表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
17/20

第16話  『能ある獅子』

今回は、前回でも言ってた通りバトル回です。

超久しぶりにアクションシーンを書いたので文調が心配ですが、お許しくださいませ~


(嫌な予感はしてたんだよ・・・・・)


 伸介の言葉によって、周りいる連中、特に目の前に立っている5人からはさらなる殺気が溢れてきた。


(だいたい、伸介が俺に用があって呼びつけるなんざ、だいたいこういうことだろ。けど、普通なら自分が喧嘩したいから呼びつけるあいつなんだが・・・)


「おい渉斗。これ使え」


 そう言って投げつけてきたものを掴むと、それはナイフだった。ただし刃は潰されている。

 見ると、目の前に立っている男達も、渉斗が渡されたナイフと同じもの握っている。


「まあ殺し合いとは言ったが、別に本当に殺し合いさせるわけじゃねえ。どっちが死んでも惜しいしな」


「模擬戦ってことか」


「そういうこった。とは言っても得物以外はガチの殺し合いさ。目と首の骨以外なら、折ろうが潰そうが勝手にしろ。どうせそんな(やわ)に出来ちゃいねえだろ」


 その言葉に反応したか如く、目の前の男たちは薄い笑みを歪めた。見るからに渉斗を油断している。

 当然と言えば当然だろう。渉斗自身も気づいている。目の前の男たちはただ従軍して死線に出た()()の人間ではないと。そんな男達から見れば、自分などたかが格闘経験のあるガキにしか見えないだろう。


 だから馬鹿にされ、油断されようが別に憤りなど感じない。むしろ()()()だ。


「ルールは単純。気絶するか動けなくなれば負け。あとは明らかに致死傷レベルの攻撃をナイフで受けたら負けだ」


「へっ。いいんですか班長?ハンデくらいやんねえと、さすがに可哀想でたまんねえ。俺ら5人とも、徒手空拳上級なんですよ?」


 男が一人、そんなことを言った。しかしその場で起きた多くの笑い声が、この部屋にいる連中皆の意思であることが簡単に分かった。抱く感情こそ違えど、伽耶もまた、そう望んでいた。


「阿呆が。山崎、だからお前はいつまでも上級なんだよ。敵を見誤んな。そうやって俺に泣きべそ掻かされたんだろうが」


「っ!・・・・・・おい須藤。取りあえずお前が相手してやれ」


 なにか気に障ったことを言われたんだろう。山崎と言われた男は一層顔の厳つさを濃くさせそう言った。

 それとは対照的に、須藤と呼ばれた男は顔にへばり付いたニヤけ顔を一層濃くさせた。


「おい。さすがに最初っからやられんのは可哀想だからよ。ナイフは使わねえでやるよ。だからちょっとは、耐えてくれよっ―――――」


 そう言い放ち、同時に予備動作なし(ノーモーション)で放ってきた顔面向けてのストレート。

 遅く見えた。


 拳の外側に顔を逸らし、相手の腕と顔面を掴む。

 その動作を終えた時点で既に、相手の足は渉斗の片足によって絡められ、バランスなど当に保てなくなっている。

 後は重心を前に掛けた慣性と、顔面を掴んだ手の腕力でことは済む。


 ―――ドゴンッ!!


 木製で敷かれたバーの床が歪む勢いで、渉斗は掴んだ男の頭を床に叩き抑えた。これが木ではなくコンクリートだったら軽く男の頭蓋骨は割れていただろう強さだった。


 まさに一瞬。3秒すらかからない攻防、あるいは圧倒。

 渉斗には、遅く感じられた。


「なっ・・・・・・・!?」


「え・・・・今の・・・?」


 伸介を除いて全員が固唾を呑んだ。今の渉斗の動きを正確に見れた者さえ少ないだろう。

 自分達のリーダーがあそこまで言うのだから、少しは骨のある奴なのだろうとは思っていたが、あれほどなんて想像していなかった。それこそ伸介や俊也と見劣りしないレベルだった。


「・・・・・・っ!ンだよ、今のはっ!?」


 そんな質問をしながら、同時に持っていたナイフを振り抜こうとする男。


(器用な奴だな・・・)


 そんな男に抱いた印象なんてその程度。男が長年磨いてきた肉体と技術なんかより、その程度の印象の方が渉斗にとっては驚きのあるものだった。


 ナイフのリーチから少しバックステップし難なく回避――――した瞬間には一瞬で男との距離を0にした。バックステップされるのは見抜いていた男は、そこから一歩踏み込んで近づこうとしたが故に、気付けば自身の懐にいた渉斗に理解が追い付いていない。

 

 男は渉斗と比べても身長が高い分、懐に潜った渉斗による下からの攻撃にも反応が遅れてしまった。顎目掛けての強烈な掌底、からの回し蹴り。

 二つの攻撃が頭にクリーンヒットし、男は倒れたまま脳震盪で目を覚まさない。


「畜生がっ・・・・・!お前らっ!」


 たちまち2人も倒されてしまったとなれば、流石に余裕をこいているわけにもいかず、男達は渉斗を囲む形で彼と対峙した。


(・・・・流石に上手いな)


