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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
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第10話  『再会と餞別』

 今回は結構短めですのでご容赦を

 先ほど問い詰めた男の言うことを信じ、渉斗と未奈は鳴山クラウンというショッピングモールが見えるところまでやって来た。


(流石に警備が固いのか?そこら中から視線を感じるな)


 瓦礫や廃墟が連立しているせいで隠れ放題なこの土地は渉斗にとってあまり安心できるような場所ではなかった。

 そんな見えることのない視線をいくつも感じて居心地の悪い気分に浸りながらもやっと鳴山クラウンの正面まで辿り着いた。


「おい、ここは三雲亮輔が仕切ってる場所か?」


 声を張って質問をした先には正面入り口を警備している3人の男達がいた。その手にはアサルトライフルが握られている。


「お前ら、何者だ?」


 聞かれた内容はさっき出会った暴徒と同じものだったが、迫力は段違いだった。

 聞いてきた男の両脇には銃を構えた男達が渉斗達を睨みつけている。素直に両手を上げながら質問に答える。


「俺らは寝ていた間にここまでいつの間にか連れてこられたんだ!ここにいる三雲って人が保護してくれると聞いてやって来た」


 これは全くの嘘だ。バレれば確実に敵と見なされるだろう。しかし馬鹿正直に本当のことを言っても信じてもらえるはずがない。それよりかは今言ったことの方がまだ中に入れそうだ。


「拉致難民か?」


「だが男二人だろ?まだ若そうだから出兵所にでも売られるだろ普通?」


「お前ら二人とも未成年男子か?」


 ほんの一瞬だが声が喉に詰まる。ここで未奈の性別をどう答えるかだが、正解が分からない。正直亮輔にさえ会えればその途中で嘘を付いていても問題ない気がしたのだ。

 交渉相手の質問が男子二人を前提に考えているならそれに合わせた方がスムーズに話が進む。ならば、


「ああ、そうだ」


 そう言うと先頭の男が二人の元まで近づいて来た。渉斗の心臓が極限まで波打つ。

 男は二人の目の前まで着くと未奈の帽子で見えなくなった顔を訝しげに眺める。


 そして怒号が響く。


「っ!こいつ女じゃないか!何故嘘を――――」


 男が腰に収めていたハンドガンを抜いた瞬間に渉斗が動き出した。

 しかし相手の男もなかなかに只者じゃなかった。渉斗の電光石火の如き動きに反応し、収めていたサバイバルナイフを即座に抜いて応戦しようとした。


 が、渉斗はその男をも凌ぐ。片手でナイフを持っている相手の手首を掴むと固定されたナイフは渉斗の膝蹴りで弾かれる。

 男は余りにも衝撃的だったのだろう。まさか子供相手に何年も鍛えてきた自分が簡単に対処されるだなんて。

 そのせいだったのかもしれない。普段ならば常に注意している筈の銃を握っていた指先に力が入ってしまったのは。その先には未奈がいた。


    バンッ!


 ――鳴り響いたのは銃声

 

