第17話 『捕食者たち』
今回は伸介vs渉斗のバトル回です。
二人の戦いだけですのでかなり短くなっていますが、どうかご容赦を
「さあ!さっさとナイフ拾えや」
ヒステリックな笑みを浮かべ、得物を一寸たりとももぶれず渉斗に定める。異様なまでの闘争本能。
「ったく、10年経ってもなんも変わってねえな」
「はっ!上等。さあ、もう戦いは始まってるぞ!」
この場を離脱する手段がない以上、伸介の言うことも正しい。
戦いとは、「始め」「終わり」の掛け声なんてない本能の争い。そんこな掛け声に頼っていると、真の捕食者に喰われてしまう。
故にナイフを拾う動作さえ、「仕方ないな~もう~。じゃあ拾うから待っててね」なんて甘ったれたことを言いながらナイフをよいしょと拾ったりすれば、たちまち猛スピードで顔面目掛けた膝蹴りが飛んでくる。
じりじりと、ナイフとの距離を詰めながらも、決して伸介から目を離したりはしない。伸介もまた、渉斗の隙を伺っている。
「ちょ、ちょっと伸介君!部下の人達とだけじゃなかったの!?聞いてる!?」
「無理ですよ、松灯班長。ああなりゃ伸介さん、戦い終わるまでこっちに気づきもしませんよ」
「ってか、あいつ何者なんですか・・・?話に聞いてた通りっちゃあ、話に聞いてた通りっすけど・・・・」
伽耶の周りにいた男達が次々に渉斗についての詳細を問いただす。
どこまで話していいかも分からない状態で、しどろもどろしていると、硬直していた二人の戦いに動きが感じられた。
ナイフをやっとの思いで回収した渉斗だったが、その瞬間やはり伸介の膝蹴りが襲ってきた。
屈めていた上半身を、急上昇させてギリギリ回避。当然避けられると判断していた伸介は、第2刃にも余念がない。
顔面目掛けて鋭い一撃。避けられればそこから急旋回で振り戻す。またしても渉斗はこれを避ける。だがこの程度、序の口と言わんばかりに伸介の猛追は止まない。
流れるように右往左往するナイフは、ナイフの鈍い光の軌跡を幾本も生みながら、渉斗の腹部を掠める。
防戦一方になりつつある戦況を、大きくバクステップすることで一時停止させる。
「おいおいどうした?連戦だからって俺は手ぇ抜いたりしねえぞ」
「ああ。俺だって手加減されたくはないね」
「ハッ!」
笑いながらまたしても鋭く伸びる伸介の一撃。
右に避けると、自動追尾でもしてくるが如く、逆手に変えたナイフが渉斗の腹部目掛けて振られる。
予め予測していた攻撃に、渉斗は伸介の手首を掴むことで対処し、そちらに意識が向いている内に彼の顎目掛けて膝蹴りを打ち込む。
反射的に空いている手で防ぐと、渉斗は伸介の顔を見ながらニッと笑ってみせた。
「あん?――――っ!」
渉斗の意図が読めず思考していると、突然自身の片腕に異変を察知した。
さきほどまで握っていた伸介の片腕を大きく上空まで持ち上げ、自らの肩に伸介の腕の関節部を乗せて彼の片腕を担ぐ。それと同時滑り込むように渉斗の体は、伸介の胴体と密着する。
(これは――――)
「一本背負いかっ!?」
誰かがそう叫んだ時には既に伸介の体は、半ば宙に浮いていた。
一本背負い、もとい背負い投げは、地面に叩きつけられる衝撃もさることながら、受け身を取れても実戦ではその後が隙だらけだ。それこそ首にナイフを受けても仕方ない。
「ちくっ、しょうがっ!?」
半ば強引に空中で体を固定させた伸介は、空いていた片腕を密着した渉斗の首に回す。
急に体のバランスが崩れ、渉斗も技を成功できない。
「なっ!?」
「うらぁっ!!」
勢いよく地面に倒れてしまう二人。渉斗を覆うよう形で倒れた伸介は、もともと首に回していた片腕の力を、更に強くした。また、渉斗が立ち上げれない無いように、自身の両足を渉斗の両足に絡める。
しかし、寝技に近い状態では柔道に専門的な渉斗に分があった。
伸介がナイフを持っている腕は決して離さず、乗っかっている伸介と少しずつ隙間を空ける。そして絡められている自らの両足をグッと曲げることで、伸介の足から脱出。