 大の大人が高校生を相手に3人がかりで囲んでいることに、渉斗自身は「大人げない」などという感情を一切抱かなかった。彼らは訓練された兵士であり、組織された部隊で突出した個とは必ずしも、必要とはされないからだ。

 見れば、彼らの陣形は見事なものだった。先ほどまでの荒々しさを感じない動きだ。


「・・・・・ッシ!!」


 先陣を切ったのは髭面の男。さっきみたいに懐へ入られるのを警戒して、素早いナイフによる突き。

 右に避けると、さっきまで後ろにいたスキンヘッドの男が渉斗へ強烈な蹴りを放った。意識半分を警戒に費やしていた分、その攻撃には同じく足で防ぐことに成功。と次の瞬間、スキンヘッドの男がこの至近距離から顔面目掛けてナイフを突き出す。


 渉斗は反射的に男がナイフを持っている右手の手首を掴み、そのまま力強く右腕の関節を手刀で叩いた。そのせいで男は手の力が緩んでしまいナイフを離してしまった。そこに意識を逸らしてしまった男に、強烈なストレート。


「あがっ!!」


鼻を強打して痛みで男が一歩下がったのを機会に、渉斗も大きく後ろへ跳んで一旦戦線を離脱する。


(なかなかに厄介だな・・・・流石に伸介から叩き込まれてはいるな)


 個人個人もそこそこの腕ではあるが、何よりも上手く連携が取れている。一見渉斗が彼らを翻弄しているように見えるが、彼らは彼らで何とか上手く渉斗をコントローしている。


 3人で互いを補完し合っているため、あと一歩というところで邪魔をされる。さっきもスキンヘッドの男にもう一撃食らわせたかったが、右から山崎という男が渉斗に攻撃する構えを取っていたがために、渉斗はあの場から後退せざるを得なかった。

 要は3人で補っている分、隙が少ないのだ。当然と言えば当然なのだが、その当然をここまで実践で使いこなすことは難しい。そこに彼らの兵士としての熟練度が垣間見える。


(・・・・そろそろ潮時ってヤツだな)


 さっきからずっと静観していた伸介は、この攻防の幕引きを予感していた。山崎達も渉斗を相手にしているにしては善戦しているが、今まで一度も渉斗に攻撃が掠りもしていない。

 渉斗の方も、本気ではやっているが全力ではやっていない。彼の場合、相手に見合った力を上限にして戦う節があるため、渉斗にとってはいつも最適解な動きで戦ってはいるが、それは実質的に力をセーブしているに過ぎないのだ。


「がぁっ!?」


 伸介が戦況から意識を遠退けていると、彼が予感した通り戦局は大詰めまで進展していた。




 またしても先陣を切った髭面の男だが、突き出した左手は自らが引き戻すよりも早く、渉斗に掴まれてしまった。

 すぐさま振り払おうとしても、その力さえ転換して渉斗は男を自分の元へと引き寄せるとその勢いに任せて男の腹に膝蹴りを打ち込んだ。途端腹の中のモノが出てきそうな嗚咽を感じるも、それが吹っ飛ぶほどの衝撃を渉斗の肘が男の首へ送った。


 余りの痛みに立っていられるかも怪しい男の首を左腕で抑え込み、頭にナイフを押し付ける。


「・・・・・・っ!」


 これが模擬戦だと割り切っていればこんな人質じみたこと、ただの茶番でしかなかった。しかし普段から命のやりとりをしている彼らだからこそ、渉斗の脅しを()()()()()()躊躇してしまったのだ。


 その一瞬の躊躇は、渉斗を前にしたとき致命傷と成り得る。


 先ほどの強打で鼻血が出ていたスキンヘッドの男目掛けて、渉斗は予備動作なしとは思えないスピードとパワーでナイフを投擲した。そのナイフは見事に男の額に直撃。今の攻撃が痛かろうが痛くまいが構わない。本物のナイフなら致命傷は必須だ。


 渉斗が自らの得物を手放したのを好機と見て、山崎は全力で渉斗の元へナイフを構えたまま突撃した。


 手段としては悪くなかっただろう。今のは普通に考えれば好機と言える。ただしそれは単純な隙だったら、の話である。

 渉斗がナイフを投擲したのは、スキンヘッドへの止めの一撃をするためなのと同時に、山崎への誘い(フェイント)でもあった。


 自らの予想通り、もとい予定通り突っ込んできた山崎に、渉斗はまず軽いジャブで牽制した。「まあ落ち着けよ」、そんな意が込められたようなジャブを、理解したのかしてないのか、ともかく突撃を停止することで回避する。

