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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
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第14話  『笑えない冗談』

今回はがっつり説明回です。大事な内容だから・・・そうするしか・・・・なかったん、です・・・・


「・・・・・特別顧問って、何だ?」


 知ってはいるが聞き慣れないその名前に首を傾げた。


「まあそうなるよな。本来の意味通りで言うならば、教官的な立ち位置。つまり軍事顧問なのだが、東瓦さん曰く、組織強化の為に組織全体の主力として貢献してほしい、だってさ」


「簡単な話、テメェ単体で組織の主力として働け、ってこったよ。渉斗センセイ」


 淡々と説明しながら、伸介は持っていたサバイバルナイフを無造作に渉斗へ投げつけた。

 殺意が無かった分余計に反応が遅れたが、そこは渉斗。弾かれたように左手が、空中に投擲されたナイフの柄を握っている。見てみれば、顔の横を通過するよう直線状に投げられていた。


「ちょっと伸介!渉斗を殺す気っ!?」


「オイオイ飛鳥、そりゃあ渉斗をナメすぎだ。・・・・・・渉斗、お前にとっちゃ今のなんて造作も無いことだろうが、この基地内で今の反応が取れるヤツは少ねえ。俺はお前を認めてる。その地位に文句はねえよ」


「・・・・そっか。にしても伸介、年取って随分と喋るようになったな」


 何も言わずに伸介はその場でタバコを吸い始める。ライターに灯された唇は、少しだけ笑みを浮かべているようにも見えた。


「と言うことだ。他の皆も異存は無いだろう。問題はこれをどう他のメンバーに知らせるかだ。俺達にとっても、渉斗の素性を正直に説明するのは避けたい。マルイチにでも知られたら厄介だ」


 俊也の言う通り、マルイチ部隊に知られた時には、どんなことになるか分からない。そのためには、拡散を少しでも抑える為にこの場にいる7名以外のメンバーにだって伝えるのは不味い。


「それはアレで良いんじゃない?渉斗が亮輔に言った言い訳」


「いやあれは駄目だろ。我ながら怪しすぎるぞあの言い訳。結局、亮輔にも疑われたし」


 二人の会話を聞いて、何かを思いついたらしく、俊也は先程まで顎に添えていた右手で指差した。


「いや・・・・案外悪くも無いんじゃないか。渉斗、お前日本語以外に何語で話せる?」


「えっと、英語は結構話せる。あとは親戚の人にドイツ人の人がいて、その人に日常会話程度なら教えてもらった」


「うっわ、ハイスペック・・・」


 一輝が独り言のような野次を飛ばしたが、そんなことは気にも留めずに俊也は話を続けた。


「上出来だ。ドイツ語が話せるなら、マルイチ調査の為に海外へ出ていたと言う話に出来る」


「それだったら・・・・・身体の方は、潜入のために発育停止剤を投与した。こんな感じかな。実際、スパイとかに発育停止剤を投与させて潜入させるってのは、ある種の手だしね」


「へえー、随分と詳しいんだな」


「フッフッフッ、こう見えても私、諜報班の班長!務めてますから!」


 渉斗の素直な感想に上機嫌になった飛鳥は、胸を張って自慢気に語ってみせた。

 「こういうとこ、相変わらずだなぁ」などと口には出さずとも頭の中で述べていた渉斗だったが、話が脱線していることに気づき、すぐさま話を戻す。


「話戻すけどよ、そんな理由つけたからって、そうそうすぐに信じられるものなのか?俺ならそんな簡単には信じられないけどな」


「当たりめェだろ。突然現れた男が実は仲間なんですよって言われて信じるようなタマなら、俺が鍛え直してやるとこだよ」


 吸っていた煙草の煙と一緒に、そんな悪態を吐く。言葉だけなら苛ついているようにも感じられたが、彼の瞳にギラつきはなく、声音も興味が無さ気な雰囲気だった。


「けどそれを自然な形で、渉斗を受け入れられるように、私達がみんなに摺り合わせをしておいたの」


「摺り合わせ?」


「ああ。幹部を含めた多くのメンバーに、お前という存在は示唆してある。とは言っても詳細は当然伝えていない。流石に、過去から人がやってくるなんて、ちょっと想像できないからな」


