかし伸介は、それを見越していたか、全く驚いた様子もなく続けた。


「テメェに頭下げられた程度で、何も嬉しかねえよ」


「そう・・・っすね、そんじゃあ・・・・」


 そう呟くと、今度は渉斗の方へ向き直す。その厳つい顔をより一層険しそうにしながら。


(なんだ?・・・・まさかさっきのは不服だって言いたいのか・・?)


 山崎の心情が読めず、判断に困る。いつ何をされるかもわからないので、出来る限り警戒はしているが、先ほどの伸介との一戦で肉体は疲弊している。あまり余裕は無い状態だ。

 それを見抜いているのかこの男、非常に鋭い眼光を覗かせて渉斗を見据えている。


 周りにいる兵士達も、固唾を呑んで見守っている。すると――――


「―――錫巳渉斗さん!!先ほどの戦い、御見それしました!!」


「・・・・・え?」


「俺ぁ、あんなにスゲェ戦い見たことなかったです!!それに、俺と戦った時の技のキレ、判断、身体能力。全てが俺にとって初めて見るイチバンでした!!」


「えっとー・・・・・・」


 予想外過ぎて何を言えばいいのか分からない。

 そんな渉斗の様子を、面白可笑しく伸介が眺めている。


「愛のコールだよ渉斗センセイ。こいつぁお前に惚れちまったんよ」


「その通りです!先ほどの戦いはここにいる奴ら全員がほれぼれしちまうくらいにカッコよかったんです!!」


「そう言われてもな・・・・・」


 自分はただただ全力で戦っただけで、他人に魅せるような戦いをした覚えはない。このように言われてしまってもなんと返せばいいのか分からないのだ。


「さっきまでの非礼、どうかお許しください!俺達がどんな愚かなことをしていたかは、重々承知しました。ですから、どうかご慈悲を!」


「そんな仰々しい言われ方しても・・・」


(あれだよ渉斗、亮輔ン時みてぇなん感じ)


(ああ、そういう・・・)


 過去に似たような状況に遭遇したことがあった。高校時代に初めて亮輔を倒したとき、彼は自らの非礼を詫びて土下座までしてきたことがあった。

 その時にも反応に困っていたら、俊也が前に出てフォローしてくれた。その時の記憶を遡り、


「あの、顔を上げてください。俺は全然そういの気にしてなぃ――――」


「―――なんて慈悲深いお人なんだ!!本当に強ぇ人ってのはこういう人のことを言うんだな!」


 渉斗が台詞を言い終える前に喰い気味、というかほぼほぼ被せて今にも号泣しそうな顔でそう叫んだ山崎。


「渉斗さん!ここの基地の連中は皆が皆が、いいヤツらとは限らねぇ。だけど俺たちゃ絶対にあんたの味方ですよ!」


「よく言ったぜ山崎さん!」


「そうですよ!俺達は味方ですからね!」


(多分、他の人達の認識だと、あなた達の方が「いい奴とは限らない」なんじゃないかなぁ……?)


口には出さずとも、つい数分前までの印象はそのど真ん中を的中しているように感じられた。


そんな様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべている信介の元へ、そっと伽耶が近づいた。


「これも作戦通りってわけ?」


「当たり前ぇよ。見ろ、さっきだけの1戦でここまで良好な関係になれたんだ。計画通りたあ、このことを言うな」


「確かに淒いけど、正直意外ね。信介くんがこんな妙案思いつくんだなんて」


「……どうなろうな」


さっきまで笑っていた信介だが、こればかりはつまらなそうに呟いた。彼が言わんとすることが分からず困惑していた伽耶だが、それ以上に気になることが彼女の耳に入ってきた。


「そんじゃあ渉斗さんの入隊を記念して!司令官にはちっと悪いが、早めの祝勝会と行こうじゃねえか!」


「おお!いいっすね山崎さん!」


「俺も渉斗さんの飲みっぷり見たいっす!」


「―――ちょ!ちょっと待って!お酒はダメよ!」


兵士達が宴だ宴だ!と騒いでいるところに割って入る伽耶。肉体的に未発達な未成年が飲酒することは、肉体的にも精神的にも悪影響を及ぼす。未成年の飲酒・喫煙はダメ絶対。

しかし、こんな慌ただしく注意している伽耶を、兵士達は不思議そうに見ていた。


「え、でも伽耶さん。俺達は班長から、渉斗さんは見た目だけが子供で身体機能(中身)は俺達と同じだ、って聞いてたんですけど?」


「それってつまり、酒は飲んでも問題無いってことですよね?」


「あ、いや〜、それは、えっと……」


確かに彼等の言い分は正しい。渉斗の正体を知っている者でなければその理解も正解だ。

正解、なのだが、正解ではない。渉斗は過去から来た正真正銘の現役高校生なのだ。結論、渉斗は飲酒してはいけない。


そんな場面に、恐らくこんなややこしい状況を作った張本人であろう人物が口を挟んだ。


「まあまあ、いいじゃねえかよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ぐぬぬぬぬ……!」


(なんだか飛鳥みたいキャラになってんな、伽耶のやつ)