 しかしそんな意を込めた拳を出した張本人は、これ見よがしに猛攻撃を仕掛ける。


 一気に距離を詰めてきた渉斗に、山崎もただやられるわけにはいかなかった。持っていたナイフを素早く渉斗の頭へ切りつける。当然それを見切った渉斗はほんの少し、最小限で頭をずらすことで避ける。

 が、ナイフは振り切る前に急停止した。順手に持っていたナイフを空中で流れるようにして逆手に持ち替え、先ほどの軌道を戻るように渉斗の頭へ襲いかかった。


(ったく。甘ぇな)


 渉斗はその動きも予測済みだった。これがただの足掻きとして投げやりに振り回した攻撃なら、気にも留めずそのまま距離を詰めただろう。しかし山崎の顔は、諦めではなくまだ勝算を逃すまいとする理性ある顔だった。


(・・・・ナイフ捌きは伸介譲りか)


 渉斗はこの手の攻撃には慣れていた。伊達に伸介から喧嘩は売られていない。


 山崎の渾身の一撃も避けた渉斗は、流れるように彼の顔、腹部を殴りつける。激しい嗚咽感を押さえながら、今度こそ足掻きとして右手で振り回すが如く殴る。 

 一気に終わらせたい渉斗は、これを避けずに左手で相手の右腕関節部を殴るように叩いた。すると山崎の右手は意思を無くしたように機能を停止させた。


 自分の右手が動かなくなり、軽い恐怖に襲われている山崎へ、お構いなしに隙だらけの脇腹を強烈なボディーブロー。

 意識が飛びそうなのを必死に抗い目の前の渉斗と対峙する。渉斗は止めと、山崎の顔目掛けて回し蹴りを放った。



 薄れていく意識を抑え込んでいたがための極限状態だったためか、あるいはたまたま体がよろめいただけか。

 いずれにせよ、男は渉斗の回し蹴りを避ける形で、目の前を通り過ぎる渉斗の足を眺めていた。





 山崎(たける)、26歳。小さい頃は近所のガキ大将として皆に人気の中心人物だった。

 中学に入るとボクシングを始め、恵まれた体格と強気な性格が功を奏し、県では一番の選手として『天才』と持て栄やされた。


 もともと不良気質だった彼は他校の生徒と問題を起こしボクシングは辞めさせられたが、自分が一番であるという自信は無くなることは無かった。

 高校でも学校の番長として周りの学校からも恐れられる存在だった。

 高校卒業後、知り合いが経営する運送トラックの仕事に就くためここ横須賀に引っ越した。


 そして彼の人生を変えたのがマルイチ部隊の襲撃だった。自分の家や職場瓦礫の山となり、多くの知り合いも死んでしまった。

 絶対に殺してやる!!そう誓った彼の目の前に現れたのがスペシメンズだった。

 俺も絶対にこの組織の兵士として奴らをぶっ殺してやる。彼はそんな決意を胸に、入隊を決意した。


 しかし人の根底は変わらない。

 訓練では周りよりも格闘技に秀でていた山崎は、作戦実行犯に配属された。そこで出会ったのだ。火神伸介に。

 彼にとって初めてだった圧倒的敗北感。負けたことはあってもこうまで圧倒的差を知らされたのは初めてだった。


 だからこそ、再び現れた圧倒的強者の、懇親の一撃を見事に避けてみせた、この、喜び。





 ――――――ああ・・・これが・・・極限の境地、なのか――――




「おっと、外しちまった」 


 シュッ


「ごべがぁっ!!」


 一撃目を外してしまったなら、もう一撃加えればいい。一撃目の回転を残しもう一回回転して放った回し蹴りは、今度こそ見事に相手の顔面へとクリーンヒットした。


 二度の回転で余計に遠心力を増した回し蹴りを食らった山崎は、宙を浮くレベルで見物人の兵士たちの元に吹っ飛んだ。


「うわっ!?あの第3部隊の山崎隊長がボッコボコに!?」


「山崎さん、なんか悟った仏さんみたいな顔してんぜ」


 周りの連中達が騒いでいる中、渉斗は勝ったにもかかわらず、一層警戒の色を示した。


 何故なら。一番嫌な予感が的中したのだ。


「はっはっは!!やっぱいいじゃねえかよ渉斗!!」


 静観していた伸介が一変。獲物をみつけた捕食者然とした様子。


「本番はこれからだろう!?そこのナイフ拾えや!!」


 蛇とは気まぐれである。餌を目の前に静観は出来ても、我慢は出来ない生粋の捕食者。


「超久しぶりにィ!!」


 蛇は時として、獅子をも毒で犯す。


 

 蛇が捕食者として目の前に立てば―――




一対一(サシ)()ろうぜ!!」



 

 ―――息すら呑ませてはくれない



 

山崎武。彼はきっと今後からいい奴になる系のキャラですねきっと。

作者の考察とか、完全に予告ですね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