 そう言いながら俊也は苦笑を見せる。確かに、人間が過去から突然現れるなどという、非現実的な考えなど誰も想像すらしないだろう。


「それがつまり”摺り合わせ”ってことか」


「そゆこと。けど確かにそう簡単に信じてもらえるって訳でもない。渉斗の紹介をすれば、間違いなく皆は渉斗のことを怪しむ」


「だがそれを手っ取り早く解決できる方法があんだよ。要は自分を信じてもらいたきゃ、自分で実力を証明してみせろ。そうすりゃあとは勝手についてくるさ」


「・・・・・・乱暴な考えだが、的は射ている。良くも悪くも、そこが一番大事な部分なんだ。少なくとも”戦場”においてはな。他の面でなら俺らのサポートもあるが」


「――――実力は、自分の力でしか証明できない、だな」


「そういうことだ。安心しろ。ここにいる奴らは誰一人心配なんかしてないさ」


 最後にそう微笑みかけると、俊也はほかにも仕事が山積みらしく、すぐさま会議室から退出した。

 その後に続く形で伸介も退場した。彼の場合、ここにいる意味も無くなったからだろう。


「渉斗君。ちょっと」


「ん?なんだ伽耶」


「これから施設のちょっとした案内をしたいんだけど、いいかな」


 勿論と頷くと、彼女は傍に用意しておいたモニターを起動させた。そこには幾つかの建造物がモデリングされたと思しき映像が移されていた。見たところこの基地の全容のようだ。


「この横須賀基地は主に3つの側面を持った施設になっています」


 伽耶は口調を変えて施設の説明を開始した。スイッチの切り替えというやつだろう、彼女の雰囲気も先ほどまでと少し違うように感じられた。


「まず一つ目として。本来の色が最も強い『軍事的な側面』です。この基地は本部ということもあり、多くの軍事物資を扱っています。

 続いて二つ目。『居住区としての側面』です。ここ横須賀基地はスペシメンズのメンバー以外にも、居住区として多くの難民受け入れの態勢を取っています。分担された役割をしっかりとこなし、ここの規則に乗っ取った行動をする限りは生活の支援をしています」


「質問良いか?」


「どうぞ」


「敵、マルイチ部隊が拠点としているのは千葉なんだろ?だとしたらここを本部にするのは危ないんじゃないのか。

 湾岸を挟んじゃいるが、船でも使えば攻めてこられるだろう?そんな場所を本部にして、しかも多くの人達をここに避難させるっていうのはどうなんだ?」


「ごもっともな質問だな。確かに距離があるとは言っても、ここと千葉じゃあ目と鼻の距離だ。下手すりゃ陸地よりも攻めやすい場面でもある」


 ここで情報管理局の局長でもある一輝が質問に割って入ってきた。


「けどな渉斗。この状況は、あまり普通とは言い難い、一般的戦術の効かない要因が多数あるからなんだ」

 

「どういうことだ」


「まずマルイチっつうクソ野郎どもは色々とおかしな連中でな。合同部隊っていう側面を持つが故に本部がないんだよ」


「本部がないだって?それじゃ指揮はどうするんだ?」


「奴らは常に敵地へと派遣という形で、転々と拠点を変えやがってんだよ。つまるところ、奴らの司令本部は今現在、旧成田空港を軍事拠点とした成田基地にある。

 奴らは航空部隊主体の連中でな。常に拠点を転々とするよう設計された結果、恐ろしいほどの高機動部隊となったんだ。だが奴ら、日本では一杯食わされたみたいでな。

 本来なら一つの国なんざ秒殺のマルイチだが、ここじゃその十八番も出せないって訳よ」


 そう。世界一の航空部隊を持つイギリスを含めたマルイチ部隊は、本来なら日本という非軍事国家など容易く攻略できるはずだった。しかしここで誤算が発生してしまったのだ。


「日本の所有していた武力を見誤っていた、てことか」


「そゆこと。オリンピック開催前の2019年、俺らがまだ赤ん坊の頃だったが、日本で起きた大規模テロだ。飛行機を使ったまるで戦争映画のようなテロの結果、日本は空からの襲撃に対して異様なまでの対策手段を持っていたんだ。