そして一瞬だけ上半身を起き上がらせると背中に引っ付いている伸介を、力強く地面に叩きつける。
「―――ぃってぇなあ!!」
叩きつけられたことで後頭部を強打。このままではこれを繰り返されるばかりと、堪らず首に回していた腕を解いて渉斗の脇腹を蹴り上げる。
渉斗自身もこれに大きく転がるよう受け身を取ると、すぐさま起き上がり構える。伸介相手に隙を見せる余裕などないのだ。
案の定、渉斗が起き上ったと同時に構えていた伸介もナイフによる刺突を放つ。
伸介のナイフをのけ払い一旦距離を離そうとする渉斗。しかしここでボロが出た。
いきなりの刺突に注意を削がれていたために、下から攻め上がってきた膝蹴りを気付けずにいた。
溝に食らうのだけは避けたかった渉斗は、自らも大きく後退するよう跳ぶことで最小限のダメージに抑えながら溝から的を逸らす。
確かに溝という弱点に膝蹴りが打ち込まれることは無く、更に与えられるダメージもほとんど無く済んだ。
しかしそれ以上に大きな問題が発生したのだ。うまく着地できず体勢を崩してしまった。
この状況。
伸介にとっては絶好のチャンス。渉斗にとっては最悪のタイミング。
伸介からすれば渉斗の心臓部に一投足でナイフを突き刺せる体勢。渉斗からすれば碌に回避すらできるか分からない不完全な体勢。
絶対的な好機。
絶対的なピンチ。
―――――ナイフを顔面目掛けて投げ飛ばす ビジョン
それを見た瞬間には、既にナイフは自らの手元になく、空中に鈍い光の軌道を作っていた。
だがこの程度、いくら既に構えを取っていたからと言って、反応できない伸介ではない。綺麗に顔面必中の軌道だったナイフはかえって避けやすい。
ナイフをしっかりと目視しながら過ぎ去る瞬間を、伸介は捉えていた。
「ハッ!自ら自分の得物を手放し―――――――」
――ゴンッ!!
何が起きたのか、伸介には一瞬ではわからなかっただろう。
目の前をナイフが通り過ぎたと思った瞬間、いや同時に前方から膝が飛んできた。
正常な思考をしている暇のない伸介に代わって、今起きたコンマ数秒の出来事を説明しよう。
渉斗から投げられたナイフを、持ち前の動体視力で首を逸らす形で伸介は避けた。その際、当然ナイフを目で捉えながら、言い換えれば目で追いながら避けた。
ここで既に渉斗は伸介の目の前まで跳躍してきていた。彼はナイフを飛ばすと同時に自らも伸介へと急接近していたのだ。
後は単純。伸介はほんの一瞬だが確かに渉斗から目を逸らしていた。ほんの一瞬だ。そのほんの一瞬で渉斗は伸介の元まで近づき、そして彼の顔面に膝蹴りを打ち込んだ。
「ざっけんなっ!!」
見事に食らったはずの膝蹴りだったが、野性的な超反射を持っている伸介。これを無意識に片手で防いでいた。当然片手だけで防ぎきることは出来ないが、意識はまだあった。
だが戦いはすでに終わっていた。
片手で膝蹴りを防ぐことに全神経を使っていた分、他は全くの無警戒だった。
そのまま渉斗は伸介の肩を押さえこみ、慣性に身を委ねる。
ドンッ
「痛っつぅ・・・・・・・。・・・・っ!」
倒れてしまった衝撃についつい声を漏らしてしまう。そして、驚愕する。
いつの間にか自分の手から奪われていたナイフを、自分の心臓部に軽く立てている渉斗の姿。
自身の両手は、渉斗の片足と片手に押さえられている。
心臓部に突き立てられているナイフは、渉斗が自らの体重を乗せるか、あるいはこの状態で伸介が起き上ろうとすれば確実に肉を裂き心の蔵を穿つ。
まさにこの状況は。
「・・・・・俺の負けって、こったなぁ」
不思議と笑みが零れてしまう。真の戦いに。
しばらくの静寂―――――
―――――オオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!!!
勝者には、空気が裂けんばかりの
歓声が似合うだろう
どうでしたでしょうか。ここまで長いバトルオンリーは初めてだったので、少々ぎこちなくなってしまった気がしますが・・・・・大丈夫でしたか?
何気にここまで渉斗と戦えたのって、伸介で初めてですかね