普段なら――10年前の話だが――飛鳥が今の伽耶のように、弄られている(?)筈なのだが、どうやら伽耶も変わったということなのか。


(まあ、10年も経てばそんくらい変わるもんか。こっちで最初に会った時は、女性の雰囲気が際立ってたせいで気づかなかった)


「―――ちょっと、渉斗さん聞いてますか!」


「ん?んあ?えっと、何だったけ?」


二人の様子を見て感傷に浸っている間に、どうやら山崎が話しかけていたことに気付かなかったらしい。


「だから、こっちで一緒に飲みましょうよ!ささ、こっちへこっちへ!」


「え、いや俺、酒は……」


「なーに言っちゃってるんですか。あんな戦いしたお方が酒も飲めねえわけが無いでしょ」


「そーそー!遠慮しないでくださいよ!」







そして今に至る。

彼らの言っていることも正しい分、なんと断ればいいのかまるで分からない。


「さあさあ渉斗さん!グッといっちゃいましょうよ、グッと!」


「そうだぜ渉斗ぉ。グッといきゃあいいんだよぉ」


 本来渉斗の正体を知っているであろう人物は今やこんな状態。どうやら彼は酔うと絡み酒になるタイプらしい。非常に面倒くさい。


「お、おい伽耶・・・・・・って、嘘だろ・・・」


「うぅ~・・・・・・光貴くぅん・・・・なんでぇ・・・ヒック」


 助けを求めるべく伽耶の方に目を向けると、なんとも杜撰な惨状がそこには在った。

 机に突っ伏しながらしくしくと嗚咽を響かせる伽耶。どうやら彼女は酔うと泣き上戸になるタイプらしい。非常に面倒くさい。


「・・・・・どうしてぇ・・・せっかく結婚までしたのにぃ・・・・何の進展もぉ・・・しないのよぉ!」


「痛てっ!ちょっ、痛いっすよ松灯班長!俺は八木沢班長じゃないで――――グハッ!?」


「お、おい!しっかりしろ!衛生兵!衛生兵はいねえか!?兵士が一人負傷したっ!!」


 更に、周りで慰めてくれる人に手を出すと来た。非常に面倒くさい。

 隣にいた男、さきほどの一戦で渉斗と戦ったスキンヘッドの男が、伽耶のパンチをもろに顎へ食らった結果気を失ってしまっている。

 残念かなスキンヘッド、この場にいる人間で衛生兵はそこで暴れている酔っ払いだけである。


 そんな阿鼻叫喚な様子を見て戦慄を覚えていた渉斗だったが、自分も中々に厄介な状況に置かれていることを思い出しついつい溜息をついてしまう。

 そんな彼の様子を、スペシメンズの主戦力である酔っ払いは見逃さず鋭い一撃を与える。


「おいおい渉斗クゥン。俺の酒が飲めねえってのか!!あぁん!?」


「で、出た!作戦班名物、伸介さんの超絡み酒!こりゃあ飲み終わるまで終んねえや!」


(まじかよ・・・・)


 酒臭い大人の友人がほれほれと肩を叩きつけているせいで注意が散漫していた。

 隣に座っている狂人が企てていたことに、一瞬気が付くのに遅れてしまった。


「――――おらよっ!!」


「―――くっ!・・・・・なっ!?」


 横から突如として放たれた攻撃。しかしそこは渉斗、これをギリギリで避けるがその攻撃がただの手刀であることに気づく。伸介の本命はもう片方の攻撃だった。


「こっちだよ!!」


「うがっ!・・・・・ゴクッゴクッ・・・」


「出たぜ伸介さんの秘技!一気飲ませの二段突き!!」※一気飲みの強要・強制は犯罪です。良い人じゃなくても絶対マネしないでね


 先ほどの一戦を彷彿とさせる見事な攻防。しかし、今回は伸介に勝利の女神が微笑んだ。


 口元に押さえつけられたジョッキは段々と傾けられる。そして口の中へと注ぎ込まれる泡立ったビール。


「お、おい・・・・あの量は流石にぶっ倒れるんじゃねえか?」


「伸介さんでも酔い潰れるぞ?」


 皆が心配に見つめている中、ついにジョッキが空となり渉斗の顔が現れる。そして一言・・・・・


「・・・っぷはぁ!おいこら伸介!なに無理やり飲ませてんだよ!っつうかこれ本当にビールなのか?全然酔いもしねえぞ」




『・・・・・まじかよ』





 宴はなかなかどうして、覚めることを知らない





 

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