 俺もこっちの業界に入ってから知ったけど、日本の対空兵器は世界一なんて呼び声も高い」


「結果として空主体のマルイチは煮え湯を飲まされてるってことか」


「加えて僕達には、強力なスポンサーがいてね」


 そう言ってきたのは光貴だった。話を聞くと彼はどうやら外部支援班、外部からの物資や派遣の管理をしている班の班長らしい。


「まずマルイチの被害を一番受けているのはどこだと思う?」


「そうだな・・・・やっぱりアメリカなんじゃないのか?実際に物理的な被害を受けたのかは知らないけど、こんな暴れまわれてるんだ。経済的被害は絶大だろう」


「その通り。加えて言うなら、実際にアメリカはマルイチから多少なりとも人的被害を受けているんだ。そしてアメリカは、僕達スペシメンズがマルイチに対抗出来ているのを知ると、僕達に物資などの支援援助をしてくれた」


「けど表だって出来ることではないだろ?条例だって、政府が崩壊した日本じゃあ適用されない」


「正にその通り。だからあちら(アメリカ)側はPMC(民間軍事会社)や武器商社を通して秘密裏かつ大胆に俺達をバックアップしてくれてるわけ。

 そんでもって、天下の軍事国家様が用意してくれているブツの中には強力な兵器も入っていたりすんだよ」


「なるほど・・・・つまりマルイチは下手に動けない状態って訳か」


「察しがよろしいようで。アメリカは加えて、海上での貿易牽制も行ってくれてるおかげで、奴らは船も持って来れない。日本の対空網におっかなびっくりで空からの供給も大規模には出来ないんだよ」


「それじゃあ、待てば相手はじり貧になるってことか」


「けどそうも言っていられないんだよ。もともとの地力が違いすぎている。いつこの均衡が破れるか分からない」


「そこで話が戻ってくるってわけ」


 急に話に入ってきた飛鳥がそう切り出した。ここで渉斗も、脱線気味だった話が本来の最初の質問に繋がっていることに気が付いた。


「つまり、マルイチの動向を可能な限り最新で知れる前線で且つ、奴らが一気には攻めて来れない場所だからここ横須賀基地を本部にしてるってことか」

 

「ご明察!そんでもってここ横須賀周辺は特に難民が多い場所だからな。渉斗も見ただろ鳴山クラウンの状況?本来基地でもないようなとこであそこまで収容してるんだ。神奈川の被害はよく目立つ」


「そういうことだったのか・・・」


「えーっと、そろそろ案内の方、再開させてもらってもいいかな?」


 ここで控えめにひょっこりと顔を覗かせた伽耶がそう話してきた。そこでようやく、渉斗達はすっかり伽耶の案内のことを忘れていたのに気づき、申し訳なさそうに案内を再開するよう促した。


「それじゃあ・・・・コホンッ。話を戻させてもらうと、この施設の三つ目の側面の説明でしたね。その三つ目の側面とは、先ほどみんながよく話していた司令本部としての側面です」


 そう言うと、彼女はディスプレイを軽くタッチした。すると画面には大きな講堂、多目的ホールのような部屋が移されていた。


「ここは参謀局の本部でもあるため、多くの作戦指揮はこの基地で行われます。ですからこのように多くの会議室やオペレータールームがあるというわけです。何か質問は?」


「ずっと気になっていたんだが、スペシメンズには具体的にどんな部署があるんだ?飛鳥は諜報班ってとこの班長で光貴は外部支援班ってとこの班長なんだろ」


 渉斗がそう質問すると、他のみんなはお互いに顔を見合いながら、少し相談をすると、今度は飛鳥から説明がされた。


「んじゃあ、私からは諜報班についての説明を。私達諜報班は、まあ文字通り主に外部からの情報とかを集めるための仕事をしてるの。

 たとえばそれこそ渉斗みたいな不審人物が周辺にいないかとかね。他にもマルイチの動向だったり、難民の情報だったり。だから私達は、それぞれの基地の活動にとって最も要になる存在なんだ」