 ――立ち上るのは焦げ臭い硝煙


 ――静かに落ちるのは輝く薬莢


 ――聞こえてくるのは苦い悶絶



「あ・・・っがぁ・・・!」


 男は地面に押さえつけられ右腕を無理やり上方へと捻られる。その手から放たれた銃弾は空高くへと消え去り、腕の激痛のせいで手からは銃がこぼれ落ちる。

 もしかすると余りの勢いで肩が脱臼しているかもしれない。


「悪いが亮輔に会わせてもらうまでこいつの命は保証できねえ」


 先ほど男が握っていたナイフを奪い、男の首へと押し付けている。その首からはうっすらと血が滲んでいる。


「この野郎っ!」


 そう叫びながらも構えている銃のトリガーを引くことが出来ない。渉斗の言う通り取り押さえられた男の命は渉斗の手の内にある。



 しばしの沈黙が生まれる。一歩間違えればお互いに命を落としかねない。未奈だけが例外的に能天気だったが。


 しかし沈黙は一人の人物に破られる。


「銃を下ろせ!手を出すな!」


 低くも威厳にあふれた声。若干前よりも低くなっているが間違いなく三雲亮輔その人の声だった。


 渉斗も気づいたのだろう。亮輔を一点に睨みつけながら持っていたナイフを投げ捨てる。


 二人は互いに睨み合いながら全速力で走る


 そして互いに手の届く距離まで到達すると―――殴った


 一瞬だが亮輔の方が早くその拳を放った。丸太のようなその剛腕からは見た目通りの突風が起きそうなパワーで渉斗を捉える。

 それを見切った渉斗は僅かに首を傾けると剛腕は彼の顔を掠めながら過ぎ去った。


 一瞬だが渉斗の方が遅くその拳を放った。見た目からは見当が付かないほどの速さと鋭さを兼ね備えた拳が亮輔を捉える。

 それを直感で見切った亮輔は顔面に素早く自らの手を構えると拳は吸い付くように掌へと納まった。


 そして互いの拳を―――――握り合った


「お久しぶりです!渉斗さん!!」


「随分と強くなったな、亮輔!」


 互いに抱き合いながら共に笑い合っている。傍から見れば大人と子供が話し合っているようだったが二人には歳の壁なんてものは存在しない。


「いやー、それにしても本当にお久しぶりです!前に会ったのは・・・・・・もう6、7年くらい前ですか!」


(こっちじゃそんなに経ってるのか・・・・こりゃあ下手に話せねえぞ)


 自分の正体をあまり話したくない渉斗にとってその時間差が生む認識の差は、誤差では済まないであろう差となる。

 渉斗は内心、亮輔になら真実を説明してもいいのでは?という迷いに走ったが、その思考は解決することなく遮られる。


「どうぞこんな場所じゃく中に入ってください!未奈さんもどうぞ!」


「わたし?]


「ははっ、相変わらずですね。・・・・・・・おい、何やってんだよお前。ったく、肩貸せ」


 初めて会った亮輔にきょとんとした表情をみせた未奈の対応も正しいが、恐らくこちらの亮輔は既に未奈と知り合っているのだろう。彼女の性格が幸いにもボロを出さずに済んだ。

 亮輔は視界の端でうずくまっていた男―――自らの部下の肩に手を絡めると思い切り部下の腕を捻った。するとゴキッという鈍い音と共に部下の手が生き返ったが如く動いた。


「では!どうぞこちらへ!」


 亮輔は満面の笑みで二人を連れて鳴山クラウンへと入って行った。


 ――――――――――


「それでは改めまして!お久しぶりで、お二人とも!」


 亮輔がそう言った瞬間、彼の後ろに控えていた部下達も一斉に足を揃えて敬礼をする。


 二人が連れてこられたのは恐らく応接室。これといった豪華な調度品がある訳ではないが、ソファが対面式に置かれているという最低限の体裁は残っている。

 外とは違い鳴山クラウン内はとても清潔的だった。流石に経営されていた時代ほどではないがこの状況を考えれば十分のものだろう。


「あ、ああ。久しぶりだな。本当に。」


 渉斗からしてみればつい昨日会ったあった人物に言われて違和感を感じずにはいられないが、正体を隠している身で「昨日会ったじゃないか」だなんて言えるはずがない。


 一通り身の上話を終えたところで既に渉斗の心は疲れ切っていた。

 正直、知るはずもない話に合わせるのがここまで大変だとは思わなかった。


 ここで、亮輔も一段落着いたと出された飲み物を一口飲み、改めて渉斗の方へと向きなす。

 亮輔の雰囲気が変わったのを感じ取った渉斗は一人覚悟を決める。


「まあ、ここまで話してなんですけど・・・・・単刀直入に聞きます。渉斗さんと未奈さん、なんでそんなに若いんすか?」


 心臓を刺されたような感覚に陥る。聞かれるのは分かっていたし覚悟は決めていたがそれでも緊張せずにはいられなかった。


「ああ・・・・お前にはちゃんと言わなきゃだな。悪いが後ろの奴らは下がってくれるか?」


 亮輔は後ろに控えている部下達に目配せで退室するよう促す。部下達はそれに従い部屋から退室していく。


「ありがとう。そんで、何で若いかって話だったな。それは――――」



  先ほどまで何度も何度も繰り返し熟考してきた。亮輔に真実を伝えるべきか、否か


  亮輔は信頼し得る人物としてこの未来の世界で初めてコンタクトできた人物だ。


  彼に真実を言えば彼はどう反応するだろう。果たして信じてくれるのか?


  彼に偽りを言えば今後にどう影響するだろう。言うとしたらどう偽ればいい?



  渉斗は熟考した。伝えるべきは


    真実か、偽りか



「――――俺達はとある事件に巻き込まれてな。そのせいで若いまんまなんだよ」



  ―――否、偽りである



 まあ亮輔(27歳)が渉斗(17歳)に敬語使ってたら周りからは不思議がられますよね、普通。

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