 そんな大事な仕事を飛鳥が主任していることに、渉斗が冗談抜きで驚いていると、次は伽耶が説明を始めた。


「じゃあ次は、私が班長を務めている生活支援班の仕事を説明します。私達は主にこの基地で居住している人達のお世話を含めた管理をしています。

 食糧や衣服等の物資配給から居住者の仕事配分まで、居住者に関する多くの仕事を任されています。ちなみに、今渉斗君にしているような説明・案内も私達の仕事なんだよ」


「続いて僕からは、外部支援班の説明をするね。外部支援班の仕事は結構多岐に渡ってて、一番のウェイトなのはやっぱり物資の調達かな。

 後で説明があるんだけど、貿易局っていうところから指示を受けてそれに従って外部支援班は物資を調達するんだ。

 ただ、貿易局の本部はこちっとは逆の長崎方面にあるから、こっち方面の物資調達は僕達横須賀基地に任されてる。だからたまに僕とかも商談に行ったりするんだ」


 二人からは飛鳥と違って謎の安定感を感じられ、「こいつらには似合った役割だな」などと結構失礼な感想を抱いていると、次は一輝が説明を始める。


「俺からは情報管理局だな。ここは特に重要な役割を持っている。って言うのも、なんせ全基地から送られてくる情報を全部扱ってるからな。基地の一日の状態から国外とのバイパス、果てにはマルイチの作戦まで何でも扱ってる。

 この局は特に諜報班との連携が密だからな、どっかに漏れないようかなり厳重な取り締まりをしてるよ」


「そんな超重要な所をお前が局長やってて大丈夫なのか?」


「なっ、なんだとぉ?」


「まあまあ。渉斗、あまり言ってあげないでよ。信じられないと思うけど、一輝これでもすごい敏腕なんだよ」


 渉斗はまるで信じられないといった風だったが、それでも素直に凄いとも思っていた。

 別に一輝を馬鹿にしていたわけではなく、ただ単純にその役割がどれだけ大変なことなのかを悟ったからだ。


「まあ一輝君のことは一旦置いといて、他の部署の話をするね。他に残った部署は警備防衛班と作戦実行班と経理班。そして貿易局と参謀局で――――」


 警備防衛班とは基地周辺の防衛や受け入れ難民の護衛などを仕事としているらしい。ちなみに渉斗を殴りつけた門番達もその班の者達だ。


 作戦実行犯とはマルイチとの戦闘のために用意された班で、他にも工作作戦などにも起用されるらしい。その班長が伸介だと知った時は、一番しっくりくるな渉斗も笑ってしまった。

 そして経理班とは基地運営に関する金銭を管理する班らしい。


 貿易局とは、海外から来る物資全般の補給及び調達を任されている。調達と言うだけあって、局長自ら交渉することもあるという。

 そしてその局長を任されている女性は、以前から海外展開していた海運会社の凄腕社長だとか。


 そして横須賀基地に本部を置いている参謀局。彼らは軍事的な作戦指揮だけでなく、スペシメンズの活動方針の取り決めや海外勢力とのコネクションを図ったりなど様々な重要案件を任されている。

 渉斗が驚いたのは、その参謀局の局長が元防衛大臣を務めていた男性だということだった。一輝曰く、日本政府崩壊時に唯一まともに動けていた人らしい。


「大雑把な説明はこんなところかな」


「よく分かった。ありがとう伽耶」


「それはよかった。それでは以上で説明を終わりにしたいと思います。申し訳ないんだけど、施設内での細かい案内はまた今度にさせてもらうね」


 まだ他の人間には渉斗の素性を明かしてないからあまりうろちょろできない、という彼女の意図を読んだ渉斗はそれに了解したと頷いて返した。


「じゃあこっちについて来て。未奈ちゃんを保護しているところに案内するから」


「分かった。・・・・・そういや亮輔とか俊也もだったけど、お前ら静森のこと知ってるんだな」


 彼の当然といえば当然の疑問を聞いて、しかしその場にいた全員が微妙な顔をしながら互いの顔を伺ている。


「あ、ああ。そうなんだよ。お前が未奈ちゃんのこと紹介してくれてな。べらぼうに可愛い娘だったからよく覚えてたんだよ」


「おいおいなんだよ、そのしゃべり方。おっさん臭いぞ?」


「そう言ってくれんなよー、渉斗ちゃんや。これでももうアラサーなんだぜ俺達ゃ」


「ははっ、それもそうだな」


 渉斗は一輝の冗談めいた嘆きに面白おかしくなりついつい笑ってしまった。


 彼の周りにいた他のメンバーも、そんな可笑しそうに笑っている渉斗を見て笑い合っていた





 

とても今さらなんですが、第一話から登場してる一輝の苗字が未だに公開されていないことにかなりの衝撃を感じたんで、今後のためにも今の内に発表しときます。

彼の苗字は坂上(さかのうえ)です。坂上 一輝です。以後よろしくお願いします。

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